シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-55

 ――光の奔流が収まる。
 視界が開けた頃に愛城はゆっくりと目を開けると、愉快そうな声を出した。

「あら、すっかり傍観者を気取っていたと思ったけれど……どういう風の吹き回し?」

 光が止んだ場所には、ボロボロになった純也が横たわっていた。
 だがその前方、光から純也を庇うように……一体の動物が、傷を負いながらも立っていたのだ。

「<氷結界の虎王ドゥローレン>……貴方もやっぱり私の邪魔をするの?『七水』ちゃん」

 その言葉に反応したのか、一人の少女――七水が虎王の前に駆け出してきた。
 七水は純也を横目で見て哀しそうな顔をすると、キッと愛城を睨み付ける。
「この人は、関係ないよ――!アナタの狙いは私だったのに、ここまでやらなくても!」
「あら、ソイツが『遠郷』であるなら無関係では居られないわ。アナタに言ってもわからないでしょうけど」

 そう言った愛城は妖艶な笑みを浮かべ
 七水は目に涙を溜めながら、潤んだ目で睨み付ける

「これ以上やるなら、私が相手になるよ!」
「……そうね。私もそのつもりだったし、それは構わない。ただ――」
 愛城は一瞬純也に視線をやり、流れるように七水の向こう側に視線を移す。
 そして、ゆっくりと口を開く
「ソイツが心配なんでしょう?なら、場所を変えましょうか」
「……え、場所?」
 突然の申し出に、七水は困惑する。
 今更、周りの被害を考えるような人とは思えないし、狙いが見えない。
 そう七水が考えていると、愛城が呟くように声を出した。

「私、今から『学校』に行かないといけないのよね」










遊戯王オリジナル episode-55


「――学校、か」
 
 ビルの上階層。
 治輝は愛城の部下が残したメッセージについて、割れた窓ガラスの破片を蹴りながら考えていた。
 『学校』が、言葉通りの意味ではない事は、治輝にはわかっていた。
 しかもあの様子だと、あの部下達は愛城の行き先について口止めをされていないようにも見える。

「わざわざ俺にわかるように、メッセージを残していった……?」
 そう考えるのは、単なる俺の考え過ぎだろうか。邪推だろうか。
 だが、俺の裏を欠くつもりなら俺に情報を教える必要は皆無だ。
 黙っておけばそれで事が済むのに、何故わざわざ伝えるような真似をしたのか。
「……考えても、仕方ないか」
 いずれ殺すであろう人間の事情なんて、どうでもいい。
 俺は木咲を守る為に、やるべき事をやるだけだ。

 破片を部屋の隅に集めると、治輝は窓の縁に足を掛けた。
 冷たい風は肌を貫き、大き過ぎる夕焼けは目を眩ませる。
 下を眺めると、車や道行く人達が酷く小さく見えた。

「――昔は、高い所が苦手だったっけ」

 いつからだっただろうか、高い所が苦手でなくなったのは。
 多分、木咲の夢を奪ってしまったあの日から……
 何もしていないと、頭に後悔と自己嫌悪が襲い掛かってきて。
 命の危険に近付けば近付く程、何かに許されるような気がしていた。
 そう、多分俺はもう、高い所が好きになれたんだ。
「行く、か」
 ここから飛び降りて、途中で<ドラグニティアームズ・ミスティル>を召喚して飛行していく。
 それが『学校』に行く最短ルートのはずだ。
 わざわざ屋上に登ったり、エレベーターを使う必要なんてどこにもない。
 愛城の狙いがなんであれ、アイツより早く『学校』へ辿り着いてやる。
 そう考え、いつでも『ペイン』としての力を発現できるように、右手を発光させた。
 そして、ビルから飛び降りる為に、治輝は窓から身を乗り出そうとして



 パシッ、と



 何者かに右手を掴まれた。
 追っ手かと思い、治輝は素早く後ろを振り向く。
 後ろを振り向くと、そこには

「行かせません」

 そこには見知った顔があった。
 今尚赤く輝くその手を、本当に力強く、ギュッと握る。

「ここから先には――――行かせません!」

 短いおさげに、お馴染みのキュロット。
 少し滑舌の悪い声に、少し大きな目。
 その姿は、治輝にとって見間違えようのない物だった。
 
「かづ……な?」

 治輝は驚愕の余り、枯れたような声を出した。
 余りの事態に、目の前の人物から、目が離せない。
 少女はキッと治輝を睨み付け、そして。

「私は、あなたの敵です。あなたを倒す為に、ここに来ました」

 治輝にとって悪夢のような言葉を
 決意の篭った、真剣な眼差しを向けながら
 
 治輝自身に、ぶつけてきた