シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-40

 屋上の敵は倒したが、上空にはまだ大勢の敵が残っている。
 治輝はレヴァテインを降りると、ビルの昇降口へ向かって駆け出した。
 その間にも飛翔する<サイコ・コマンダー>達が、ビルの屋上へと追いすがってくる。
 先程実行した、大剣で薙ぎ払うような荒業は空中の敵に対しては使えない。
 これ以上一人で、あの大群と戦闘するのは不可能なのだ。
 だから、急いでビルの中に滑り込まなくてはいけないのに。

 グラリ、と。
 治輝は、自分の視界が揺れるのを感じた。
 襲ってくる虚脱感と共に体中に力が入らなくなり、その場に座り込む。
 その間にも、上空の<サイコ・コマンダー>達が治輝に向かって追いすがってくる。

 だが次の瞬間、サイキックモンスター達の動きが止まった。
「……?」
 眩暈を感じつつも、治輝は状況を確認しようと体を起こす。
 目の前に、柱のような物が現れていた。
 黒光する柱はやがて辺り一帯を包み込み、天空に届いた光は雲を裂く。
 そしてその黒い光の中心から、声が聞こえてきた。

「『集中』を使い過ぎなんだよテメェは、あの量の敵を相手に手加減とか、正気の沙汰じゃねェ」

 その憎らしい声は、忘れようもない。
 幻魔皇ラビエルの使い手である……永洞戒斗、そのものだった。




遊戯王オリジナル episode-40


 ベインの総本山、そのビルの最上階。
 戒斗が召喚したラビエルに気圧されたのか、サイキックモンスター達の追っ手が来る事はなかった。
 治輝は眩暈に耐えるように頭を抑えながら、屋上へ続く階段へと座り込む。

「ありがとう、とでも言っておけばいいのか?戒斗」
「ふざけんな、気色ワリィ事言ってんじぇねェぞ」
 吐き捨てるように戒斗は礼の言葉を一蹴する。
 いつも通りの戒斗の様子にため息をつき、治輝は乱れていた呼吸を落ち着かせた。

「俺等ペインにとって『手加減』ってのは余程の集中力がねぇと難しい。集中を続けると、いつかテメェ自身が耐えられなくなる。そんな事はテメェも知ってるだろうが」
「……無関係な奴を殺すよりはマシだろ。ダメージを与える瞬間にだけ集中すれば、負担は幾つか減る」
「テメェ……」
 戒斗は苛立つ様な声をあげて、治輝の服の襟を掴んで立ちあがらせた。

「あの変な玩具から話は聞いた。テメェの目的は愛城を殺す事じゃねェのか?」
 変な玩具?――ああ、スドの事か。
 そう治輝は結論付けると、また一つため息をついた。
 アイツは余計な奴に、余計な事を。
 そう心の中で呟いてると、戒斗は声を荒げる。

「矛盾してんだよ今のテメェは。俺に正しさを説いた癖に、今のテメェは矛盾だらけじゃねぇか!」
「……」
「そんな様じゃ目的を果たすなんてェのは無理だ。愛城は俺に譲って、テメェは尻尾を巻いて帰るんだなァ」
「おまえも、愛城に用があるのか?」
「大した用じゃねェがな、どうやら……」
 少しの沈黙の後、戒斗は顔を大きく歪ませた。

「俺を虐げてた奴等は、どうやらアイツに誘導されていた節があるらしい」

 少しの、沈黙。
 治輝はその言葉を聞いて、驚愕した。
 アイツは木咲の件だけじゃなく、そんな事もやっていたのか。

「――と言っても、俺が弱かった事に変わりはねェ。原因が何であれ、俺が強ければああいう扱いを受ける事はなかった。だがなァ……」
「……」
「それで、はいそうですかってわけにはいかねェよなァ!?痛みに時効なんて物は存在しねェ、だから俺は愛城をボコしに来た!」

 そう言い切った戒斗は、本当に楽しそうな顔をしていた。
 だが、以前の狂気染みた表情とは少し違う……含みのある顔だ。
「テメェも覚悟を決めろよ。殺すなら殺せ!テメェは正義の味方なんだろ?だったらもっと一貫するべきじゃねェか?」
「……いや」
 そこまで聞いて、治輝は首襟を掴んでいる戒斗の手を強引に振り払った。
 体の軽い戒斗は後ろに軽く突き飛ばされつつも、体勢を整えニヤリとこちらを眺めてくる。
 そんな戒斗を、治輝は正面から睨み付け

「そんな一貫性なら、俺はいらない」
「……へェ」

 そう言った瞬間、体の感覚が少しずつ戻ってきた。
 もう、コイツと話す事は何も無い。
 助けてもらったのは感謝してるが、先を急ぐ理由も増えた。これ以上ここに留まる理由はない。
 治輝は戒斗から視線を反らし、戒斗の横を早足で通り抜けようとして……

「待てよ」

 真横で短く、戒斗に呼び止められた。
 治輝は戒斗に顔を向けずに、立ち止まる。

「なんだよ」
「テメェ、愛城を殺した後にイく気なんだろ?だったらその前に俺の所に来い」
「……」
介錯くらいは手伝ってやるよ。俺流のやり方でなァ」
「……いいぜ、前回は1勝1敗だったからな。最後に決着を付けるのも、悪くない」
 そう言って治輝は今度こそ、戒斗の横を走り抜けていった。


 同級生が居なくなった事を確認すると、戒斗は「ククッ」と不気味に笑いながら呟く。
 愛城を先に探し出すのは勿論この俺だが、万が一先を越されても、それはそれで面白いかもしれない。
 愛城が勝ったとして、疲弊した所を畳み掛ければ決闘は楽になる。
 そして仮に治輝のヤロォが愛城を倒せたとしても、それはそれで面白いかもしれない。

 しかし、直接言わずとも『決着』という答えを導いてきた事にはさすがに驚嘆を覚えた。
「相変わらず察しがいいなァ、治輝クンよぉ」
 ククッ、とまた笑い声が漏れる。
 さすがは『同級生』と言った所だろうか、俺の考えてる事はお見通しか。
 もっとも

「あれじゃ『半分』しか正解してないけどなァ……」

 戒斗の口が、大きく歪む。
 その三日月のように歪む口は、しばらく不気味な笑い声を発し続けた。