シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-39

「こりゃきっついな……」

 『ベイン』の本拠地であるビルの遥か上空。
 眼下に広がる光景を見た治輝は、戦慄を抑えながらもそう呟く。
 目的地であるビルの屋上には、無数のモンスターが上空を警備していた。
 大砲を放ってくるであろうサイコ・コマンダーの大群だ。軽く見積もっただけで500以上は数がいる。
 恐らく『ベイン』に所属しているサイコ決闘者が現界させているのだろうが……。
 あの数のサイキックモンスターを並べるには、それだけ多くの人間が、多くのサイコ決闘者が
 愛城の主張に賛同し、協力しなければ出来ないだろう。
「何で、あんな絵空事に従っちまうんだろうな」
 痛みを理解できない者は、痛みを一度その身に受ける必要がある。
 それはある意味では事実なのかもしれない。だが

「行くぜ、ミスティル」
 治輝は思考を中断し、白い息を吐き出した。
 前回は怒りに身を任せ、体調も体勢も万全でない状態で<ドラグニティアームズ・レヴァテイン>に乗って突っ込んだ結果返り討ちにされたが、今回は違う。
 乗っているのは<ドラグニティアームズ・ミスティル>
 レヴァテインと特徴が似ているモンスターだが、少し小柄な分小回りが効く。
 あの無数の大砲をかい潜るには、うってつけのモンスターだ。
 傷もほぼ治った、体調も完璧だ。それに絡め手も用意してある。
 だが、ミスは許されない。

 ズシャアアアアアアアアア!!

 そんな逡巡をかき消すように、屋上にある無数の点の一つから、巨大な閃光が発射された。
「ッ……、もう気付かれたか!?」
 ミスティルは半身を反らし、その弾道を素早く避ける。
 こうなった以上、突っ込むしかない。
 前回の戦いから治輝はそう判断し、ミスティルに視線で指示を送り、ビルに向かって突撃していった。
 

遊戯王オリジナル episode-39


「ミスティル、進路を変えてくれ!若干だが北北西の守りが甘い!!」
 風竜であるミスティルは、主人の指示に無言で頷き、ぐるりと右に旋回しながら進行方向を変えて行く。
 その間にも、無数の閃光が風竜に襲い掛かった。
 その攻撃をミスティルは、身体を捻り、針を通すような細かい動きで回避していく。
(直撃に耐えるのは、一回が限度だ……)
 寸での所を掠めていく攻撃に肝を冷やしながら、治輝は苦虫を噛み潰すような顔をして考える。
 本来、攻撃力2100である<ドラグニティアームズ・ミスティル>が、攻撃力の1400である<サイコ・コマンダー>の攻撃に怯える必要はない。
 だが、奴には厄介な効果がある。

《サイコ・コマンダー/Psychic Commander》 †

チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/サイキック族/攻1400/守 800
自分フィールド上に存在するサイキック族モンスターが戦闘を行う場合、
そのダメージステップ時に100の倍数のライフポイントを払って
発動する事ができる(最大500まで)。
このターンのエンドフェイズ時まで、戦闘を行う相手モンスター1体の
攻撃力・守備力は払った数値分ダウンする。

 一度直撃を受ければ、ミスティルの攻撃力は下がり、二度目の攻撃が当たった時に……。
 ミスティルは、破壊される。
 だからこそ、辿り着くまでに被弾は避けなければいけない。

「……なッ!?ミスティル、後ろだ!」

 突然。
 治輝は後ろから気配を感じた。
 指示を出し、それを聞いたミスティルは無理に身体を捻りその攻撃を回避しようとして……。

 直撃。

 痛みに鋭い咆哮を上げ、ミスティルの皮膚の一部分が赤黒く焦げ付いてしまった。
 たまらずミスティルは、たまらず顔を歪める。
「大丈夫か、ミスティル!?」
 治輝はミスティルに心配そうな声を出し、背中をゆっくりとさする。
 ビルからの攻撃だけを注意すればいい――そう思っていたが、誤算だった。
「コイツ等空も飛べるのかよ、反則だろ……?!」
 後方からビームを打ってきたのは、例に漏れず<サイコ・コマンダー>だった。
 戦車ごと不思議な力で浮いているようで、その数は徐々に増えつつある。
 このままだと囲まれてしまう、そうなったら一巻の終わりだ。
 どの道ミスティルは限界に近い、こうなったら――!
「ミスティル、一度上空へ行け!アレをやるぞ!」
 ミスティルは、主人の指令に無言で頷く。

