シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-54

「やった!ダークルーラーを倒したぞ!」

 地面に沈んだダークルーラーを見て、純也は歓喜の声を上げた。
 自分のデッキを信じてドローしたカードは<融合><ユニオンアタック>の二枚。
 そしてそのカード達は最大限の働きをして、結果勝利できたのだ。嬉しくないはずがない。
 消滅していく自らのモンスターを見つめる愛城は、小さく呟いた。
「まさか、あの状態で最善のドローをしてくるなんてね……」
「これが兄さんが教えてくれた、僕自身の決闘だ!これでもまだ……」
「ええ、考えを改める必要があるようね。――『貴方』は雑魚ではなく、なかなかの決闘者だったわ」

 『貴方』を強調した愛城に、純也はムッとする。
 これでもまだ、兄さんを人殺し呼ばわりする事はやめないらしい。

「……貴方の手札は今、0枚?」
「うん。オマケに2ターンは<無謀の欲張り>でドローできない」
「いえ、それはどうでもいいわ」

「どの道貴方に、次のドローフェイズが巡る事はない」

 愛城は背筋の冷えるような声を発し、そう宣言した。
 戸惑う純也をよそに、カードを1枚ドローする。

(このターンで決着を付けるって事?そんな事できるワケ……)

 相手の場には守備力4000を誇るライトルーラーが居るけれど、攻撃力はゼロだ。
 そしてこちらの場には攻撃力3800の<アルカナ・ナイトジョーカー>がいる。
 普通に考えれば、数ターンは硬直状態が続くはずだ。
 そんな純也の考えを遮るように、愛城は語り続ける。
「確かにダークルーラーを破壊したのは見事だったわ。普通の決闘者だったらあんな奇跡のようなドロー、不可能でしょうね。――でも」
 愛城はこの決闘中でもっと大きく顔を歪め、口元を釣り上げる。
 その表情からは、決闘序盤で見られた妖艶な雰囲気が、欠片も感じられなかった。

「あれは、貴方の実力じゃなくて、私の『きまぐれ』なの」
「なっ……今更負け惜しみを言っても!」
「貴方は何も信じないのね。でもそれは正しいわ、私だって他人の事は言えない」
 そう言った愛城は、一瞬だけ遠い目をした。
 だがすぐ元の狂気に溢れた表情に戻り、純也を睨み付ける。

「――だからもう、貴方は舞台から降りなさい」

 愛城がライトルーラーの上から降り、そう宣言すると……ライトルーラーが守備表示から、攻撃表示へと変わった。
 そしてそのままバトルフェイズに入り、滑るように<アルカナ・ナイトジョーカー>の方に突進していく。
「なッ……!?」
「このままだと私のライフに3800のダメージが与えられ、貴方の勝ちが決定する」
「一体何を……迎え撃て!<アルカナ・ナイトジョーカー>!!」

 主人の声を聞き、突進して来るライトルーラーを聖剣で受け止める<アルカナ・ナイトジョーカー>
 如何にライトルーラーといえど、今やその攻撃力はゼロだ。
 攻撃力3800を誇る<アルカナ・ナイトジョーカー>なら、赤子の手を捻るように返り討ちにできるはずだ。
 だが

「――押されてる?!どうしたんだ<アルカナ・ナイトジョーカー>!」

 攻撃をはじき返すどころか。
 衝撃を受け止めた<アルカナ・ナイトジョーカー>の表情は苦悶に歪んでいく。
 そして突進を受け止めているはずの聖剣に、小さなヒビが入り始めた。
「どうしたんだ。こんなっ……」

 どうしていいのかわからず、純也は愛城の方に視線を向けた。
 すると、一枚のカードが発動しているのがわかった。
 二体のぶつかり合いで火花が飛び散り、カード名が判断し辛い。
 純也は視力のいい目を更に細め、そのカードを凝視して……

 そのカード名を見て、愕然とした。









《あまのじゃくの呪(のろ)い/Reverse Trap》 †

通常罠
発動ターンのエンドフェイズ時まで、攻撃力・守備力のアップ・ダウンの効果は逆になる。

「アハハハハハハ!!光栄に思うのね。この愛城が使う、ライトルーラーの全力を見れるのだから!」

 ライトルーラーの攻撃力が現在ゼロなのは、自身の効果で4000ポイント攻撃力をダウンさせていたからだ。
 つまり、あまのじゃくの呪いの効果を受けた、現在のライトルーラーの攻撃力は

「……はっ、せん?」

 ――――攻撃力8000
 目の前のモンスターは、神さえ到達する事の難しい……絶大な攻撃力を備えていた。
 神に匹敵する『程度』の力しか持たない<アルカナ・ナイトジョーカー>では、相手にならない……!
 純也は片手を横に振って、自分のモンスター達に向かって叫んだ。

「逃げろ<アルカナ・ナイトジョーカー>!!今のアイツには……!」
「遅いのよ、全てが!!喰らいなさい、ライトルーラー!」

 次の瞬間。
 攻撃を抑えていた<アルカナ・ナイトジョーカー>の頭上に、龍の口が襲い掛かる。
 目の前の前進を抑える事に精一杯な様子の聖剣士は、その存在に気付かない。
 そして

 ザシュ、と。
 嫌な音が聞こえた。

 ヌチャリ、と。
 粘着質な赤色の液体が流れる。

 ライトルーラーの龍の口が、何かを『咀嚼』する音だった。

「あ……う……」

 ライトルーラーは何かを銜えたまま、龍の口に光を溜め込んでいく。
 その光を前に、純也は何をすることもできない。
 ただ両膝を地面に付き、何かを考える事も、もうできない。

「……この程度の地獄でこの様とはね。もう一度言うわ、遠郷純也」

 愛城は自らの手を上げ、純也に哀れむような視線を向ける。
 そして、ライトルーラーの龍の口から極光が放出された。

「貴方はこの場に相応しくない。――早急に舞台から降りなさい」

 純也の目の前に、極光が到達する。
 愛城はそれに視線を向ける事をせず、ただゆっくりと目を閉じた。



【純也LP】2300→0