シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-10

「ワシのターン、ドロー!」
 自身を象徴するモンスターを倒されても、声の主の気迫が揺るがない。

「ワシは<スクラップ・ビースト>を召喚!」

《スクラップ・ビースト/Scrap Beast》 †

チューナー(効果モンスター)
星4/地属性/獣族/攻1600/守1300
フィールド上に表側守備表示で存在する
このカードが攻撃対象に選択された場合、
バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊する。
このカードが「スクラップ」と名のついた
カードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・ビースト」以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

「更に、<リビングデッドの呼び声>を発動!<スクラップ・ドラゴン>を復活させる!」


《スクラップ・ドラゴン/Scrap Dragon》 †

シンクロ・効果モンスター
星8/地属性/ドラゴン族/攻2800/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを
1枚ずつ選択して発動する事ができる。
選択したカードを破壊する。
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、
シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

《リビングデッドの呼(よ)び声(ごえ)/Call of the Haunted》 †

永続罠(制限カード)
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 辺りに散乱している廃棄物が一つにまとまり、再び要塞はその姿を象る。
 治輝はそれを見て「まずいな……」と冷や汗を流した。

 あのドラゴンの強さは、倒された時の蘇生効果だけではない。
 むしろ真に強いのは、前半の効果――。

1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを
1枚ずつ選択して発動する事ができる。
選択したカードを破壊する。

自身の場のカード1枚と引き換えに、相手のカードを問答無用で一枚破壊することができるのだ。
加えて、先程召喚したモンスターは<スクラップ・ビースト>

このカードが「スクラップ」と名のついた
カードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・ビースト」以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 このカードを<スクラップ・ドラゴン>で破壊すれば
 効果で墓地の<スクラップ>モンスターを回収する事ができる。
 つまり、実質ノーコストでこちらの<タイラント・ドラゴン>を破壊できるという事だ。
 そうやって、治輝が相手の戦術を予想していると。

「ワシは<ユニオン・アタック>を発動!ワシの攻撃力を4400にUPする!」
「……!?」

《ユニオン・アタック/Union Attack》 †

通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのバトルフェイズ中、選択したモンスターの攻撃力は、
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する他のモンスターの攻撃力の合計分アップする。
このモンスターは相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える事はできない。
また、他の表側攻撃表示モンスターはこのターン攻撃をする事ができない。

「バトルだ。小僧の<タイラント・ドラゴン>に攻撃!」

 要塞の先端の竜を模した首が、再び治輝のモンスターに銀色のブレスを吐き出した。
 <タイラント・ドラゴン>はたまらず粉々に破壊されてしまう。
 だが<ユニオンアタック>の効果で、治輝のライフには傷が付かない。
 治輝はその攻撃の跡を少し不機嫌そうな表情で見つめながら、目を閉じた。

「……」
「これで貴様の自慢のドラゴンは倒した。次は小僧、貴様の番だ!」
「なぁ、一ついいか」
「なんだ?命乞いなら――」

「――なんで、<スクラップ・ドラゴン>の破壊効果を使わなかったんだ?」

 <ユニオン・アタック>に頼らずとも
 <タイラント・ドラゴン>と<スクラップ・ビースト>を対象に破壊効果を使えば
 <スクラップ・ドラゴン>のダイレクトアタックで、勝ちに行く事も可能だったはずだ。

 それを聞いた声の主は、地響きのような低い声を漏らした。
 本当に地面が揺らいだような感覚に陥ったかづなは「わわっ」と体のバランスを崩した。

「貴様ら人間はいつもそうだな。ワシの前の主もそうだった」
「前の主……昔は人間に仕えていたのか?」
「そうだとも、貴様が持っているモンスターと同じようにな」

 そう言って、声の主は遥か上空から墓地に送られた<タイラント・ドラゴン>を一瞥する。
 かつての自分と、その姿を重ねたのかもしれない。

「前の主は確かに強かった。常に最良の選択をし、決闘に勝利を収めてきた」
「そりゃ凄い。是非見習いたいもんだ」
「だが、ワシはそれに耐えられなかった」
「なんでだよ。主人が強いに越した事はないだろ?」

 治輝のその言葉を聞いた声の主は
 真っ直ぐに治輝を睨み、目を更に鋭くした。

「――貴様等人間は『痛み』を感じたことはあるか?」
「……あるに決まってる」
「決まってる、か。ならばカードがそれを感じるかもしれない。と考えた事はあるか」
「カードが?」
「意外そうな声調、気に食わないな。所詮元はただの人工物、そう感じるのが普通かもしれないが」

 その話を聞いていたかづなは、声の主に少し共感してしまった。
 破壊されたこの子は痛かっただろうな、怖かっただろうな……
 と、決闘中にカードに感情移入してしまう事が度々あったからだ。
 その事を友達に言ったら大笑いされた上に才能がねーなと馬鹿にされたので、今でもよく覚えている。

