シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-77

 目の前が、本当に真っ白に染まる日が来るなんて思わなかった。
 <ドレインシールド>を具現化させた盾はあっさりと破られ、両手を改めて前に翳す。

 ――――こらえきれるはずがない。
 そう、自分の中で嘆く声が聞こえた。
 視界と同様に、心の中まで白い閃光が届いたような錯覚を起こす。
 
 ――――馬鹿め、だから貴様は甘いというのだ。
 そう言った後、爺さんみたいな優しい顔のまま、破壊された奴の叫びを思い出す。

 俺自身を抑え切れなかったあの日に、必死で止めようと頑張ってくれた木咲の事を思い出す。
 自分の声が失ってしまったと気付いてしまった――あの時の木咲の顔を思い出す。
 自分の生きる価値が消えてしまったあの時の事を思い出す。俺がサイコ決闘者だと知った時の友人の嘲笑を。ナイフを左手に取った時の事を。長袖を好んで着るようになった事友人に殺してくれよと笑いながら言われた事。



 ――――こらえきれるはずがない。
 もう一度、自分の中で叫ぶ声が聞こえた。

 この世界は、痛みに溢れてばっかりだ。
 何で、ただ生きてるだけで迷惑をかける俺が、こんな思いをしながら生き続けなきゃいけないんだ。
 そうだ、そもそも俺はなんで今、生きようとしてるんだ?
 こんなにちっぽけな俺が、こんな大きな世界に勝てるわけがないじゃないか。
 もう終わろう、もう諦めよう。
 そこまで思考を進めると、手の力が僅かに緩みそうになり……。
 

 ――――でも私は、貴方に自分まで捨てて欲しくない!
 そう、自分の中で
 誰かが、精一杯叫ぶ声が聞こえた。


遊戯王オリジナル episode-77




「――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 瞬間、治輝は目をハッキリと開けた。
 意識が現実に引き戻され、右手に今まで以上の力が宿る。
 デッキが激しい青色の光に包まれ、手に宿る力が漲ってくる。
 
「な……!?」
 余りの事態に、愛城は大きく目を見開く。
 ペインが操るモンスターの、4000のダイレクトアタックを耐えられる者等、誰も存在しないはずだからだ。
 だが目の前の男は、その巨大な光線を『吸収』しているように見えた。
 治輝のデッキから発せられる膨大な量の青色の光は、どんどん量を増して行く。

 ――そして、ダークルーラーの攻撃は終わった。

 その役目を終えたダークルーラーは守備表示になり、手札の無い愛城はターンをエンドする。
 愛城の優位は未だ健在だ。
 攻撃を防がれたとはいえ攻撃力4000のモンスターを二体従え、片方は最強の攻撃性能を、もう片方は最強の耐性を持っている。
 まともに考えれば、この決闘の勝者は愛城のはずだ。だが、それでも愛城は焦ったように声を荒げる。

「何をしたの――!?あの攻撃、耐えられるはずがなかった!ライフは残っても貴方の命は尽きるはずだった!」
「……」
「どんな手品を使ったのよ。時枝治輝!貴方より痛みに長く浸かっていた私の攻撃が!私だけの痛みが、貴方程度に止められてはいけないのに!」

 その問いには答えずに、治輝はカードを一枚ドローして、そのカードを眺めた。
 そのカードには徐々に収まりつつある、青色の光が宿っているようにも見える。
 そのカードを手札に納めると、治輝は真っ直ぐに愛城を見据え――。

「愛城、俺は思うんだ。俺達が辛く、苦しい目に合っているのは、誰かの背中を押す為じゃないかって」

 そう、ゆっくりと呟いた。
 愛城はそれが何を指すのか、まだわからない。
 治輝は更に言葉を続けていく。

「おまえが言った様に、誰もが心の何処かで、自分の痛みは特別だって思ってる。何も知らない他人に、その辛さがわかるわけがない、そう思ってる」
「……」
「なら、そうやって固まった心には誰も触れられないのか?誰が相手でも、真にわかり合う事なんて、絶対にできないのか?」
「――人が何の縛りも無しでわかり合うなんていうのは幻想よ。それは私達サイコ決闘者が一番よくわかっている!」
「ああ、だからこそ……俺達が辛い目に会って来たのは、きっと無駄じゃない」
「……?」
「俺だけの……自分だけの痛みを大事に思っているのなら。誰かが同じような辛さを感じていた時、それがわかる事ができるはずだ。それを助ける事ができるはずだ!借り物の言葉や経験じゃない、自分だけの辛さを言葉にして、誰かに触れる事ができるはずなんだ」
「貴方、自分が何を言ってるかわかっている?それが誰にでも出来たら、誰も苦労はしない!貴方自身が言ってたじゃない、『人はそう簡単には変わらない』!人の心だって、そう簡単に変わりはしないのよ!!」
 愛城が治輝の言葉をに不快を示し、声を荒げる。
 治輝は目を瞑ってそれを聞いていたが、しばらく経った後、止まっていた手先を動かした。
、そしてスタンバイフェイズにカードを一枚特殊召喚する。
 それは二枚目の<ミンゲイドラゴン>。

《ミンゲイドラゴン/Totem Dragon》 †

効果モンスター
星2/地属性/ドラゴン族/攻 400/守 200
ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、
このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 そしてメインフェイズに入り、治輝は無言で貪欲な壷を発動した。
 墓地に送ったドラゴン達を手札に戻し、二枚のカードをドローする。

《貪欲(どんよく)な壺(つぼ)/Pot of Avarice》 †

通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 そして戻したカードの一枚<デブリ・ドラゴン>を召喚した。
 その効果で<ガードオブ・フレムベル>を特殊召喚する。

デブリ・ドラゴン/Debris Dragon》 †

チューナー(効果モンスター)(準制限カード)
星4/風属性/ドラゴン族/攻1000/守2000
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を
攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、
ドラゴン族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
また、他のシンクロ素材モンスターはレベル4以外のモンスターでなければならない。

《ガード・オブ・フレムベル/Flamvell Guard》 †

チューナー(通常モンスター)
星1/炎属性/ドラゴン族/攻 100/守2000
炎を自在に操る事ができる、フレムベルの護衛戦士。
灼熱のバリアを作り出して敵の攻撃を跳ね返す。

 それを見た愛城は「ハッ」と鼻で笑った。
 嘲るように、目の前の男を、心底見下すように。

「――今更そんな雑魚モンスターで何をするつもり?とうとう正気でも失ったのかしら」
「……」

 その問いに、治輝は答えない。
 ただ真っ直ぐ愛城を見据え、先程とは一転して、一言も言葉を発しない。
 そして、言葉を発しない治輝の代わりに、決闘盤が赤いランプを点灯する。

 それは、バトルフェイズに入った合図だった。

【治輝LP2800】 手札4枚   
場:デブリドラゴン ガード・オブ・フレムベル ミンゲイドラゴン
伏せカード一枚

【愛城LP2800】 手札0枚
場:極神聖帝オーディン Arcana Force EX - The Dark Ruler 
神の居城-ヴァルハラ