シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-05

 自分の信念を曲げて
 自分の好きなカードを封印して
 ただ、勝つ為だけにデッキを組んだのに

 ……そのデッキが、負けた。
 悔しいのは勿論だが、僕の心には悔しさとは別の感情が渦巻いていた。

 ――受付番号12番のお客様。決闘盤調整カウンターまでお越しください――

 少し音質の濁った、店内のアナウンスが響き渡る。
 それを聞いた治輝さんは「やばっ」と言いながら、急いでカードを片付けると

「悪い、そろそろ行かないと!マッチ戦やりたかったところだけど、ごめんな!」
 そう僕に言い放ち、その場から立ち去ろうとする。
 どうやら先程のアナウンスで呼ばれたのは、治輝さんの事らしい。

「――あの!」

 自分でも驚く程の、大きな声が出た。
 今日何度も、淡々と決闘していた時と比べ、何倍も大きい声だ。
 治輝さんも想定外に大きい声を出した僕に驚いたのか、こちらを振り向いてくれる。

「ありがとうございました!」

 大げさな挙動で、思い切り頭を下げた。
 変な人だと思われるかもしれないけど、そんな事はどうでもいい。
 この人は、自分の好きなデッキを使って、僕のデッキを倒した。
 その事実が、僕の何かを許してくれるような気がしたんだ。

 好きなデッキを使ったって、強くなれる人もいるんだ――って
 強いカードを使ったって、強くなれるとは限らない――って

 そんな思いを知ってか知らずか、治輝さんは少し戸惑ったような顔を見せた後。

「こちらこそ、また機会があったら相手になってくれ!」
 と言い放ち、カウンターのある奥のフロアへと走り去っていった。




 ――少し前から行方不明になった兄さんを探す為に、僕は強くなりたかった。
 その為に、自分らしさを捨てて強くなる道を選んだ。

 でも、改めて考えればそれはおかしかったんだ。
 治輝さんがそうであったように
 兄さんも、自分の好きなカードで戦いつつも、凄く強い決闘者だった。
 炎属性のモンスターを巧みに操り、いつも燃えるような決闘を見せてくれた。

 兄さんの身に何が起こったのかはわからないけれど
 もし兄さんを探すなら、兄さんと同じ強さを持っていなきゃ嘘だ。
 好きなカードを使って、尚且つ勝てるようにならないと、同じ土俵には立てない。

「帰って、デッキをもう一度組み直そうっと」

 デッキを片付け、周りを見渡し、椅子の位置を元に戻す。
 普段と変わらない、日常的な光景。
 でも、今日の僕はその時間がとても楽しく感じられた。
 ……兄さんが行方不明だっていうのに、少し不謹慎かもしれないけど。

「今日戦ってくれた治輝さんには、本当感謝しないと」
 またいつか会えたら、今度は僕の……僕らしいデッキを見てもらおう!
 それはきっと、とても楽しい時間になる気がした。