シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-27

「なお君が、木咲さんの喉を……?」

 かづなはその言葉を、無意識の内に反芻する。
 心の中はもうグチャグチャで、何を考えたらいいのかすら、わからない。
 愛城はそんなかづなを見て満足そうに、ダークルーラーの棘が無い部分に座り込む。

「でも変な話よね、私が喉を潰そうと水筒を使った時、彼こう言ったのよ?」

 昔を懐かしむような表情をした愛城は、顔を手で支えながら
 満面の笑顔を浮かべながら、こう言った。

「『夢を見てる奴の邪魔しかできないような奴には、俺はならない!』」

 治輝の声色を真似したかったのだろうか、勇ましい声を演じ、愛城はまるで劇団員のように声を震わせる。
 それを聞いた治輝は、顔を俯かせたまま拳を硬く握る。
 その様子を眺めていた愛城は、徐々に声のトーンを上げていく

「格好いいわよね、惚れちゃいそうな台詞よね!でもさぁ……」
「……」
「時枝君自身がそれを邪魔してる、夢を奪ってる!そんなんじゃ世話ないわよねええええええ!!!」

 その時、プツリと。
 何かが切れたような音が聞こえた。






「――――愛城ォォォォォォォ!!!!」

 憤怒の絶叫が、一陣の暴風となって周辺に轟いた。
 俯いている治輝の表情は影となって見えないが、硬く握り過ぎたその拳からは血が溢れている。
 そして次の瞬間、地下から出てきた無数の枝が辺り一面を覆い尽くした。
 枝が侵食していく勢いで、周辺の空気が小刻みに震え出す。
 次第に細かい枝は一つになる事で大きくなり、その中心から閃光が零れ出る。
 その輝きは剣の形を象り、輝きの中から出現した巨大な竜――<ドラグニティ・レヴァテイン>がそれを握り、そのまま愛城が乗っているDark Rulerへと突撃して行く。

「アハッ」

 ガキィィィィィィィン、と。
 対する愛城の僕であるDark Rulerは、その剣を右手の龍の口で悠々と受け止める。
 左手の龍の瞳はレヴァテインと睨み合い、互いに視線を逸らそうとしない。
 愛城は全く動じずに、むしろ嬉しそうに憤怒する治輝をDark Rulerの上から見下ろす。

「ねぇ、もう一度言ってみなさいよ。俺はお前とは違うって、言ってみなさいよ」
「……黙れ」

 ギリ、と。
 表情の見えない治輝から、歯軋りのような音が聞こえた。
 それを知ってか知らずか、愛城の声のトーンは徐々に上がっていく。

「言えないわよねぇ?あんな事をしておいて、私と同じような事をしておいて」
「黙れよ――」
「それでも、悔しいのなら言ってみなさいよ!さぁ、さぁさぁ!さぁさぁさぁさぁさぁ!」

「黙れえええええええええええええええ!!!」

 瞬間。
 背景が、二つに割れた。
 力を増したレヴァテインの剣が空を裂き、そして……。
 
 Dark Rulerの右腕が、龍の顔が、ボトリと地面に落ちる。

 予想以上の力に驚いたのか、愛城はDark Rulerと共に後に飛び退く。
 その顔には冷や汗が滲んでいた。

「――ッ、さすがにやるわね。でも、貴方の現実は変わらない」
「……」
「私も知ってるわよ。貴方が死ねば木咲が助かる事ぐらい……なら、貴方は何故自らの命を絶たないの?」
 
 その言葉を聞いた治輝は目を更に鋭く細め、愛城を睨み付ける。
 同時に右手首から発している赤い光が、より一層強く眩さを増した。

「俺が死んで、木咲が元に戻ったとして……おまえは何もしないのか?」
「――さぁ、どうでしょうね」
「木咲に何かするに決まってる、おまえはそういう奴だ」
「だから生きるってワケ?木咲を危険から守る為に、木咲を元に戻すのを拒み続けるの?」
「……」
「そんなのトんだ矛盾じゃない!アンタは結局、何かと理由をこじつけて生きていたいだけ!私を仮に倒したって、アンタはまた――」

 治輝はそこまで聞いて、フゥ……と深呼吸をした。ため息と言ってもいい。
 腰に手をやり、視線を下に向ける。

「悪いけどな、決心なら今日付いた」
「……は?今日ですって?」

 愛城は驚きというよりは、不意を付かれて呆気に取られたような声を出す
 治輝は俯きがちな姿勢をそのままに、だが同時に笑いながら淡々と言葉を紡いでいく。

「今日、ある奴に教えてもらったんだ。考えてみれば、簡単な話だったんだけどな」

 何故だろうか。
 その前フリを聞いて、かづなは酷く嫌な予感がした。
 この工場に来る前
 木咲さんと出会った病院の屋上で
 
「みんな笑って終われるのが、一番最高なんだ――って」

 私はなお君に、何て言ったんだっけ……?