シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-37

 正面玄関の扉を空けると、無音の病院に風が吹き込んできた。
 風切り音と共に、肌に刺さるような冷気が体の体温を奪っていく。
 だが不思議と今は、それが心地良い。
 黙っているだけで、何かを考えるだけで、頭の奥がズキズキと痛みを発している。
 廃工場での一件以来、俺はあの時の事を考えてばかりだ。
 愛城があの時俺に言った言葉を、あの時起こった事を、壊れた再生テープのように繰り返す。
 そしてその後に至る結論は、いつも同じ。

 結局、俺は邪魔者なんじゃないだろうか?

 誰かの後押しになるような人間になりたかった。
 夢を追う奴の手助けができるような男になりたかった。
 でも結果として、木咲は俺のペインへの覚醒に巻き込まれて、夢を追う為に必要不可欠な声を失った。
 私らしくいつまでも歌い続けていきたい、そんなささやかな事を語った彼女の夢を、奪い去った。
 かづなに関してもそうだ。
 確かに、最初の一度は結果的に彼女を助けた。
 だが、他は違う。
 戒斗との戦いの時に、アイツがあんな状態に追い込まれたのは何故だ?
 廃工場で、アイツが危険な目にあったのは?殺されそうになったのは何故だ?

 全部、俺と一緒に居たせいじゃないか。

 誰かの背中を押しているような感覚にすがっても、誰かの足を引っ張る事しかできていない。
 そして俺が死ねば、木咲の喉は元に戻るかもしれないんだ。
 それら全ての要素が、俺に『死ね』と囁いて来る。
 考えないように生きていくのも、さすがに限界だ。
 歩く度に、何かを考える度に、体温が下がっていくような錯覚に襲われ、吐き気がしてくる。
 ……だが、これはこれで都合がいい。
 この感覚が続けば、愛城を倒した後に、殺した後に、決心が鈍る事は、ない。
「殺す、か」
 愛城は、まだ完全にペインになっていない。本来なら殺すのはやり過ぎだろう。
 だが、アイツが生きていればいつかまた木咲が襲われる。
 俺の関係者と見られるであろう、かづなの事も狙う可能性もある。
 それだけは、避けなければいけなかった。
 例え殺人者になろうと、殺す事で手が震えようと、それだけは。
 もし、それすらもやり遂げる事ができないのなら

 俺は本当の意味で、生きる意味がなくなってしまう。

 拳を硬く握り締め、空を見上げる。
 アイツ等のアジトはわかっている。傷も完全に癒えた、もう足踏みをする理由はない。
 そう決意し、決闘盤を展開しようとした瞬間。

「治輝センパーイ!」

 場に似つかわしくない、ユルい声が後ろから聞こえてきた。
「この声は純也か……?」
 今日は来るなと言っておいたはずなのに、何を考えてるんだアイツは。
 そう心中で呟きながら、後ろを振り返ると

「治輝さん……だよね」

 視線に入った純也の隣には、見覚えのある小柄な女の子が姿があった。