シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-60

 バトルフェイズだけが、決闘じゃない――?
 かづなの言おうとしてる事が、治輝には推測できなかった。
 そんな治輝を見つめながら、かづなはターンを進めて行く。

「私は星見鳥ラリスをリリースして<神禽王アレクトール>をアドバンス召喚します!」

《神禽王(しんきんおう)アレクトール/Alector, Sovereign of Birds》 †

効果モンスター
星6/風属性/鳥獣族/攻2400/守2000
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

「コイツは……タッグ決闘の時に見た奴か」

 <神禽王アレクトール>
 フィールド上のカード1枚の効果を、そのターン中完全に無効にしてしまう優秀な鳥獣族モンスターだ。
 だが今の状態で、無効にしてかづなが得をするカードがあるとは思えない。

「私は<神禽王アレクトール>の効果で<ドラグニティアームズ・レヴァテイン>の効果を無効化します!」
「……なんだって?」
 その宣言に、治輝はニヤリと口元を僅かに歪める。
 どうやら、かづなはレヴァテインの特性を……ドラグニティの特性を知らなかったようだ。
「――迂闊だな。レヴァテインの効果が無効にされた事で、レヴァテインが装備していた<ドラグニティ・アキュリス>は破壊!そして破壊された事で、アキュリスの効果が発動する!」

《ドラグニティ-アキュリス/Dragunity Aklys》 †

チューナー(効果モンスター)
星2/風属性/ドラゴン族/攻1000/守800
このカードが召喚に成功した時、
手札から「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、
このカードを装備カード扱いとして装備する事ができる。
モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた時、
フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

「どうせならこっちを無効にするべきだったな!アキュリスは破壊されてこそ効果を発揮するモンスター。俺はそちらの伏せカードを破壊する!」
「……伏せカードで、いいんですか?」
「攻撃力でレヴァテインで劣ってる<神禽王アレクトール>を警戒する必要はないだろ?なら、正体不明の伏せカードから処理していくべきだ」
「そうですね……」
 かづなは軽く笑いながら、それを認める。
 そして伏せカードを表にしながら、風のように囁いた。

「私でも、そうします」

 そうかづなが言葉を紡いだ瞬間。
 <ドラグニティアームズ・レヴァテイン>が、粉々に爆発した。
 突然の事態に、治輝は状況が把握できない。

「な……に?」
「私、なお君のプレイングずっと見てましたから、わかるんです。何がしたいか、何をしてくるか」
 そう言いながら、かづなは破壊されたカードを手に取り、持ち上げる。
 それは、酷く見覚えのあるカードだった。
 何故なら――

「何のカードを使っていたかも、覚えてます」

 そのカードの正体は<荒野の大竜巻>

《荒野(こうや)の大竜巻(おおたつまき)/Wild Tornado》 †

通常罠
魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。
破壊されたカードのコントローラーは、
手札から魔法または罠カード1枚をセットする事ができる。
また、セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

 破壊されることで効果を発動する、治輝が愛用しているカードの一つだった。
 結果的に破壊されてしまったレヴァテインを、治輝は呆然と見送る。
 (俺と同じ……いや、俺より高度な使い方を、した?)
 確かに博打もいい所の戦術だが、もしかづなに<荒野の大竜巻>以外の打開策がなかった場合、狙う価値は十分にある。
 そして俺の考えを見通した上で、それを実際に成功させた。
 かづなはあの頃と比べて、本当に強くなった。
 治輝はその成長を見て、思う。
 これなら、俺が居なくても、コイツは十分にやっていけると。
 離れていた時に、それだけが不安だったが、それは杞憂だったみたいだ。
 若干の寂しさを覚えながらも、治輝は決闘に意識を集中させる。
「……やられたよ。だが、まだ負けたわけじゃない!」
 治輝はかづなのターンが終了したのを確認すると、カードを素早くドローする。
「仮面竜を守備表示にし、ターンエンドだ!」
 エンド宣言をしながら、治輝はフィールドを見渡す。
 
