シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-01

 ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい……。

 謝罪と感謝を直に伝えてくれる言葉を、かづなはあれから何度もぶつけてくれた。
 俺は日常的に使われるはずのそれらの言葉を、もう随分と使っていなかった気がする。
 子供の頃はすんなりと言えたはずなのに
 今はその言葉を発するのに随分と抵抗を感じるようになってしまった。

 だからこそ、かづなの言葉を聞いて、素直に「羨ましい」と思った。
 ふざけ半分でも、上辺だけの取り繕いでも無い、感謝と謝罪の言葉を伝えられるかづなの事を。
 些細な事かもしれないけど、本当に羨ましいと思ったんだ。



















遊戯王オリジナル episode-1


 ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。
 思い入れのあったそんなやり取りも、いつまでも続けるわけにはいかない。
 お互いが疲れてしまうし、何よりこっちは居候の身だ。
 どんなに恩義を感じてくれたとしても、その事実は変わらない。
 結局、怪我が治る一週間前後の間は、半ば無理やりこの家に監禁……
 ――ではなく休養させてもらっていたわけだし、その恩を忘れるわけにはいかない。
 わかってる、それはわかってるんだ。













『美少女戦士ゼーラームーン!魔性の月に代わってお仕置きよ!』
「わーい!」
「……なんだよこの番組誰得!?」

 礼儀正しく床に正座をしてかづなが注視しているのは、どうやら魔法少女物のアニメらしい。
 その名も『美少女戦士ゼーラームーン』
 かづな曰く

遊戯王カードに存在する『ゼラ伝説』にあやかって作ったアニメで、ゼラに選ばれた主人公達がデビルモードとゼラートモード等の多彩なモード変化を使いこなし、宿敵である漆黒の魔王を倒しに倒し抜く超熱血系青春アニメなんですよ!」

 という事らしい。
 画面を見ると、何故か夕日の下で少女達が殴り合っていた。
 その後満足そうな顔で和解、全員で夕日に向かって走り出していく。漆黒の魔王はどうした。

「ポチっとな」
 迷わず無言でリモコンを操作。番組を他の局に変えた。
 丁度流れていたのか、モンスターフィギュアコレクションのCMが流れ始める。まさに俺得。

「おぉ、やっぱりタイラント・ドラゴンはかっけーなぁ」
「そうですねー」
「あぁ、この黒々しいフォルムと質感が……どふ!」
 ごごぽかーん!と、甲高い音が鳴り響いた。地味に痛い。
 頭を抑えながら上を見ると、雪平鍋を握り締めたかづながこちらを見下ろしていた。地味に怖い。

「……今のは痛かったぞ」
「チャンネル変えた罰です。あんな感動のシーンで消すとか有り得ないです!」
「感……動?」

 どうやらこの子とは価値観が致命的に合わないようだ。
 ある意味感動はしたが、それはかづなが言った感動とは完全に別物だろう。

「さぁ、チャンネル返してください!あいるびーばっく!」
「それ多分用法違うから!……あぁもう、こうなったら勝負で決めよう」
「決闘なんかしてたら、時間がないです!」
「あぁ、だからジャンケンだ!」

 なるほど受けて立ちます!とかづなは腕をぶんぶん振り回し始める。
 だが、ジャンケンは運や気合で勝てる程甘いスポーツではない。

 勝つのは智略走り、他人出し抜ける者……!
 それがわかっていない奴に、負けるわけにはいかない。
 俺は、この勝負に、この拳に……全てを賭ける!

 ジャン!ケン!

 ――ポン!




 手を出した瞬間、場が静まり返った。
 かづなの手は、白煙に包まれまだ見えない。
 ……が、相手の手が何であろうと関係ない。俺の勝ちは揺るがない!
 視界がクリアになり、二人の手が完全に見えた。

 かづなは目を見開いた。俺の出した手に、驚いているようだった。
 チョキの型にさらに親指を伸ばした、全く新しい型。

 握られた小指と薬指がグーを表し。

 親指と人差し指でチョキを模し。

 伸ばした三本の指でパーを司る。

 ――――これが俺の奥義、エターナルぐっちょっぱ……







 ごごポカーン
 脳内の台詞が、頭部への衝撃で中断される。
 奪われるリモコンの感触を確かめながら、意識が遠くなっていく。

 ……そういや、今日はカードショップに行く日だったな。
 タイラント・ドラゴンのフィギュアは絶対にゲットするぞ!と思いつつも、俺は冷たい床へと倒れる事となった。