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遊戯王オリジナル episode-81

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【治輝LP2800】 手札3枚   
場:-蘇生龍-レムナント・ドラグーン

【愛城LP2100】 手札1枚
場:極神聖帝オーディン
伏せカード1枚

 それは最初は、ただの真っ白なカードだった。
 効果もステータスも無い、白紙のカード。
 だからこそは、白いカードは持ち主の色に染まった。
 スドの手を離れ、そのカードは今治輝の元で、彼だけのカードとして、青く激しく瞬いている。

「何なの……そのモンスターは!?」
 愛城が目の前の、姿形が定まらない光の粉を見て、後ずさりながら叫んだ。

「これは俺の――俺だけの相棒だ!」

<-蘇生龍-レムナント・ドラグーン>
効果モンスター(オリジナルカード)
星8/光属性/ドラゴン族/攻2200/守2200
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上のドラゴン族モンスターが3体以上リリース、
または3体以上破壊されたターンに手札から特殊召喚できる。
このカードが手札からの特殊召喚に成功した時、このターン破壊された、またはリリースされたドラゴン族モンスターを可能な限り、墓地または除外ゾーンから手札に戻す。
このカードが戦闘を行うダメージステップ時、手札のドラゴン族モンスターを相手に見せる事で発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、見せたカードの種類×1000ポイントアップする。
このカードがフィールドを離れた時、自分は手札を全て捨てる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分はモンスターを通常召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。

 その『カード』を見た愛城は「ハッ」と鼻で笑った。

「――たかが攻撃力2200のモンスター?大仰な召喚条件だから何かと思ったら!」
「たかがかどうか、効果を見てから確かめるんだな!<-蘇生龍-レムナント・ドラグーン>の効果発動。このターンリリースされたドラゴン族モンスター達を、全て手札に戻す!」
「な……!?」

 先程<エレメンタル・バースト>で舞い上がった四つの球体全てが、治輝の手札へと舞い戻る。
 そして治輝にターンが回り、カードを一枚ドローした。
 粒子の雨に包まれている治輝はゆっくりと視線を上げると、愛城を睨み付ける。
 

「受けてみろ愛城。このカードに、俺の重ねてきた全てを込める!!」
「……やってみなさい。私の痛みは、その全てを打ち砕く!」
「行くぞレムナント!極神聖帝オーディンに――」

 攻撃、と。
 治輝が言い終える寸前に。
 一定の姿を成さない、個体よりも気体に近いようなドラゴンが、上空へと飛翔して行った。
 自らの体を散らしながら上昇して行くその龍は、今にも消えてしまいそうな、雲のような存在だ。
 だがその目はくっきりと青く光り、斜め下で蘇生龍を見上げている敵――オーディンを見下ろす。

 最強の極神は、杖に魔力のような物を込め、上空にいる一体のモンスターに狙いを付ける。
 それはまるで、銃か何かを連想させる動作。
 強大な砲撃で敵を打ち滅ぼそうと、目を細め――引き金を引いた。
 
 そして、発射。
 構えた杖から放出される光は、僅かに扇状に広がって行く。
 『天国の断罪』と銘打たれたその一撃は、その名に相応しい威力と範囲を持っている。
 それは回避など、絶対に不可能な神の一撃。
 霧のような体のドラゴンには、耐えられないはずの最強の一撃。
 だが、治輝は諦めない。
 その視線は、絶対に死なない。

「<-蘇生龍-レムナント・ドラグーン>の効果発動!!ダメージステップ時に、相手に手札のドラゴン族を公開する事で、攻撃力をその種類の数×1000ポイントアップさせる!」
「強化能力か。貴方が先程加えたドラゴン族モンスターは四体。最低でも攻撃力は6200――!」

 霧のような、雲のような危うさを持った存在感の気薄なドラゴンに、神の一撃が炸裂する。
 その時<-蘇生龍-レムナント・ドラグーン>が文字通り――『変わった』
 体を形成していた粒子は、その攻撃の直撃を受け、激しく燃え盛り始めた。
 だが、それは消滅する前触れではない。

