シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-61

 白煙が徐々に収まってくる。
 治輝は確かな手応えを感じる。この攻撃は、確実に通った。
 視界が蘇れば、倒れているかづなが目に飛び込んでいるはずだ。
 それで、決闘は終わる。そのはずだった。
 だが、白煙から出てきたのは

「……まだまだ浅いな、小僧?」

 見覚えのある機械仕掛けの竜、スドと。
 未だ尚真っ直ぐに立ち続ける、かづなの姿だった。



遊戯王オリジナル episode-61


「スド……しばらく姿が見えないと思ったら」
 治輝はそう言いながら、目の前の<スクラップ・ドラゴン>のミニチュアサイズ、スドを睨み付ける。
 スドは普通の精霊と違い、自分の意思だけでかなりの力を発現できる。
 どうしてそんな力を得るに至ったのかはわからないが、その力を応用すれば、治輝のペインとしての力を抑える事も可能だろう。
「若い者の問題は若者同士で……と思っていたんじゃがな。決闘で押されているからと言って、実在するダメージで決闘を強制終了させるのを見過ごすわけにはいくまい」
「あ、ありがとう。スドちゃん」
 こうは言っているが、決闘前にかづなに「手を出さないでね」とでも釘を刺されたのだろう。
 そんな様子を想像して、治輝は大きくため息を吐く。
 これじゃあどっちがスドのマスターなんだか、わかったもんじゃない。
 そんな風に思っていると、スドが真面目な表情で治輝を見つめ、言った。 
「小僧、貴様はあの時言ったな?『最終的に墓地に行く事になっても、誰かの背中を押せるなら、悪くない』と」
「……よくそんな昔の事を覚えてるな。それがどうした?」
「あれは小僧自身を表す言葉だったのだな。ワシに言った言葉であると同時に、自分自身にもそれを言い聞かせるように。そして確かに小僧は、木咲というおなご以外の『過去』を切り捨てて生きてきた」
「言い聞かせるは余計だ。俺はそう、本気で思っている」
 全てをわかっているかのようなスドの口調に苛立ちを覚え、治輝はスドを睨み付ける。
 その視線を受け流すように、スドはその小柄な体を横に向け、言った。
「やはり、貴様とマスターは違う」
「マスター……前の主人の事か?」
「そうだ。マスターは常に最良の選択をし、決闘に勝利を収めてきた。時に自身を傷付け、それを悟れぬよう自分を大きく見せてまで」
 そう言ったスドは、何処か物寂しい雰囲気を漂わせている。
 治輝はらしくない精霊の姿に、若干の戸惑いを覚えた。
「確かにその点では、貴様とマスターは似ているかもしれない」
「……冗談だろ。俺は自分が痛くなったら、さっさと逃げ出すさ」
「そういう物言いもだ馬鹿者。……だがな、マスターは徹底していた。それこそ、目的の為なら外道と罵られるような行為も辞さなかった、だが」
 横を向けてた視線を治輝に向け、スドは眼光を鋭くし、言った。

「貴様は違う。貴様は……徹底しきれていない」

 治輝はその言葉を聞くが、その意味はわからない。
 ――徹底しきれていない?何がだ?
「わからないのなら教えてやろう。――木咲の為に全てを『捨ててもいい』と思うのなら、何故目の前のこやつを殺さない?」
 スドは体を横に移動させ、顔を振るように視界を促す。
 そこには当然の事だが、決闘盤を装着したかづながいた。
「貴様が急がないと、木咲が危ないのじゃろう?『学校』とは都合のいい言葉遊びを思いついたものじゃが」
「何故――それを知って……」
「貴様の狼狽ぶりを見ていれば誰でもわかる。……だが、そんな状況だというのに貴様はこやつとの決闘に応じた。しかも今の一撃、手加減したじゃろう?」
「それは……」
 図星だった。
 先程の攻撃は直撃しても、気絶するか……意思が強ければ、耐え切れる程度の物だ。
 今のかづなの精神力なら、仮にスドの助力がなくとも、立ち上がってきたかもしれない。
「……スド。おまえも戒斗と同じ事を言うのか?揺らぐ程度の覚悟なら一貫しろ、と」
「そうは言わん、だが……」

「スドちゃん、もういいです」

 二人の問答――一人と一匹の討論を、かづなの言葉が止めた。
 少し哀しそうに笑いながら、かづなは目を閉じる。
「後は、私の役目ですから」
「――そうじゃったな。年を取るとどうにもでしゃばっていかんわい」
 くるりと反転し、スドはペコリとかづなに向かって反転する。
 そしてチラリと治輝に顔を向けながら、目を細めた。

「小僧はマスターではない。マスターと同じ道を歩むべきではない――少なくともワシは、そう思っているよ」

 フッと、スドの姿が消えた。
 破壊されたエフェクトとも、高速移動とも違う、不可思議な消失。
 治輝がその言葉を噛み締めつつも、スドの姿を探していると
「スドちゃん、ステルス迷彩で隠れただけですよ。多分すぐ近くにいます」
「……アイツ、そんな機能もあんのか」
「ここに来れたのもあの機能の応用ですしね。お陰で誰とも戦闘せずになお君に会えました」
「……何が『スクラップ』だ、ハイテクドラゴンにでも改名した方がいいんじゃないか?」
 あはは、と治輝の言葉にかづなは軽く笑う。
 だがその顔は少し経つと引き締まり、治輝の方を真っ直ぐに見詰めた。
「もう、ターンは終わりですか?」
「……あぁ、そろそろ決着を付けよう」
「望む所です!」


【治輝LP2750】 手札2枚  
場:青氷の白夜龍
伏せカード2枚 

【かづなLP3400】 手札2枚
場:モンスターなし