シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-57

【治輝LP4000】 手札5枚  
場:なし

【かづなLP4000】 手札5枚
場:なし

「……俺のターン!」

 若干の戸惑いを覚えつつも、治輝はカードをドローする。
 かづなが何を考えていようが、俺は前に進まなきゃいけない。
 そう自分に言い聞かせながら、手札を確認する、
「フィールド魔法<竜の渓谷>を発動!」

《竜(りゅう)の渓谷(けいこく)/Dragon Ravine》 †

フィールド魔法
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札を1枚捨てる事で
以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分のデッキからレベル4以下の「ドラグニティ」と名のついた
モンスター1体を手札に加える。
●自分のデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

 アスファルトに囲まれたビルの一室は、突如壮大な渓谷へと変貌する。
 かつてこの谷を住処にしていた鳥達の姿は見当たらず、孤高を気取る竜達だけが、そこにはいた。
「竜の渓谷の効果!<ミンゲイドラゴン>を捨てる事で、デッキから<ドラグニティ・ファランクス>を手札に加える!!」
「……」
 かづなは墓地に送られていく<ミンゲイドラゴン>を、無言で見つめる。
 治輝はその表情に一瞬目をやりながら、更にターンを進めていく。
「更に<ドラグニティ・ファランクス>を捨てる事で<調和の宝札>を発動!カードを2枚ドローする!」

《調和(ちょうわ)の宝札(ほうさつ)/Cards of Consonance》 †

通常魔法
手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「更に<超再生能力>……!」

《超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)/Super Rejuvenation》 †

速攻魔法
エンドフェイズ時、自分がこのターン中に
手札から捨てた、または生け贄に捧げた
ドラゴン族モンスター1体につき、デッキからカードを1枚ドローする。

「続けてブランディストックとレヴァテインを墓地に捨て!<魔法石の採掘>を発動!」

《魔法石(まほうせき)の採掘(さいくつ)/Magical Stone Excavation》 †

通常魔法(準制限カード)
手札を2枚捨てて発動する。
自分の墓地に存在する魔法カードを1枚手札に加える。

「超再生能力を手札に加え、再び発動。俺はモンスターを一枚セットして、ターンを……」
「……」
 そこまでターンを進めた所で、ふと治輝は何かの視線を感じた。
 処理を中断して、前方にいるかづなを見やる。
 その姿を見て、治輝は渇いたような声で、呟いた。

「――泣いてる、のか?」
 
 目の前にいる少女の瞳は、僅かに揺れていた。
 そしてこれ以上無いほど、潤んでいた。
 今までなら、この問いをした時のかづなの反応は決まっている。

 泣きません、と。

 精一杯の意地を張りながら、そう言い放つ。それがかづなという女の子のはずだ。
 だが、その予想は大きく外れた。

「なお君は、いつもそうですよね……」
「……?」
「いつだって何かを捨てる事で、それ以上の何かを手に入れて、どんな困難にも打ち勝って……」

 かづなは目を伏せて、潤んだ目を隠す。
 だが、その手は自分の手札を放さない。
 もう片方の手はギュッと握り拳を作って、僅かに震えていた。

「凄いと思います。憧れた事だってあります。その強さに、その生き方に」
「……」
「でも、私は……」

 震えるような声を出しながら、かづなは伏せた顔を勢い良く上げる。 
 耳より下にあるおさげは揺れ、瞳に溜め込んでいた物が、輝きながら周囲に舞った。
 
「でも私は、あなたがあなたを捨ててまで、前に進んで欲しくない!」

 その雫の向こうにいるかづなは、真っ直ぐに治輝と、先程捨てられた『レヴァテイン』を見つめている。
 その瞳に、もう先程までの涙は、欠片も浮かんでいなかった。