シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-73

【治輝LP4000】 手札6枚   
場:なし

【愛城LP1500】 手札3枚
場:Arcana Force Ex - the Light Ruler
伏せカード一枚 神の居城-ヴァルハラ ヴァイロン・ステラ(対象Light Ruler)

 「俺のターン、ドロー!」
 状況は不利だが、先のターンの超再生能力の効果で、手札だけは潤沢にある。
 このカードを使って目の前の上級天使を倒せなければ、勝機は無い。
 そう気持ちを引き締めた治輝が手札のカードを確認すると、妙な違和感を感じた。
 何やら二つのカードが、心無しか薄く光っているような……。
 そんな治輝の思案を知ってか知らずか、愛城は治輝の事を心底つまらなそうに睨みながら、口を開く。

「やっぱり貴方変わったわ。――以前会った時とは、全く違う」
「……同じ事を何度も言わせるな。人はそう簡単に変わらない」
「目が違うのよ。廃工場で会った時は、もっと魅力的な目をしていたわ」

 愛城はそう言い放ち、一つため息を吐く。
 失望と哀れみが混じったような、そんなため息だ。

「――かづな、とか言ったかしら。あの子の名前は」
「……」
「あの子が私のビルに侵入したという報告は受けていたわ。――貴方の侵入を追うようなタイミングだったのもね。……大方、あの子に何かロクでもない事でも吹き込まれたんじゃないの?」
 治輝は手札を選ぶのを止め、目の前の愛城をただ睨み付けた。
 愛城はそれを見て、口元大きく歪め、狂気が混じった声を上げた。

「まさか図星?呆れて物も言えないわね。七水ちゃんといい貴方といい、根本的な物を間違えている。あの子はただの一般人、何の力も、何の因果も背負っていない、ただの人よ」
「……」
「そんな奴が私達ペインや、サイコ決闘者の辛さを、痛みを!理解できるわけないじゃない!それをいい加減わかりなさいよ。時枝治輝!」

 見下ろすように。嘲るように。
 愛城は治輝の心の動きを否定する。
 おまえのその希望は全て嘘だ、と。
 だからこそ治輝はゆっくりと、囁くように小さく、口を開いた。

「『痛み』を抱えている事は、偉い事なのか――?」

 確かにサイコ決闘者という存在は、不遇な存在だ。
 生まれた時から人とは違う烙印を押され、カテゴライズされ、差別を受ける。
 仲良くなった友達は、成長するにつれ自分を恐れるようになり、人とは違う者を迫害するようになった。
 だからこそ、治輝はこの学校に入学して以来、それを隠し続けてきた。
 それは、周りの人間を信用できなくなっていたから。
 本当の自分を知ったら、絶対に迫害されると思ったから。
 自分がサイコ決闘者だという事が知れ渡れば、今までと同じ目を、もう向けてくれないと思ったから。

 だけど

「アイツはペインである俺の手を掴んでくれた。異質である俺を、普通とは違う俺の手を掴んでくれた。ペインに母親を殺されたトラウマを乗り越えて辛いのを乗り越えて!」
「――それは確かに珍しいケースね。でもそれは長くは続かない。人の心は呆気なく変わるものよ!」
「何度も言わせるな、人はそう簡単には変わらない!」
「変わるのよ!貴方がどう喚こうが、この世界はそんなに優しい物じゃない!例え表では今まで通り愛想を振り撒いていても、心の奥では何を考えているかわからない!だからこそ人は同じ痛みを経験し、痛みを知らない者には罰を与える必要があるのよ!」
「同じ痛みって何だ。痛みを知らない奴って何だ!?俺が親を殺されていなければ、アイツの事は理解できないって言うのか!?――痛みを知らない奴なんて、この世界には居やしないんだよ。愛城!」
「そう思えるのは貴方の運が良かっただけよ。何度も言わせないで、この世界はそんなに優しくできちゃいないのよ。時枝君!」

 二人の決闘者の叫びが交互に交差し、空気を奮わせて行く。
 愛城の目の淵や顔には小さく汗が浮かび、治輝の前髪を風が僅かに揺らす。
 しばらく無言でお互いを睨み合い、互いの体を硬直させる。
 そんな中、最初に動いたのは愛城だった。
 姿勢を僅かに崩し、ため息を吐きながら、退屈そうに口を開く。

「……あの子を過大評価しているのは良く判ったわ。でも、それが貴方の身を滅ぼす事になる」
「……?」
「佐光があの子と決闘している事は報告に受けている。大方私に追いつく為の足止めを任せたんでしょうけど、あの子にそれが務まると本気で思ってるの?ライトルーラーが私の手に戻っているとはいえ、佐光は強いわ。それは戦った貴方が十分承知している事でしょう?」
「……」
「あの子は佐光に絶対に勝てないわ。その後あの子の運命がどうなるか、どう扱われるか想像するのは難しくないでしょうね。そしてそうなれば、貴方は一生後悔する事になる。それを一生背負いながら生きていく事になる」