 次の瞬間、ミスティルを中心に巨大な竜巻が出現した。

 近くにいたサイココマンダー達はバランスを崩し、その激しい旋風に視界を遮られてしまう。
 そして先程までとは段違いのスピードで、ミスティルは上空へ向かって飛翔した。
 人間が耐えられる限界を遥かに越えた速度で、ぐんぐんと速度と高度を上昇させていく。

 だが、それはただの自殺行為だ。

 ビルのサイココマンダー達の大砲は、その直線的な動きに合わせ無数の光の砲弾を発射。
 飛行したサイココマンダー部隊は、それを追うように上昇しながらビーム砲で狙いを定める。
 ミスティルは身体を酷使し急激な速度上昇を行った為、徐々にその速度を落としていく。
 失速したミスティルに、無数の閃光が覆い尽くす。
 全ての攻撃が、今ミスティルに集中していた。
 しかし、それらの攻撃が直撃する寸前。

 ミスティルの姿が、光の粒となって消滅した。

 破壊された時のエフェクトとも違うその『消滅』に、コマンダー達は困惑する。
 俺達の敵は何処へ行ったんだ?そう仲間達に問いかける。
 問いかけている、間に。

「超能力馬鹿達、少しは頭使ったらどうだ?」

 屋上の端にいたサイココマンダーは、人の声のような物を聞いた。
 そして次の瞬間、目の前に巨大な氷壁のようなモノがビルの下から現れる。
「折られた過去より来たり魔の枝よ、全ての痛みに害を成せ!来い、アームズ、レヴァテイン!!」
 
《ドラグニティアームズ-レヴァテイン/Dragunity Arma Leyvaten》 †

効果モンスター
星8/風属性/ドラゴン族/攻2600/守1200
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する
「ドラグニティ」と名のついたカードを装備したモンスター1体をゲームから除外し、
手札または墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
「ドラグニティアームズ-レヴァテイン」以外の
自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。
このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、
装備カード扱いとしてこのカードに装備されたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 氷壁のように見えたモノは、巨大な剣だった。 
 見間違えるのも無理はないだろう。それは屋上の直径よりも一回り大きかった。
 その巨大過ぎる剣を持ち、ビルの下から朱色の龍が現れる。
 そしてその龍の上には青年が、時枝治輝が凛然と立っていた。

「ミスティルを除外する事でレヴァテインは呼べるんだよ。基本戦術だろ?」
 驚愕しているコマンダーに向かって、治輝はそう言い放つ。
 ミスティルから飛び降りるのはマジで怖かったが、結果オーライだ。
 フィールドから除外されていれば、ミスティルがこれ以上傷付く事は、ない。

「覚悟しろ、その時間もやらないけどな!」

 コマンダー達がようやくレヴァテインと治輝に気付くと、一斉に集中砲火を浴びせようとチャージを始める。
 遠くからではわからなかったが、コマンダーの戦車には一定の充填時間が必要なようだ。
 レヴァテインはそれを好機と見て、巨大な氷の壁――船さえ両断できそうな青氷の剣を、横に構え……。

「薙ぎ、払えええええぇぇ!!」

 一閃。
 あらゆる障害物――<サイコ・コマンダー>を、青氷の剣は両断していく。

 ある者は足を
 ある者は手を
 ある者は首を

 身体の何処かを両断されたコマンダー達は破壊され、光の粒へと帰化していく。
 運良く両断されなかったコマンダーも、その衝撃の余波で粉々になっていく。

 治輝は、その様を見つめながら、集中をした。
 顔も知らない、大勢のサイコ決闘者達。
 こんな組織にすがる事しかできなかった。弱い人達。
 その人達の意識と共に、モンスター達を刈り取っていく。

「馬鹿野郎が――」

 恐らくその人達よりも弱かった頃の自分を思い出しながら
 その頃に比べ、成長できているのかも定かでない、今の自分を省みながら
 治輝はレヴァテインと共に、コマンダー達の死骸の上に降り立った。