シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-58

「……渓谷で捨てた<ミンゲイドラゴン>に、調和の宝札で捨てた<ドラグニティ・ファランクス>」

 墓地に存在するカードが輝き出し、それに呼応するようにデッキが光を帯びる。
「そして採掘の効果で捨てた二枚の『ドラゴン族』合計4枚のカードを、二回ドローする」
 合計8枚のドロー。
 絶対的なアドバンテージを生み出すドローコンボに成功したのに関わらず、治輝の心は晴れない。
 2枚のカードを手札調整で再び墓地に送った後、治輝は口を開く。
「あなたがあなたを捨ててまで……か」
 墓地に送ったレヴァテインのカードは、もう肉眼で見る事は適わない。
 治輝は墓地から目を離し、かづなの方に視線を戻す。
「だけどな、捨てないとどうしようもない時だってあるんだ。木咲は俺がいる限り幸せにはなれない。夢を掴む事も、目指す事すらできないんだ!」

 治輝は自分が生きているせいで声を失っている木咲の事を思う。
 口では大丈夫、大丈夫と言っているが、アイツは今死ぬよりも辛い状態のはずだ。
 今まで出来ていなかった事が急にできなくなって、大好きな事を続けられなくなって、心が痛んで仕方ないはずだ。
 増してや、その原因を作ったのは全て俺自身だ。その為に犠牲になることに、何のためらないもない。
「人には、どんな犠牲を払ってでも何かを『成』さなくちゃいけない時がある。俺にとって――今がその時ってだけだ!」
「……私の、ターン」
 治輝の言葉を振り払うように、かづなはカードをドローする。
 似合わない程静かな声を発したが、かづなの瞳は決意に溢れ、真っ直ぐと治輝を見据えている。
「私はカードをニ枚、モンスターを一枚セットし、ターンをエンドします!」
「ターン回しが早いのは助かる。俺のターン!」
 治輝は先程の8枚のドローによって選別した、選りすぐりの手札達を眺め、戦術を決定する。
 この決闘を、すぐにでも終わらせる為に。
「俺は手札からチューナーモンスター<デブリドラゴン>を召喚!」

デブリ・ドラゴン/Debris Dragon》 †

チューナー(効果モンスター)(準制限カード)
星4/風属性/ドラゴン族/攻1000/守2000
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を
攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、
ドラゴン族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
また、他のシンクロ素材モンスターはレベル4以外のモンスターでなければならない。

 わぎゃぁ!と鳴き声を上げ、光の中からサイズの小さいドラゴンが召喚される。
 その姿にかづなは懐かしそうな顔を向け、小さく笑った。
「その効果で、墓地から<ドラグニティ・ファランクス>を特殊召喚。そしてこの二体をリリースし<ドラゴニック・タクティクス>を発動!」

《ドラゴニック・タクティクス》 †

通常魔法
自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスター2体をリリースして発動する。
自分のデッキからレベル8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。



 ファランクスがデブリドラゴンの手を引き、治輝に手を振りながら、トコトコと光の中に消えていく。
 そしてその光は突如膨張し、その中から巨大なドラゴンの影が現れた。
「現れろ根源の暴君!<タイラント・ドラゴン>!」

タイラント・ドラゴン/Tyrant Dragon》 †

効果モンスター
星8/炎属性/ドラゴン族/攻2900/守2500
相手フィールドにモンスターが存在する場合、
このカードはバトルフェイズ中にもう1度だけ攻撃する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードを対象にする罠カードの効果を無効にし破壊する。
このカードを他のカードの効果によって墓地から特殊召喚する場合、
そのプレイヤーは自分フィールド上に存在する
ドラゴン族モンスター1体をリリースしなければならない。

「バトルだ!<タイラント・ドラゴン>で守備モンスターに攻撃。タイラント……バーストォ!」
 巨大な熱線が、かづなの裏側守備表示モンスターに襲い掛かる。
 だが、そのモンスターすぐに姿を現し、その巨大な熱線を小さな翼で弾き返した。
「なっ……!?」
「シルちゃんは戦闘では二度まで破壊されません!ドラギオンならともかく<タイラント・ドラゴン>では手数が足りませんよ?」