【治輝LP2750】 手札3枚  
場:仮面竜(守備表示)  
伏せカード2枚 
【かづなLP4000】 手札3枚
場:神禽王アレクトール

 相手に伏せカードは無いし、一般的な鳥獣族に貫通効果を持つモンスターは少ない。
 ここは仮面竜一体で、何とか耐えるしかない。
「私のターン、ドロー!」
 ターンが回り、かづなはドローしたカードを確認する。
 そしてそのカードをそっと伏せると、バトルフェイズに移行した。
「<神禽王アレクトール>で、仮面竜を攻撃します。猛禽類アタック!」
 余りのネーミングセンスに絶望感を覚えつつ、仮面竜が戦闘で破壊される。
「……ッ、戦闘破壊された事で、仮面竜の効果を発動!」

《仮面竜(マスクド・ドラゴン)/Masked Dragon》 †

効果モンスター
星3/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「デッキから<Totem Dragon>を特殊召喚する!」
「ミンゲイちゃんの英語版……私はターンをエンドします!」
 無事にかづなのターンを凌ぐ事ができた。今度はこっちの反撃だ。
「俺のターン、ドロー!俺は<Totem Dragon>を二体分のリリースとして扱い……」
 <Totem Dragon>は発光し、大きな光の渦へと姿を変える。
 そしてその中から、巨大なドラゴンの影が出現した。

「行くぞ、青氷の白夜龍!!」

《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)/White Night Dragon》 †

効果モンスター
星8/水属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードを対象にする魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、
自分フィールド上に存在する魔法または罠カード1枚を墓地に送る事で、
このカードに攻撃対象を変更する事ができる。

 治輝はかづなから視線を外し、出現した美しい氷の龍を見上げ、その今にも割れそうな鱗に触れる。
 そんな危うげな感覚に、体が小刻みに震え始めた。
「木咲はさ――今も苦しんでると思うんだ。治るかどうかもわからない、正体不明の病気のような物に、夢や目標……生き甲斐すら奪われて」
「……」
「俺だってそんな木咲を見ているのは辛い。――いや、違うか」
 自分で言おうとした言葉に反吐が出て、治輝は途中で言葉を選ぶ。
 痛む程自分の拳を握っても、体の震えが止まらない。

「俺は俺が存在するせいで、アイツが苦しむ事に耐えられない。責任だとか、俺のせいだとか……そういうのは多分、方便なんだ」

 結局は、そういう事なのだろう。
 木咲の為に苦しんでいるわけではなく、結局は自分の為。
 アイツの痛みを憂いるのではなく、俺は俺の痛みに憂いている。

 そう、
 俺は足を引っ張られる誰かを心配しているわけではなく
 『足を引っ張っている惨めな自分』が、嫌なだけだ――。

「だから俺はさ、ハッピーエンドって奴も大好きだけど。それ以上に今の自分が大嫌いなんだ」
「……それは、なお君が優しいから――」
「……優しい、か」

 治輝はその言葉を聞いて、思う。
 一般的に「優しい」と評される奴よりも
 今の話を聞いて、尚且つそんな言葉を出せる奴こそが、本当の『優しい』奴なんじゃないかと。

「その言葉は、俺には相応しくないよ」
「そんな事――」
「おまえは十分に強くなった。だからもう、これ以上俺なんかに構うな」

 かづなが、何かを言おうとした所で
 治輝がおもむろに手を上げると、召喚されたばかりの美しい氷龍……<青氷の白夜龍>が口を開ける。
 疲労はあるが、ペインとしての力は健在だ。
 この攻撃を通し、集中して威力を調節すれば、かづなを気絶させる事は可能なはずだ。

「<神禽王アレクトール>に攻撃。ホワイトナイツ、ストリーム!」

 かづなの言葉を遮るように、白き波動が直撃し、辺りは白煙に包まれる。
 その影響で室内の温度が急激に下がったが、治輝にはその肌寒さが、逆に心地よかった。

【かづなLP】4000→3400