シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-80

【治輝LP2800】 手札0枚   
場:伏せカード1枚
【愛城LP2100】 手札1枚
場:極神聖帝オーディン
伏せカード1枚

「私のターンはまだ終わらない――ですって?」

 治輝の言った言葉の意図がわからず、愛城は不快気に眉を顰める。
 そんな愛城を、ただ治輝は真っ直ぐと見据え、残された最後の魔法カードを、発動した。
 
「ああ、まだこのカードが残ってるからな。速効魔法カード――超、再生能力ッ!!」

《超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)/Super Rejuvenation》 †

速攻魔法
エンドフェイズ時、自分がこのターン中に
手札から捨てた、または生け贄に捧げた
ドラゴン族モンスター1体につき、デッキからカードを1枚ドローする。

 エレメンタルバーストでコストにされたドラゴン族は四枚。
 本来なら、絶対的優位になれるはずのアドバンテージ差。
 だが、愛城はそれを見ても、余裕の態度を崩さない。

「ドローフェイズを含めれば、貴方の手札は合計六枚に元通り。確かな見事な戦術だわ。だけどね――」
「……」
「貴方仮に更にオーディンを越えてくるようなカードをドローできたとしても、それは適わない!」

 そう自信をたっぷりと含ませた声を発し、愛城は自らの伏せカードに手をかける。
 そして口元を、再び三日月のように大きく歪めた。

「このカードがあれば、貴方がオーディンを越える事は有り得ないのよ!」

 治輝はそれを聞き、考えた。
 愛城は余程あのカードに自信があるらしい、自らの手の内を曝け出す程のカードだ。恐らく生半可なカードで勝負を仕掛けても、アイツの言うとおり、返り討ちになるかもしれない。
 だが、治輝はそれを承知の上で、言い放つ。

「上等だ。そのカードがどんなカードだろうと、突破してみやる」
「……そんな奇跡みたいな事、本当にできるとでも?」
「簡単じゃないってのは、諦める理由にならない――それを今、証明してやる!」

 治輝はデッキに手をかけ、目を閉じる。
 思えば短い間に、色んな事があった。
 色んな奴に迷惑をかけ、色んな奴の想いを知った。
 愛城を殺して止める――そんな思いは、当に消え失せている。
 俺自身は、近い時にこの世を去らなければ行けないかもしれないけど、何もそんな結末じゃなくてもいいはずだ。
 だから、その為に力を貸してくれ――!!
 
 そんな想いを込め、治輝は一度に四枚のカードをドローした。
 扇状に手札を開き、治輝は目を見開く。
 先程ダークルーラーの攻撃から、治輝の命を救ってくれた、青い光。
 その正体に気付き、治輝は自然と口が綻んだ。

「……先に伝えてくれよ。そういうのはさ」

 それは、目の前の人間――愛城に言ったわけではなかった。
 治輝は何枚も重なってしまった、墓地に対して語りかける。
 その中の一枚のカードに、苦笑いを混じった声を送ると。
 そのモンスターがほんの少し、笑いかけてくれた気がした。

 そんな治輝を遠目で見ている愛城は痺れを切らし、言った。
「……時間稼ぎはやめてくれない?もうカードの処理は無いんでしょう?」


「――いや、これが最後だ」

 
 そう言った治輝のフィールド上には、伏せカードは無かった。
 そんな状態でこれ以上の処理がある事など、本来ならば有り得ない事だった。

 だがその時――異変が起きる。

 天上に舞い上がったはずの、四色の光。
 二体の最上級天使を倒す為にリリースしたはずの光が、天空から下へと降りてきたのだ。

「な……」
 余りの現象に、愛城は絶句し、言葉を失ってしまう。
 それは星座のように美しく瞬きながら、治輝の回りに漂って行く。
 まるで、大切な誰かに、寄り添うように。

「自分フィールドのドラゴン族が三体リリースされたターンに、このカードは手札から特殊召喚できる」

 佇んでいる治輝の紡いだ言葉が、愛城は理解できない。
 そんな召喚条件を持つモンスターは、愛城の知る限り存在しないはずだった。
 だが、確かに治輝の周りに、異様な雰囲気を感じる。
 澄んでいて、それでいて凄みのある――不思議な存在感。
 だがモンスターの姿は未だに見えず、それが愛城を更に苛立たせ、慌てさせる。

 そんな愛城を正面から睨み付け、治輝は一枚のカードをフィールド上に叩き付けた。
 決闘盤がそれを認識する音が聞こえ、カードと鉄が触れ合う音が響き合う。
 
「使わせてもらうぜ、スド!」

 心得た――!
 そう、いつもの調子で笑う声が聞こえた、ような気がした。

「――かづな!」

 こくり、と。
 不安と信頼ともどかしさが入り混じったような表情を浮かべながら、無言で頷くかづなの視線を感じた。
 
 視線を戻すと、治輝が決闘盤にセットしたカードに、青い光が再び灯る。
 痛みを憂い、自分を悲観する事しかできなかった時には発現する事がなかった。青い光が。

「砕けし星の断片よ」

 囁くように、治輝は言葉を紡いで行く。
 だが、その声はその場にいるもの全てに聞こえていた。
 その証拠に、学校の、病院の病室の窓が、僅かに開けられる音が聞こえた。

「集いし記憶を力に変え」
 
 治輝は、何かを創る事はできなかった。
 だが、治輝の夢は一つだけ。
 誰かの背中を、ほんの少し押す事だけ。
 その願いはささやかで、下らない事なのかもしれない。

「全てを染める、残滓と成せ!」

 だが、その想いを思い出させてくれた。
 夢を思い出させてくれた奴の事を、治輝はずっと忘れない。
 そして、それを通すために
 治輝はスドの力を借り、全ての力をこのカードに託す。
 この決闘を勝つ事で成す為に。

「掴め!蘇生龍――――レムナント・ドラグーン!!」

 その強大な力を振るう伝説の生物――ドラゴン。
 それは本来、実在するはずのない幻想上の生き物だ。
 だからこそ、それは想像する人々に左右され、形を大きく変えて行く。
 流れて行く雲のように、見る人がその存在を決定して行く。
 光がうっすらと集まり、僅かに龍のような形を成しているこの生き物は
 本当の意味で、幻想上のドラゴンだった。