シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-24

 閃光が地面を削りながら、凄まじい速度で迫ってくる。
 今回ばかりは――もう駄目かもしれない。かづなはそう思った。
 余りの眩しさに目を閉じて、来るべき衝撃に備える。
 
 痛いって思う暇はあるんだろうか。
 走馬灯とかを見る時間は、残っているんだろうか。

「――おねえちゃん!」

 だがその時、聞き覚えのある声が耳に届いた。
 驚いて目を開けると、かづなと<Dark Ruler>の放った閃光の間に割り込むように、先程の決闘でかづなが召喚した<氷結界の虎王-ドゥローレン>と、小さい女の子……七水が駆け込んでくる。
 決闘の途中で強制終了された為、不完全な状態で場に姿を現し、本来の持ち主である七水の元に一時的に戻ったのかもしれない。
 氷虎は眩い閃光の前に雪崩の様な氷壁を作り出し、Dark Rulerが放った衝撃を受け止める。

「七水ちゃん!?」
「おねえちゃんに……」

 七水は今にも割れそうな……たちどころにヒビが入り始めた氷の壁に手を触れ、意識を集中させた。
 その間にも突風のような衝撃に髪や衣服が激しく揺れ、飛んでくる子石が彼女の顔に傷を付ける。
 それでも、彼女の瞳は揺るがない。
 いや、それどころか

「かづなおねえちゃんに、手を――出すなあああああああああああ!!」
 
 彼女の絶叫に呼応するように、氷の壁の色がオーロラのような色に変色した。
 Dark Rulerが放った閃光の攻撃は未だに続いているが、それらを全て遮断している。
 先程まで入っていたヒビは嘘のようになくなり、氷の壁が割れる前兆は全て消えていた。

「七水ちゃん、どうして……」
「かづなおねえちゃんは、私に教えてくれた」

 七水は先程の決闘を思い返す。
 優しいと言ってくれた事、まだ大丈夫だと伝えてくれた事。
 
 そして、決闘を通じて……それを信じさせてくれた事。

「かづなおねえちゃん……私信じてみるよ。まずは病院のあの子と、ゆっくり話してみる」
「え、あ……うん!」
「それでもし、もし上手くいったらお礼を言わせて――――『ありがとう』って!」
「――うん、うん!」

 それを聞いたかづなは、こんな状態だというのに、自然と顔を綻ばせる。
 七水ちゃんはもう大丈夫だ。きっと友達と仲直りして、元の居場所に戻れる。
 今の笑顔と言葉を見て、心からそう思えた。
 だが、攻撃は未だに収まらない。
 その様子を眺めていたDark Rulerの主である愛城は、軽いため息を吐く。
 それは憂鬱のため息というよりは、むしろ

「貴方、いきなり割って入ってきて何のつもり?予定通りに物事が進まないと腹が立つのよね、私」

 愛城は、苛立ちを多分に孕んだ顔をしていた。
 指を七水の方に差し、その様を自分の僕へと見せ付ける。
 それに呼応するように、Dark Rulerの攻撃の威力が少しずつ増していく。
 今まで順調に攻撃を抑えていたかに見えた氷の壁は、再びピシピシと音を立て、ヒビが入り始める。
 
「あ……あぁぁぁぁぁぁ!?」
「貴方はサイコ決闘者、私はペイン、元々格が違うの……諦めなさい。少し力が強い程度で、意思の力を伴わせて多少増幅した程度で、その差は覆らない!」
「な、七水ちゃん!?もういいです、もう私はいいですから!」
「……駄目、かづなおねえちゃんは―――やらせ……!」

 氷の壁にヒビが入る度に、七水の手にも亀裂のような物が走っていく。
 それが視覚的な物なのか、それとも現実の物なのか、かづなにはわからない。
 でも、その度に七水が悲鳴を上げ、痛みに膝を折りそうな顔をしているのは、痛い程によくわかった。

「あ……あぁ……あああああああああ!!」

 もう、限界だった。
 これ以上、七水ちゃんを傷付けるわけにはいかない。
 そう思ったかづなはゆっくりと立ち上がり、七水の前に向かってゆっくりと歩いていく。

 ――――私が死んじゃったら、もう七水ちゃんは無理なんかしないよね?

 それが多分、一番の決断だ。
 スローモーションのように、ゆっくりとかづなの足が前へ、前へと七水に近付いていく。 
 
 だが、次の瞬間。
 突然、Dark Rulerが発していた攻撃の波動が収まった。
 ボロボロになった七水が倒れ、かづながそれを慌てて受け止める。
 それと同時に氷の壁も、氷結界の虎王の姿を四散して消えてしまった。

「安心するのはまだ早いわ、このカードは一瞬の間に二回攻撃する事ができる!」

 愛城がDark Rulerに向かって、再び攻撃の指令を下す。
 それと同時にDark Rulerが有する二つの口が大きく開き、周囲の空気とエネルギーを吸い込み始めた。










 その時。
 七水とそれを支えるかづなの前に、一人の人間が立ちはだかった。
 そしてその人は、一言だけ呟いた。

「……ごめん」

 今にも消えそうな、か弱い声だった。
 だからだろうか、かづなはそれが、治輝だという事に気付くのが遅れた。
 治輝の表情は影で見えず、何を考えているのかもわからない。
 そしてDark Rulerは奇妙な音を立てながら、特大の閃光を両口から発射する。
 先程七水が防いだ攻撃の3倍……4倍以上の大きさの攻撃を前に、治輝は更に小さく呟く。 

「――――」

 そして、その呟きをかき消すように、閃光が治輝に向かって発射された。
 かづなはそれを見て、顔面が蒼白になる。
 もう、なお君にリストバンドはない。
 ペインに対抗する唯一の手段である、特殊なリストバンドの力には頼れないんだ。
 つまりあれを受けたら、なお君は……

 なお君!と叫ぼうとしたが、喉に何かが張り付いたような感覚に襲われ、声が上手く出せない。
 そうしてる内に、光はなお君の元に辿り着く。
 私の大切な人を、ペインの閃光は、また奪い去っていく。