シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-23

 伏せカードがあるとはいえ、モンスターを一切増やす事なくターンエンド。
 カードをドローする戒斗だが、全く理解できない。
 治輝の行動が、今の戒斗には理解できない。

「まさかと思うが、投げたわけじゃねェだろうなァ……?」
「……」

 沈黙。
 治輝はそのまま黙って、ラビエルと対峙するデコイドラゴンを見つめている。
 そして一度瞬きをすると、その視線を更に後ろにいる……かづなに向けた。

「なぁ、戒斗……俺は思うんだ」

 治輝が、ゆっくりと口を開いた。
 先程烈火の如く戒斗を攻め立て、ライフを削り切ろうとした人間の声とは思えない。
 まるで別人のような、でも不思議とハッキリと聞こえてくる声。

「本当に追い詰められた奴が落ち込んだり、悩んだりした時……何を言っても、届かないんじゃないかって」
「……そうかもしれねェな」

 意外にも、戒斗はその言葉に対しては同意の意を示す。
 いやむしろ、戒斗だからこそ同意できたのかもしれない。

「中には、何か有り触れた言葉を言ってもらって、すぐに立ち直れる強い人も確かに居る」
「ちげェな、強いんじゃねェ。ソイツはただ誰かに後押ししてもらいてェたいの臆病モンだ」
「……かもしれないな。だけど本当に心が駄目になっちまった奴は、それすらも出来なくなる」

 戒斗には、治輝の言わんとしている事が全く掴めない。
 共感を誘っての泣き落としか?それとも……。

「心の闇だとか、幻魔による増幅だとか……そういう事は俺にはわからない。でも、今のかづなは『そういう状態』に似ているんじゃないのか?」
「……だから諦めますって事かァ。随分と潔いじゃねェの」

 失望と侮りが混じったような声と顔を、戒斗は治輝に向ける。
 治輝の顔は、未だにかづなに向いたままだ。

「……」

 戒斗は今度こそ治輝に失望した。
 結局はコイツも、今までに出会った奴等と同じだ。
 なんだかんだと理由を付け、どんなに大事な奴だろうが手を差し伸べる事を投げ出す。
 やはり、俺は間違っちゃァいなかった。

 ――弱いのは罪だ。力が無ければ、この世界に生きる資格なんてねェんだ。

「バトルフェイズ。もうアンタに興味はねェ……<幻魔皇ラビエル>!そこのチビを粉砕しろォ!」

 戒斗の指示でラビエルは、デコイドラゴンに向かってその巨大な拳を大きく振りかぶる。
 それを知ってか知らずか、治輝はかづなの頭を軽く二度叩いた。

 ぽん、ぽん

 今度は慎重に、痛がらないように。
 その感覚を噛み締めるように、治輝は拳を握り締める。
 その後、体を戒斗に向かって横向きにしながら睨み付け……高々に宣言する。

「――罠カード、発動!」

 幻魔の咆哮と重なったその叫びは、戒斗には届かない。
 その時目が潤み切っている<デコイドラゴン>が「きゅぃぃ!」と叫んだ。
 その瞬間……

 地面から突如、噴水のように水が上昇していく。
 瞬時に凍りついたその水流にひびが入り、青白い美しい龍が飛び出して来た。

 そう。
 戒斗のラビエルに倒された<青氷の白夜龍>が
 <デコイドラゴン>の効果で、再び攻撃表示で復活する。

《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)/White Night Dragon》 †

効果モンスター
星8/水属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードを対象にする魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、
自分フィールド上に存在する魔法または罠カード1枚を墓地に送る事で、
このカードに攻撃対象を変更する事ができる。

「はッ、ソイツを選んだか……確かに攻撃力は一番優秀だが、どうせ負けるんならお気にの<レヴァテイン>を選んで散った方が美しかったんじゃねェのォ?」
「……」

 そう言いながらも、戒斗は冷静に状況を分析する。
 もし仮に、治輝が勝負を諦めていなかった場合……確実にここに何かを仕掛けてくる。
 そして攻撃力の高い<青氷の白夜龍>を選んだという事は、なんらかのカードで<幻魔皇ラビエル>の攻撃力を凌駕、もしくは減少して迎撃するのが狙いかもしれない。
 だがしかし、それでも戒斗は自分の勝利を確信している。

このターンドローしたカードは……<収縮> 

《収縮(しゅうしゅく)/Shrink》 †

速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

 ……これがある限り、アイツが攻撃力を上げても、無駄にしかならねェ!