 上機嫌で語っている愛城は、口元を三日月のように大きく釣り上げた。
 長い髪が風で揺れ、その影はまるで悪魔のような姿をしている。
 その悪魔は、その雰囲気だけで相手を圧倒する程の悪意を放ちながら、言った。

「木咲の夢を奪い、喉を潰したあの時のようにねぇ!あははははははは!!」

 ピキリ、と。
 治輝の中で、何かが切れる音がした。
 治輝は七枚の手札の中から一枚のカードを選び取り、手札に構える。

「――スタンバイフェイズ・俺は<ミンゲイ・ドラゴン>を墓地から特殊召喚!」

《ミンゲイドラゴン/Totem Dragon》 †

効果モンスター
星2/地属性/ドラゴン族/攻 400/守 200
ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、
このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 墓地からひょっこりと出て来た土産物のような姿をしたドラゴンは、顔を出した瞬間に光に包まれリリースされる。
 それと同時に旋風が巻き起こり、フィールドの中心部に小さな木が出現した。
 黄色みを帯びた緑色の葉は1組ずつ対をなし、鮮やかに輝いてその存在を主張している。
 だが次の瞬間、その鮮やかな葉は四散し、木は鋭利な刃物へと姿を変えていき……。
 一本の、剣となった。

「<ドラグニティアームズ-ミスティル>を、アドバンス召喚!」

《ドラグニティアームズ-ミスティル/Dragunity Arma Mistletainn》 †

効果モンスター
星6/風属性/ドラゴン族/攻2100/守1500
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する
「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、
手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが手札から召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する「ドラグニティ」と名のついた
ドラゴン族モンスター1体を選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。

 四散した葉は一つに集まっていき、巨大なモンスターへと変貌していく。
 強固な鱗は黄色みを帯び、剣を手にしたそのモンスターは、その剣と同じように鋭い咆哮を上げた。

「効果で<ドラグニティ-ファランクス>を装備し――」

《ドラグニティ-ファランクス/Dragunity Phalanx》 †

チューナー(効果モンスター)
星2/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1100
このカードがカードの効果によって
装備カード扱いとして装備されている場合に発動する事ができる。
装備されているこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

ファランクス自身の効果で、フィールド上に特殊召喚する!」
「チューナーモンスター……シンクロ召喚なんて陳腐な戦術で、この私を倒せるとでも?」
「倒せるさ――お前の言う通り」

 見下ろすような愛城の視線を受け流しつつ、治輝は上空へと視線を移す。
 まるでヘリコプターが目前にいるかのような風が辺りを包み込み、二人の髪を揺らして行く。

「――アイツの強さは、戦った俺が一番よくわかってるからな!」

 治輝のその言葉に呼応するように

 レベル2の<ドラグニティ-ファランクス>
 レベル6の<ドラグニティアームズ-ミスティル>

 二体のモンスターが、一つの光へと変貌する。
 その光は、何も無いはずの上空の空間へと吸い込まれ、一つのモンスターを象って行く。
 そして、雰囲気に似合わない、何処かはしゃぐような声が聞こえた。




「――集いし鉄が、ハイテク未来へドンドコドーン!」

 その緊張感の無い声は、治輝にとって聞き覚えのある声だった。
 待ち望んでいた声だった。聞くと落ち着くような声だった。
 そして誰よりも――信じている奴の声だった。

 光が触れた場所が、少しずつ姿を現していく。
 下方にはドリル、そしてスカーフのような筒が、白い煙を吐き出している。
 シャッターのような模様の大きな翼に、先端には龍の口。要塞のような、その存在感。

《スクラップ・ドラゴン/Scrap Dragon》 †

シンクロ・効果モンスター
星8/地属性/ドラゴン族/攻2800/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを
1枚ずつ選択して発動する事ができる。
選択したカードを破壊する。
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、
シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

「シンクロッ!召喚っ!」

 気の抜けたシンクロ口上と共に、そのモンスターが完全に色を成し、姿を現した。
 その上に乗っているのは、得意そうに雪平鍋を掲げる女の子の姿。
 それを認めた、治輝は小さく笑いながら、声高に宣言した。

「三人でのデビュー戦と行こうぜ、スド!――かづな!」


 
【治輝LP4000】 手札6枚   
場:スクラップ・ドラゴン

【愛城LP1500】 手札3枚
場:Arcana Force Ex - the Light Ruler
伏せカード一枚 神の居城-ヴァルハラ ヴァイロン・ステラ(対象Light Ruler)