「現にワシは破壊された時には痛みを感じる。それによって死ぬ事はないが、それは激痛だ」
「……痛いのが嫌だから主人と戦うのが嫌になったっていうのか?そりゃ幾らなんでも」
「違う、ワシ自身の痛みはどうでもいい」
「……?」

 治輝が疑問をぶつけようとすると
 声の主は息を大きく吸い込み呼吸を整え、言った。

「ワシの効果は、同胞を破壊してこそ真価を発揮する」
「そうだろうな。さっきの状況でもそれをやれば……」

「――つまり、ワシは同胞に激痛を与え続けて勝利してきた事になる」

 絶句。
 治輝は少しの間、言葉を紡ぐのをためらってしまった。
 コイツはカードだが、人間の言葉を喋る事ができる。
 その時点で本来異常な状態のだが、だからこそ考えが足りなかった。
 人間の言葉を操れるという事は、人間と同じように、悩み苦しむ事もあるのだと言う事だ。
 だが、それならコイツは

「同胞を苦しめた上での勝利など、何の価値がある?何の意味がある?」
「……」
「同胞を苦しめる為にワシが生まれてきたと言うのなら、ワシはその役割を拒絶する!受けいれぬ!それを強制させようとワシに挑んでくる人間共を、一人残らず撃退する!それがワシの今の生き方だ、誰にも否定はさせぬし、邪魔もさせぬ!」

 声の主のその叫びに呼応するように、要塞から鈍い咆哮が辺りに響き渡った。
 だから、味方のカードを破壊しなければならない自身の効果を使わなかったんだな……。

 治輝はその声を、言葉をゆっくりと噛み締める。
 何かを考えるように、そっと目を閉じる。

「……さぁ小僧、貴様のターンだ。ここから何ができるか見せてもらおう!」
「俺のターン、ドロー」
「……なおくん?」

 生気を失ったような顔でカードをドローする治輝を見て、かづなは心配そうな声を出した。
 だけど、その声は治輝自身の声と重ねって、治輝には届かない。

「スタンバイフェイズ、<ミンゲイドラゴン>を墓地から特殊召喚

《ミンゲイドラゴン/Totem Dragon》 †

効果モンスター
星2/地属性/ドラゴン族/攻 400/守 200
ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、
このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

「魔法カード<調和の宝札>を発動。<ガードオブ・フレムベル>を捨てる事で、カードを二枚ドロー」

《調和(ちょうわ)の宝札(ほうさつ)/Cards of Consonance》 †

通常魔法
手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 治輝は引いたカードを確認しながら、声の主がいるであろう要塞に顔を向けた。

「なぁ、アンタの効果で破壊された同胞。本当に苦しんでたのか?」
「貴様等人間には理解できぬだろうがな、してもらおうとも思わんが」





「――俺は、そうは思わない」

 かづなも声の主も、一瞬の間沈黙してしまう。
 前者はいつもと違う、別人のような声を発した治輝に驚いたから。
 後者は、何もわからない癖に何を言い出すんだ。という呆れから。

「……貴様に何がわかる。貴様はカードの心がわかるとでもいうのか」
「そんな高尚な人物に見えるか?ただの予想だよ」
「予想だと?」

治輝は軽く溜息のような息を吐き出すと、少し俯きながら、でも少し笑いながら言葉を続ける。

「どんなに苦くて痛い思いをする羽目になっても、最終的に墓地に行く事になっても」
「……」


「――そうしたことで残った奴等の背中を押せるなら、悪くないんじゃないか?」




「……それを、貴様等人間が言うのかああああああああ!!」

 治輝の言葉を聞いた声の主は、全身を震わせながら激昂した。
 その怒りに呼応したのか、辺りの小さな廃棄物がゆっくりと上空へと巻き上がっていく。

「それは貴様がワシ達をいいように使いたいが故に出てきた言葉だろう!?貴様の様に不愉快な決闘者は始めてだ。このまま粉々にしてくれる!」
「……そうかい、ならこっちが粉々になる前に粉にしてやるよ」

 かづなはその様子を見て、何とも言い表せないような感覚を感じていた。

「……なんだろう、この感じ」
 でも、その正体はわからない。
 そんなもやもやした気持ちを抱えたままかづなが前に一歩踏み出すと
 廃棄物で構成されていた足場が急に崩れた。慌てて体勢を立て直す、危ない危ない。

「今は決闘に集中しなくちゃ。がんばれなお君!」

【治輝LP2600】 手札4枚
場:ミンゲイドラゴン
  伏せカード1枚 <竜の逆鱗>

【声の主LP1500】 手札3枚
場:<スクラップ・ドラゴン>  <スクラップ・ビースト>
  <リビングデッドの呼び声>