「頼むぜ、デブリドラゴン!ガード・オブ・フレムベル!ドラゴン・アイス!ミンゲイドラゴン!」

 わぎゃあ、という声が聞こえたような気がした。
 季節外れの、蝉の鳴くような声が聞こえた。
 手札に灯っていた四つの光の球体が、燃え盛る龍の元に飛んで行く。
 そしてソレは、激しい炎に包まれる事で、蘇生龍と一つになった。

 炎の色が――鮮やかな青色へと変色する。

 青い炎を燃え盛らせたその姿は龍というより、鳥獣に近い容姿をしていた。
 炎を纏った幻想上の生き物。人はそれと不死鳥――フェニックスという。
 だが、その咆哮は鳥が出す物とは思えない。重々しい龍の咆哮。
 咆哮を上げながら、今尚放出し続ける神の極光を、少しずつ、少しずつ押し返して行く。
 
 それを見た愛城は、高揚したような表情を浮かべながら、力の限り叫んだ。

「攻撃力6200――!!確かに強力な攻撃力ね。先程のデブリドラゴンより、更に強い力!」
「……」
「先程の<極神聖帝オーディン>は確かに4000以上の力を以て敗れた!だけど、私がいつまでも同じ場所に留まっているとでも思う!?」

 愛城が叫んだ瞬間。
 オーディンの瞳に古代文字の様な物が浮かんだ。
 それは呪術や儀式に用いられた神秘的な文字――ルーン文字
 そしてそれが現れたと同時に<極神聖帝オーディン>は力を増し、光の中にこちらに突き進んでくる蘇生龍が、少しずつ押し返される。
「な……?!」
「これが極神最強の宝具の力よ。これで終わりね、時枝治輝ィ!!」

《極星宝メギンギョルド》(英語版カード)

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「極神」または「極星」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値の倍になる。
このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃をする事はできない。

「このカードの効果で、私の<極神聖帝オーディン>の攻撃力は倍になる!その攻撃力は――」
「攻撃力――8000だと!?」
「これが貴方に絶対越えられないと宣言した理由よ。過去の残滓を束にしたって……この私には適わない!砕け散りなさい、時枝君!!」

 最強の極星宝の力の加護を得て、最強の極神の力は倍増する。
 並のモンスターでは到底太刀打ちできない攻撃力を、その身に宿らせる。
 その倍増した力に耐えられず、蘇生龍は青い炎の翼を交差するように体を覆った。
 この閃光は防御姿勢でなければ、耐え切れない程の威力なのだ。
 その証拠に、攻撃力を全て防御に回した青炎翼に、小さなヒビのような物が入り始めた。
 攻撃力のボーダーラインをいとも簡単に超えてしまった目の前の極神を越える事は、簡単ではない。
 不可能に近い、といっても差し支えがないだろう。
 だが、治輝の心は死なない。
 諦めない限り、人の心は死にはしない。

「過去を振り返るだけじゃ、何の脅威も乗り越えられない――そんな事はわかってる」
「ハッ!ならそれを認めながらそこで息絶えるのね!」
「なら――」
 
「未来を束にしたら、どうだ!!」

 治輝は手札を扇状に開き、更に数枚のカードを天に掲げる。
 それは、超再生能力で新たにドローした、三枚のカード。
 そして通常のドローで加えた、運命の一枚のカード。
 それら全てが新たな光の球体になり、天空で戦っている蘇生龍の元へと集って行く。 

「――もう遅いわ。その龍は……もう終わっている!」

 バキィィィィン!!
 何かが割れるような音が響いた。
 それは、青い炎を纏った蘇生龍の翼が、粉々に壊れた音だった。
 防御を失った蘇生龍に、倍増した断罪の極光が襲い掛かる。
 ほぼ同時に、新たな四つの光が蘇生龍の目の前に到達する。

