シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-41

 ビルの中は、予想と反して静かな物だった。
 所々にあるオフィスのような空間には、機械的な椅子の上に何人ものサイコ決闘者が座りながら気絶しており、頭に宇宙服のような物を装着していた。
 恐らく、先程のサイキック部隊の主人達なのだろうな……と、治輝は結論付ける。
 呼吸の音が聞こえてくる。幸いまだ息はあるようだった。

 治輝は全ての部屋を確認しながら、下へ下へと降りていく。
 余りにも静か過ぎた。追っ手の一つも現れる事はなかった。
 ニュースやTVでは騒がれてはいたが、もしかすると『ベイン』というのは、想像よりも小さい組織だったのかもしれない。
「全く、組織のトップは最上階でふんぞり返ってるのがセオリーじゃないのかよ……」
 愛城の居場所が全く掴めないので、どうでもいい事を呟いてしまう。
 正面玄関から突入せずに、いきなり最上階から突っ込んだ自分も相当アレなのだが、それは置いておこう。

 そんな事を考えていると、少し場が開けた階層に到着した。
 天井は先程までの階より遥かに高い、目測でも2,3階分の高さを有している場所だった。
 この階層だけ照明が消されていて、辺りは暗い。明らかに他の場所とは雰囲気が違う。
 そんな事を治輝が考えていると……。

「時枝治輝――だな?」

 声が聞こえた。
 次の瞬間、暗闇の中から手錠付きのロープがこちらに飛んでくる。
 反応が遅れた治輝は、持っていた決闘盤を手錠で拘束されてしまった。
「……ッ!?」
 聞いた事がある。この手錠の様な物は、かつての決闘ギャングが愛用していた物だ。
 決闘盤にこの手錠をかけられたら最後、強制的にデュエルを行わなければならない。

 無理に外そうとすれば、決闘盤を破壊され。
 決闘に敗北すれば、それでも決闘盤を破壊される。

 そんな悪趣味極まりないシステムを愛用していた奴等が、昔何処かにいたらしい。
 確か名前は――『漫喫同盟』とか言ったか。

「俺達と決闘してもらうぞ、逃げると貴様の決闘盤が終焉を迎える事になる」

 達?
 その言葉に疑問を覚えていると、目の前の暗闇が上空のスポットライトで照らされた。
 人影が二つ現れる、追っ手だろうか。
 一人は、眼鏡とサングラスを同時に装着している、スーツの男だった。
 もう一人はやけに長身で、これまたサングラスを付けている、スーツの男だ。

 そして何故か、スーツの袖の部分が無かった。

「……ふっ、我等の趣に言葉も出ないようだな」
 眼鏡サングラス男が眼鏡とサングラスを「クイッ」と持ち上げながら、そう呟く。
「さすがだね兄者」
 長身サングラス男は親指を立て、隣の男をグッジョブ!と褒め称えた。

「……俺は、そういうノリも嫌いじゃない。嫌いじゃないが――」
 治輝はそう言いながら、決闘盤を展開させる。
 後頭部がピキピキしてくる。怒りマークのような物が浮かび上がって来るような錯覚さえ覚えた。

「時と場所を考えろ!俺は今急いでるんだよこの袖無し兄弟!」
「やる気のようだな。話が早い、貴様に絶望という名の晩餐を振舞ってやろう」
「兄者かっけぇ……」

「「「決闘!!!」」」

 決闘開始の合図が、部屋中に響き渡る。
 照明がそれを歓迎するかのように、一斉に光を灯した。

【治輝LP5000】 手札5枚 
場:なし


【袖無し兄弟LP5000】

『袖無し兄』 手札5枚
場:なし

『袖無し弟』 手札5枚
場:なし