シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-24

 ポン、ポン

 頭に、うっすらと何かが触れた感じがした。
 懐かしいような、つい最近してもらったような。

 ポン、ポン

 そんなくすぐったいような感覚が引き金になって、私の視界はうっすらだけど、現実の世界に戻る。
 もう、頭に響く『あの声』は聞きたくない。
 私が本当に駄目な人間だって事くらい、もう十分にわかったんだから。

 目の前に光が漏れてくる。現実の世界の光景が、うっすらだけど目に映る。

 ――戒斗って人と、なお君が戦っていた。

 でも、それを視ても何も感じない。感じる事ができない。
 あんなになお君は辛そうなのに、私の心は何も感じようとせず……。
 私の目は、あるモンスターに釘付けだった。

 <デコイドラゴン>

 あの小さなドラゴンを守ろうと飛び出した<青氷の白夜龍>
 凄まじい攻撃を<幻魔皇ラビエル>に仕掛けたけれど、翼を折られてしまった。

 次に、<ダイヤモンド・ドラゴン>が現れ、上昇していった。
 向かってくる拳から<デコイドラゴン>を守る為に、少し飛び上がった後に鉱石の翼をたたみ、身を守るポーズを取った。

 ――あれは、私だ。

 ラビエルの拳が<ダイヤモンド・ドラゴン>に直撃した。
 体を必死に堅くしようが
 幾ら体が宝石出来ていようが
 幻魔皇ラビエルの圧倒的な力は、その程度では止められない。

 ――みんなに守られる事しかできなくて

 <ダイヤモンド・ドラゴン>の左半身が、粉々に吹き飛んだ。
 辛うじて形を保っていた片角が、デコイドラゴンの少し後方に刺さる。
 鉱石で出来た体だからなのか、生身の体とは性質が違うのか。<ダイヤモンド・ドラゴン>はどうにか命を保っている。
 だが、<青氷の白夜龍>と同じように地上に叩き付けられた<ダイヤモンド・ドラゴン>は
体の殆ど失い、もう既に虫の息のように見える。

 ――その恩返しをする事もできなくて

 きゅぃぃ!!と、デコイドラゴンが鳴き声を上げる。
 <ダイヤモンド・ドラゴン>の痛々しい姿に……何度も、何度も泣きながら呼びかける。
 あの光景を見ていると、お母さんの事を思い出してしまう。

 ――ただ、泣く事しかできなくて

 ラビエルの拳が<ダイヤモンド・ドラゴン>を砕いた勢いを殺さずに
 <デコイドラゴン>へと振り下ろされていく。
 その時、閃光から巨大な剣が現れ…ソレを覆うようにこびり付いていた影から、巨大な竜が象られた。
 <ドラグニティアームズ・レヴァテイン>だろうか。
 その大剣を、両手で支えるように持ち……
 ラビエルの拳と、接触

 凄まじい力に、レヴァテインはガクンと下に圧力を受け、剣に小さなヒビが入る。
 奇跡的に、何とか持ちこたえているように見えた。
 だが数秒と経たずに、レヴァテインの体はジリジリと少しずつ押し下げられていく。

 ――わたしがデコイドラゴンなら、なお君はレヴァテインなのかもしれない。

 身を挺して守ってくれる、なお君。
 助けてもらってばかりで、何にも役に立てない、私。

 次の瞬間
 <レヴァテイン>の剣が、真っ二つに折れた。
 その衝撃で<レヴァテイン>は吹き飛ばされ、折れた剣はデコイドラゴンの傍に深々と刺さる。











(……何もかも犠牲にして生き延びた気分はどうだァ?)

 戒斗の声が聞こえてきた。
 これは<デコイドラゴン>に向かって言った言葉だろうか?
 ううん、きっとこれはもう、私に言ってるんだ。

(ほら、みんなに守ってもらったんだろォ?だったら他の奴等を守ってみろよォ!)

 私だってそうしたい――そうしたいのに。

(――終わりだ!天界蹂躙拳!!)

 ラビエルの拳が<デコイドラゴン>を捉える。
 そしてその近くにいる……なお君。
 早く逃げて、そのままじゃ死んじゃう。

「きゅいぃ……」

 ――逃げてよ

「きゅぃ……!」

 ――やだよ

「きゅいいいい!!!」


 ――やめてよぉぉぉぉぉ!!!


 ラビエルの拳が
 神をも滅ぼしかねない必殺の一撃が

 デコイドラゴンとなお君の居た『ところ』に
 隕石のように降り注いだ。