「――レム!おまえの本当の姿、見せてやれ!!」

 次の瞬間。
 壊れた大きな翼の断片が、光の球体と融合した。 
 未来と、過去との融合。
 二つの異なる残滓は、蘇生龍の後方へと集まり、一つの気筒のような物に変化する。
 ジェット機のブースターにも見えるそれは、機械を思わせる部品にも見える。


「五枚目――<タイラント・ドラゴン>!」
 数々の決闘で、その名の通り数多くのモンスターと戦闘で戦って来た暴龍。
 その暴君の名を冠したドラゴンの力が、蘇生龍の筒へに集まって行く。
 それは青い炎を纏いつつも、何処か赤みを帯びた金属で構築されていた。
 攻撃力は、これで7200。
 
「六枚目――<青氷の白夜龍>!」
 最強のステータスを誇り、幾多のフィールドを制圧してきた美しい氷龍。
 伝説のドラゴンを模したはずの白夜龍が、今こそ自分だけの力で、新たな筒を作り上げる。
 それは青い炎を纏いつつも、何故か青みを帯びた金属で構築されていた。
 攻撃力は、これで8200。

「七枚目――<デコイドラゴン>!」
 治輝が操ってきたドラゴンの中でも、最弱のステータスを持つ子供の竜。
 だがその力は誰かのように。小さくとも、時に強大な敵の攻撃を防ぎ、時に最強の敵を屠って来た。
 それが作り上げた筒は青い炎を纏いつつも、何故か茶色を帯びた金属で構築されいる。
 攻撃力は、これで9200。

「そして八枚目――俺が最後にドローしたカードは!!」
 治輝は手札の最後の一枚を、未だ雷雲が覆っている天に掲げた。
 それは、頭上の雷を呼んでいるようにも見える。
 それは『剣』を天に刺し示しているようにも見える。

「ドラグニティアームズ-レヴァテイン!!」

 極光の、直撃。
 神の一撃が大きな翼の半分を死滅させ、守護を失った<蘇生龍-レムナント・ドラグーン>は咆哮を上げる。
 先程の咆哮とは違う、痛みに苦しむ咆哮。
 前に進むどころか、後ろに逃げたくなる程の辛さを感じた蘇生龍は、痛みに目を瞑りかける。
 だが次の瞬間、四つの筒――ブースターが装着され、点火。
 未来と過去の残滓が重なった時、蘇生竜の恐怖は消し飛んだ。
 青い眼光は再び輝きを取り戻し、膨大な極光の輝きへと突っ込んで行く。
 その攻撃力は、10200。

「な……攻撃力10200!?」

 最強の極神は、蘇生龍に光の放出が効かぬと判断したのか。
 巨大な光球を瞬時に作り出し、それを目の前に迫る蘇生龍へとぶつける。
 直撃し、僅かに揺らぐ蘇生竜。好機と見た<極神聖帝オーディン>は、揺らいだ蘇生竜に直接杖で斬りかかる。
 倍増とした威力の杖と、蘇生龍が激突し合う音が鳴り響く。両者の力は拮抗していた。
 だが、その時蘇生龍のブースターの出力が、更に上がった。
 
「これが未来と過去の残滓を重ねた一撃だ。受けてみろ愛城!」

 オリジナル――と。
 治輝の唇が、僅かにそう動いた。
 自分だけの痛みを忘れようと、過去を振り払おうとした愛城と
 自分だけの痛みを忘れずに、未来に進もうと決意した治輝。
 二人の決闘が、今決着する。

「オリジナル――――レム・ナントォォ!!!」

 その治輝の魂の叫びに呼応して。
 全てのブースターから噴出される力の色が一つになり、倍増した力を備えた最強の極神の杖を粉々に砕き、本体を消滅させた。
 レムナントドラグーンが、鋭い咆哮を上げる。
 それは何故か、何かを喜んでいる声のように感じられた。

【愛城LP】2100→0