 ――ラビエル!
 戒斗の声が、度重なる衝撃による倒壊ですっかり広くなってしまった路地裏に大きく響いた。
 ラビエルの拳が、<デコイドラゴン>に狙いを付ける。
 デコイドラゴンはゆっくりと潤んでいた目を瞑り、小さな手で頭を抱える。

 次の瞬間。
 <幻魔皇ラビエル>の足元に向かっていく――青い影。
 <青氷の白夜龍>が、ラビエルの拳に凄まじい速度で飛翔していく。

「へッ、やられに来たか!」

 見れば<青氷の白夜龍>の美しい氷の体の多くには、砂のような物がこびりついている。
 戒斗がかづなに向けて巻き上げた砂埃が、生々しくカードに付着した結果だった。

「頼む、ブルーアイス!」

 治輝の言葉に反応して、<青氷の白夜龍>はラビエルの巨大な胴体を縫うように飛びながら、頭部に向かって上昇していく。
 氷の翼がラビエル体に少しずつ傷を付けていく……が。

 まだ、足りない。
 あれでは引っかき傷程度の物だ。ラビエルを倒すには至らない。
 遂に<青氷の白夜龍>がラビエルの頭部に辿り着く。
 そのまま間髪を入れず、ゼロ距離でブレスを……

「遅いなァ!振り払えラビエル!」

 幻魔皇ラビエルはその声に従い、振り上げていた拳を軽く解き、縦ではなく横になぎ払った。
 鈍重かと思われていた相手の、凄まじい速度の攻撃。
 <青氷の白夜龍>ブレスを吐くのを中断し、回避行動に移ったが……。

 パリィィン!と、ガラスの砕けるような音が鳴った。
 ラビエルの一撃によって
 <青氷の白夜龍>の美しい氷の片翼が、真っ二つに引き裂かれる。
 翼を失った<青氷の白夜龍>は重力に従い、そのまま地上に叩き落とされ……
 氷の片翼はその衝撃で大きく吹き飛ばされ、<デコイドラゴン>の近くに刺さった。

「きゅ、きゅい……」

 <デコイドラゴン>は先程とは打って変わり、恐怖とは別の感情で鳴いているように見えた。
 仲間を犠牲にしてしまった事への悲しみだろうか、それとも。

 ギャオオオオオオオオ!!と、<青氷の白夜龍>の咆哮が木霊する。
 その声は地に伏しても尚、<青氷の白夜龍>が健在である事を示している。

「……馬鹿な、なんで破壊されねェ!」

 困惑する戒斗。決闘盤を見て確認するも、治輝のLPも変動していない。
 そしてラビエルは主人の命令を待たず、再び<デコイドラゴン>に向かって拳を振り上げた。

「てめェ、何かしやがったな!」
「ああ、俺がさっき発動した罠カード。あれは<立ちはだかる強敵>だ」

《立(た)ちはだかる強敵(きょうてき)/Staunch Defender》 †

通常罠
相手の攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
発動ターン相手は選択したモンスターしか攻撃対象にできず、
全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければならない。

「コイツをデコイドラゴンに対して発動させた。よって<青氷の白龍>には攻撃は誘導せず、デコイドラゴンは、新たなドラゴンを墓地から呼び寄せる!」
「きゅ、きゅいい!」

 再び拳を振り上げたラビエルに恐怖し、泣き叫ぶ<デコイドラゴン>
 その効果で、墓地からモンスターが再び特殊召喚される。

《ダイヤモンド・ドラゴン/Hyozanryu》 †

通常モンスター
星7/光属性/ドラゴン族/攻2100/守2800
全身がダイヤモンドでできたドラゴン。まばゆい光で敵の目をくらませる。

 それを見た戒斗は、心底不機嫌そうな顔をする。
 ……ただの時間稼ぎだ。
 どんなにモンスターが出てこようが、最終的に殴られるのは<デコイドラゴン>
 アイツの発動した<立ちはだかる強敵>が、それを確定的にしてしまった。

「……総力戦ってわけかァ。いいぜェ、全部叩き潰して、その後にそのチビをぶん殴ってやる!」
「――ああ。勝負だ戒斗!!」

 ラビエルの振り上げた拳が、再び<デコイドラゴン>に向かって振り下ろされる。
 <ダイヤモンド・ドラゴン>はその拳からデコイドラゴンを守るように、上空に飛び上がった。

【治輝LP200】 手札3枚
場:デコイドラゴン(守備) ダイヤモンド・ドラゴン(守備) 青氷の白夜龍
  伏せカード2枚 エンジェルリフト (立ちはだかる強敵発動中)

【戒斗LP1600】 手札2枚
場:幻魔皇ラビエル
  伏せカード1枚 メテオストライク