《シールド・ウィング/Shield Wing》 †

効果モンスター
星2/風属性/鳥獣族/攻   0/守 900
このカードは1ターンに2度まで、戦闘では破壊されない。 

「……ッ、なら次のターンに攻撃モンスターを増やすだけだ!俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド!」
「そんな事させるわけないです!私は、手札から<星見鳥ラリス>を召喚!」

《星見鳥(ほしみどり)ラリス/Rallis the Star Bird》 †

効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻 800/守 800
このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、
戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、
次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。

 ソリットヴィジョンが作り出す光の中から、真ん丸の黄色い鳥が現れる。
 相変わらずイラストとは似ても似つかない丸っぷりだ。

「ラリラリ~♪」

 また聞いてはいけない声が聞こえた気がするが、治輝はそれを全力で無視する。
 今は目の前の相手がどう仕掛けてくるか、それだけに集中するべきだ。
「<星見鳥ラリス>で<タイラント・ドラゴン>で攻撃します!――スターダスト、アタック!」
「な……?!」
 攻撃力800のモンスターで<タイラント・ドラゴン>で攻撃。
 普通に考えれば、それは自殺行為でしかない。
 驚きの表情でかづなの方に視線をやると、かづなはしみじみと笑みを浮かべた。
「なお君には、いつも私の手を引いてくれました。私だけじゃ届かない場所に、連れていってくれました」

 違う、と治輝は心の中で反論する。
 それは、単に俺がおまえを危険に巻き込んでいただけだ。
 そんな治輝の心中を知ってか知らずか、かづなは続けていく。

「だから、今日も半分だけ手を引いてもらいます。私だけじゃ届かない場所に行く為に!罠カード発動<メタル化・魔法反射装甲>!!対象はラリスちゃんです!」

《メタル化(か)・魔法反射装甲(まほうはんしゃそうこう)/Metalmorph》 †

通常罠
発動後このカードは攻撃力・守備力300ポイントアップの装備カードとなり、
モンスター1体に装備する。
装備モンスターが攻撃を行う場合、そのダメージ計算時のみ
装備モンスターの攻撃力は攻撃対象モンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。

タイラントさんの半分の攻撃力を、ラリスちゃんに加えます!」
「それでもラリラリの攻撃力は2550……タイラントには及ばない!」
「及びさせます!<星見鳥ラリス>の効果で、戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイント攻撃力をアップ!」
「な!?」
 星見鳥の身体が銀色にコーティングされ、その効果により相手の強さを力に変える。
 その結果、星見鳥ラリスの攻撃力は……

「……4150!?たったの二枚のカードで!?」
 治輝が届かせる事ができなかった。攻撃力4000のボーダーライン。
 その線を目の前の少女は軽々と越えたのだ。
「別に、私だけの力じゃありません。メタル化も、ラリスちゃんも、相手が強ければ強い程、その効果が増していくモンスターですから」
 ただ手を引っ張ってもらっただけです。と笑いながら
 かづなは自らが使役するモンスターの為に、もう一度叫んだ。
「――改めてバトルです!スターダスト・鋼アタック!」

【治輝LP】4000→2750

 <タイラント・ドラゴン>が、呆気なく四散していく。
 治輝は呆然とその四散した光粒を、そして目の前のかづなを見つめる。
(コイツ、こんな強かったか……!?)
 昔戦った時とは、明らかに何かが違う。
 治輝はそれを肌に感じ、気を引き締めなおす。

 急ぐ、だとか
 さっさと決める、だとか

 そんな風に甘く見て、目の前の相手は、倒せる相手じゃない――!

 治輝が覚悟を決め直すと、星身鳥ラリスが攻撃を終え、その効果で異次元へと除外されていく。

このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、
次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。

「……おまえ、こんなに強かったんだな」
「だから違います。私はなお君に、手を引っ張ってもらっただけです」

 かづなは僅かにはにかみながら、困ったように笑った。
 治輝はその顔を眺めながら、次の手を考え、ドローする。

【治輝LP2750】 手札3枚  
場:伏せモンスター 
伏せカード2枚

【かづなLP4000】 手札3枚
場:シールドウイング(守) 
伏せカード1枚