シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-28

「なお君は、これからも木咲さんに影響を与えた『ペイン』を探すんですか?」
「いや、実を言うと――もう、目星は付いてるんだ」

 えっ、と声を出して、病院の屋上で私は戸惑う。
 少し下を向きながら話しているせいか、なお君の表情は見えない。
 何か考え事をしているような、何かに心を奪われているような、そんな声だった。
 その様子を元気がないように捉えた私は

「ならもう少しじゃないですか!その『ペイン』を倒せば、みんな笑ってハッピーエンドです!」

 元気を出して欲しいから、そう言った。
 月並みな慰めだけど、何も言わないよりはいいと思った。
 なお君はそれを聞きながら少し遠く眺める。そのまま流れる雲が散り散りになるのを見送った後に。

「――そうだな。みんな、笑ってくれるよな」

 少し憂いを残したような、でも何かを決意したような
 今までに見た事の無い表情のまま、なお君は笑った。
 同時に私も、ゆっくりと笑顔を作ったんだ。
 
 例え根拠がなくても、笑っていればきっといい事はある。
 そう、信じていたかったから。




遊戯王オリジナル episode-28


「お前の言う通り、俺は臆病者だった。一度試してみたが、もう少しの所で踏ん切りが付かなかった」

 何を試したの、とは聞けない。
 かづなは治輝の発言を聞き入れるのが精一杯で、何も考える事ができない。
 考えるのが、怖い、恐ろしい。

「でも、俺はもう迷わない。おまえを倒したら、その後は!」
「……そんな有り触れた言葉だけで、本当に『決心』なんてできたと思ってるの?馬鹿馬鹿しい」
「……」
「『決心した』なんて言ってる奴の台詞の大半は嘘よ!特に今貴方が口にしたような決心を実行した奴なんか、その1割にも満たない!生きるや死ぬって日頃叫んでる様な連中はただの構ってちゃんで、それと本当に向かい合う勇気なんてコレっぽちもないのよ!」

 その言葉とは裏腹に、愛城は信じられない物を見るような目で、治輝を睨み付ける。
 治輝は先程まで感じていた怒りを決意に変えて、その瞳から逃げようとしない。

「言葉だけで決心したわけじゃない、今の俺は本気で思ってるんだ」
「……」
「そうすることで、残った奴等の背中を押せるなら、悪くない――って」

 そう言い切った治輝の姿を、遠方から眺めている影があった。
 その影は治輝の言葉に、その身を震わせる。
 何かを、思い出すかのように。

「だから俺はお前を倒す、そして全ての決着を付ける!」
「――どうやら本気みたいね。いいわ、それは認めてあげる……でも」

 次の瞬間、愛城が乗っていたDark Rulerが光の粉となって消滅した。
 愛城が着地する寸前、地面が急激に盛り上がっていく。

 ズガアアアアアアアアアン!!

 轟音と共に凄まじい勢いの土煙が辺りを覆い尽くした。
 その中からうっすらと、巨大なモンスターの影が浮き上がっていく。
 治輝はその影を見て、忌々しそうに舌打ちをする。

「Light Ruler――やっぱソイツもお前のカードだったか」
「そういう事。私は貴方と心中する趣味はないの、悪いけどこの場は退かせてもらうわ」

 愛城がそう言い終えると、Light Rulerは急激に上昇していく。
 その腕はいつ何処で回収したのか、気絶した佐光を握っていた。
 
「また会いましょう、お馬鹿な英雄さん!」
「逃がすと思うか、俺は――!」

 治輝が走り出そうとしたその時

 パシッ、と。

 何者かに左手を掴まれた。
 キッと後ろを振り向くと、そこには見知った顔……。
 瞳が小刻みに揺れている、かづなの姿があった。
  

「なお、君……」
「……」

 治輝は、かづなの瞳をまともに見る事ができなかった。
 かづなは、治輝に何を言ったらいいのか、わからなかった。

 治輝は無言のまま、掴まれた左手をジっと見る。
 掴まれていない方の手首からは、未だに赤い光が発光している。

「……かづな」
「は、はい」

 治輝はその赤い光を見つめながら、ゆっくりと語りかける。
 この状態こそが、現実を示しているんだと言い聞かせながら。

「――――今まで、楽しかった」
「……え」

 その言葉に、かづなは反応する事ができない。
 その言葉の意味する物と向き合う事が、恐ろしくてできない。

 そうやって硬直したかづなの首に
 トンッ、と。手刀が振り下ろされた。
 鈍い痛みを感じ、かづなの意識は急激に暗闇に包まれていく。

「なお……くん……?何を――」

 かづなは、薄れ行く意識の中で、ギュッと拳を握る。
 ここで、意識を失っちゃいけない。
 そう自分に言い聞かせているのに、どんどん意識は沼の中へと沈んでいく。

「スド――――いるんだろ?かづなと七水を、家まで帰してやってくれ」

 薄れ行く意識の中、ぼんやりと声だけがかづなの頭の隅っこに届いてくる。
 治輝の斜め後方から、ふよふよと機械の龍……スドが浮遊しながら近付いてきた。
 
「……小僧、お前は大馬鹿者だ」
「最初から格好いいだなんて思っちゃいない。……俺は怖いんだ、きっと」
「もう、戻ってこないつもりか」
「会わせる顔がない。それにこれ以上会っても、コイツは辛いだけだろ」

 治輝はおどけた調子をスドに見せながら、声を震わせる。
 それと同時に<ドラグニティアームズ・レヴァテイン>の背中に乗り、レヴァテインはその翼を大きく広げた。
 飛び立つ前に、治輝は意識を失ったであろうかづなを改めてジッと見つめる。
 この場で気絶させる事を選ぶ事しかできないような俺が、果たして。
 みんな笑って終わりにする……なんて事ができるんだろうか?

「――――ごめんな、かづな」

 治輝は小さく、そう呟いた。
 レヴァテインは今度こそ大きな翼で、闇夜の空へと上昇していく。
 治輝は愛城が消えていった方角を、キッと睨み付けた。
 
 無理でも何でも、やり通してみせる。
 そう決意を新たに、レヴァテインは上空を飛翔していく。
 空がこんなに近い位置にいるのに、無限に広がっているはずの星達は、一つも見当たらなかった。