シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-02

 そもそも、何故カードショップに行く事になったのか。
 それは前回、戒斗と戦った時に酷く力不足を感じたからだ。

 アイツの操る『幻魔』と呼ばれるカード。
 それが発していた、今思い出しても怖気が走る程の圧迫感。
 確かに前回は勝つ事が出来た……が、あれは不意打ちといってもいい勝ち方だ。
 何度も成功するようなコンボではない上に、アイツに二度通用するとは思えない。

 戒斗なら、確実に対策を練ってくる。
 ならば、幻魔と同等……とまでは行かずとも、抗う為の新しい力が必要だ。
 そう思って、必要なカードを探りに来たのである。

 だが、戒斗は「しばらく行動を控える」とも言っていた。
 それを信用するのは危険な気もするが、「あれは嘘ではないな」と治輝は思う。
 理由は色々あるが、最終的には勘だとか、なんとなくだとか、そういう類の物だ。

 でも、だからと言って何もしないわけにはいかない。

 どの道戒斗とは、いつかは戦う事になる。
 そして同等の力を持つ『ペイン』が出て来ないとも限らない。
 だからこそ、戦力強化は必要だ。
 それにディスクと『リストバンド』の修理もしなければならない。

 治輝はゆっくりと右手を上げ、ボロボロになったリストバンドを見つめる。
 今日は右が長袖、左が半袖といった変わった服を着ている為、他人からはボロボロになっている事はわからないはずだが……それでも、早く修理する事に越した事は無い。

「聞いてますか、なお君」

 隣から、かづながひょいっと目の前に現れ。顔覗き込んで来る。
 今日はTシャツにキュロットを自然に着こなした、軽めの服装だ。
 ちなみに鍋は持っていない。

「……あんな意味不明のアニメより、ニュースとか見た方がためになるだろ。色々と」
「まだそんな事を!怪我は万病の元。病み上がりにニュースは体に毒です!」
「問題はそこなのか……」

 かづなは指をこちらに差し、得意そうに自分の理屈を語っているが、その中身は相変わらず滅茶苦茶だ。
 今朝の鍋の件といい、このところ性格も変わったんじゃないかと思ったが
 もしかすると、こっちの性格が素なのかもしれない。
 きっと長く顔を付き合わせて、人見知りの粋を脱したとか、そんな理由だろう。
 尤も、初対面でも十分変な子ではあったのだが

「聞いてますか、なお君」
「まずはニュースが体に毒だっていう医学的根拠を教えてくれ」
「そうじゃないです。着きましたよ!」

 見上げてみると、確かにカードショップらしき趣の店が目の前にあった。いつの間に。
 用があるのは2Fのシングルコーナーなので、外にある階段を登っていく。
 タン。タン。タン。
 登る度に、小気味のいい金属音が聞こえてくる。
 それに続いて、かづなも後ろからひょこひょこと付いて来る。金属音は少し軽めだった。
 階段を登り切ると、目の前に青空が広がっていた。

「わぁ……」
 かづなもそれに気付き、タンタン。と音を響かせながら治輝の隣までやってくる。
 都内の2階から広がる景色は、観光スポットのように綺麗なものではない。
 それでも、ここの所曇りがちな空に見慣れていた二人にとっては、とても爽やかな景色に見えた。

「雲一つ無い青空だなぁ、キレイだなぁ」
 はしゃぐかづなは、一面に広がる青空の、一番キレイな部分から目を離さない。
「……」
 そして黙りながら治輝は、その青空の隅。少し濃い雲がこちらに向かっているのを眺めていた。

 ふと、治輝は空から視線を下に下ろし、見慣れた公園に目を向ける。
 かづなと初めて出会った、あの公園だ。
 俺の目には殆ど見えないが、目がいい奴なら……ここから公園の様子がわかるんだろうか?

「まぁうん、とりあえず入るか」
「……って、待ってくださいよ!」

 二人はそう言いながら
 足並みを全く揃えずに、カードショップに入っていった。







遊戯王オリジナル episode-2 オマケ



「―――で、何で殆ど一文無しのはずのなお君が1万円握ってるんですか?」
 しばらく別々にカードを散策していたのだが、合流した途端に治輝はかづなからジト目で睨まれる。

「いや、当たったカード売ったら凄い値段でさ……正直びっくりした」
「カードですか、何が当たったんです?」
「<Pot of Duality>ってカードだ。その買取が1万円だったから即売り飛ばしてきた」
「<Pot of Duality>……!?」

 かづなの顔一面に、驚きが浮かび上がる。
 この顔を見た治輝は「もしかして凄い強いカードだったのか?」と冷や汗を流した。
 幾ら英語が苦手とはいえ、効果がわからないまま売り払ったのはやはり早計だったか……!?

 かづなの口が、ゆっくりと開く。
 ゴクリと、治輝の喉がゆっくりと鳴る。














「―――なんでしょう、初めて聞くカード名です!」
「だよな!」

 効果はよく知りませんが、1万円ならそっちの方がいいですよ!
 だよな!……と、かづなと治輝は談笑しながらカード散策を続行する。

 彼等は知らない。
 そのカードは<強欲で謙虚な壷>

《強欲(ごうよく)で謙虚(けんきょ)な壺(つぼ)/Pot of Duality》 †

通常魔法
自分のデッキの上からカードを3枚めくり、
その中から1枚を選択して手札に加え、
残りのカードをデッキに戻す。
「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン自分は特殊召喚する事ができない。

 大抵のデッキに投入できる程の、強力カードだという事を。