遊戯王オリジナル episode-last
「ああ、私は負けたのね」
力の入らない声で、そう呟く。
そこまで高い位置から投げ出されただけではない。
だが脱力した体は衝撃に耐えられず、そのまま頭から地面へと落下していく。
そのまま命を終えるのも悪くはないかもしれない。そう愛城はぼんやりと思った。
そして地面に激突する寸前。
力の入らない声で、そう呟く。
そこまで高い位置から投げ出されただけではない。
だが脱力した体は衝撃に耐えられず、そのまま頭から地面へと落下していく。
そのまま命を終えるのも悪くはないかもしれない。そう愛城はぼんやりと思った。
そして地面に激突する寸前。
――ズサー!!
何者かが、地面と愛城の間に滑り込んで来た。
柔らかい手が、愛城の身体をキャッチし、そして
何者かが、地面と愛城の間に滑り込んで来た。
柔らかい手が、愛城の身体をキャッチし、そして
ゴツン!!
その衝撃を殺し切れずに、何故か頭と頭がぶつかった。
頭突きを食らった形になった何者かは、声にならない叫びを上げ、気絶した。
「……余計な事を」
愛城はそうぼやきながら起き上がり、助けに入った馬鹿が誰かを確認した。
それは、かづなと呼ばれていた少女だった。
目にぐるぐる巻きを浮かばせ、かわいく気絶している。
「キュゥ……」
「……なんで、この子が?」
その衝撃を殺し切れずに、何故か頭と頭がぶつかった。
頭突きを食らった形になった何者かは、声にならない叫びを上げ、気絶した。
「……余計な事を」
愛城はそうぼやきながら起き上がり、助けに入った馬鹿が誰かを確認した。
それは、かづなと呼ばれていた少女だった。
目にぐるぐる巻きを浮かばせ、かわいく気絶している。
「キュゥ……」
「……なんで、この子が?」
この子は一度、私に殺されかけた。
私に精神的に追い詰められ、苦しむ羽目になった。
それの原因であり、張本人である私を、何故助ける必要がある?
私に精神的に追い詰められ、苦しむ羽目になった。
それの原因であり、張本人である私を、何故助ける必要がある?
「それが、かづなって奴なんだよ」
思案していると、不愉快な声が聞こえた。
私を負かせた張本人、時枝治輝。
敗者の無様な姿をわざわざ見に来るなんて、いい趣味をしている。
思案していると、不愉快な声が聞こえた。
私を負かせた張本人、時枝治輝。
敗者の無様な姿をわざわざ見に来るなんて、いい趣味をしている。
「――トドメでも刺しに来たの?それとも私を笑いに来たの?」
「もうおまえを殺す気はないけどな。木咲をまだ諦めないって言うんなら、殺す必要は出て来る」
「……そう」
「もうおまえを殺す気はないけどな。木咲をまだ諦めないって言うんなら、殺す必要は出て来る」
「……そう」
これでは殆ど脅迫じゃないか、と。愛城は笑った。
自由意志に任せると言っておきながら、断るなら殺すと暗に言っている。とんだ偽善者だ。
だが
自由意志に任せると言っておきながら、断るなら殺すと暗に言っている。とんだ偽善者だ。
だが
「必要はあるが……俺はおまえを殺さない」
目の前の不愉快な男は、そんなことを言い放った。
「な……」
「よく考えたんだがな、おまえを俺が殺したら、ベインの連中はリーダーを殺した俺を許さないだろ。そうすれば俺は勿論、俺の関係者にまで危害を加えるかもしれない。かづなや木咲は勿論、純也や七水にもだ」
「……」
「なら、おまえを殺すのは得策じゃない。……多分、木咲も悲しむだろうしな」
「そんな詭弁で、私を見逃すっていうの?かも、とか。でも、なんて言葉で、貴方は大事な人を失うかもしれないのに」
「もしそうなったら、俺はおまえを許さない。一生追い続けて、復讐鬼にでもなってやるさ」
生きていられたらの話だけどな、と目の前の男は付け加えた。
それを聞いた瞬間、なんだか私はおかしくなって、笑ってしまう。
目の前の不愉快な男は、そんなことを言い放った。
「な……」
「よく考えたんだがな、おまえを俺が殺したら、ベインの連中はリーダーを殺した俺を許さないだろ。そうすれば俺は勿論、俺の関係者にまで危害を加えるかもしれない。かづなや木咲は勿論、純也や七水にもだ」
「……」
「なら、おまえを殺すのは得策じゃない。……多分、木咲も悲しむだろうしな」
「そんな詭弁で、私を見逃すっていうの?かも、とか。でも、なんて言葉で、貴方は大事な人を失うかもしれないのに」
「もしそうなったら、俺はおまえを許さない。一生追い続けて、復讐鬼にでもなってやるさ」
生きていられたらの話だけどな、と目の前の男は付け加えた。
それを聞いた瞬間、なんだか私はおかしくなって、笑ってしまう。
「そんな事を言われたら、困ってしまうじゃない?」
「……困る?」
「貴方に一生憎まれ、追われ続ける。……随分魅力的に聞こえるわ、その提案は」
「……困る?」
「貴方に一生憎まれ、追われ続ける。……随分魅力的に聞こえるわ、その提案は」
笑みを崩さぬまま、私は目の前の男に対し踵を返す。
その足取りは思ったより重く、身体を自由に動かす事は困難だった。
オーディンを使った反動か、忌々しい蘇生龍の攻撃が原因か。――なんにせよ、それを目の前の男に悟られるのは面白くない。
その足取りは思ったより重く、身体を自由に動かす事は困難だった。
オーディンを使った反動か、忌々しい蘇生龍の攻撃が原因か。――なんにせよ、それを目の前の男に悟られるのは面白くない。
「待てよ、まだ話は……!」
その場を去ろうとした私に気付いたのか、目の前の男は私を呼び止める。
私はそれをうるさそうに思いながらも、身体を横向きにして睨み付け、言った。
その場を去ろうとした私に気付いたのか、目の前の男は私を呼び止める。
私はそれをうるさそうに思いながらも、身体を横向きにして睨み付け、言った。
「さっきの言葉、嘘じゃないでしょうね」
ただ嘆き悲しむだけではなく、辛く痛い思いをするだけではなく。
自らの痛みを、他人の為に使うのだと、目の前の男は言った。
私はそれを信じない。そんな絵空事を受け入れるわけにはいかない。
だが……
ただ嘆き悲しむだけではなく、辛く痛い思いをするだけではなく。
自らの痛みを、他人の為に使うのだと、目の前の男は言った。
私はそれを信じない。そんな絵空事を受け入れるわけにはいかない。
だが……
「……あぁ、嘘じゃない」
私が何を言わんとしたのかを察したのか。目の前の男は黙って頷いた。
それを確かに頭に刻んだ私は、再び踵を返す。
「なら、しばらくは様子を見てあげるわ。貴方のくだらない理想論が、嘘だとわかるまで」
「……」
「貴方だけがそれを成しても意味はない。大部分の人間がそれを実行できるようになり、私達の迫害が減少すれば、様子見は長く続くでしょうね」
「……愛城、おまえ」
「勘違いしないで、私は貴方の理想が嘘だとわかっている。だからこれはただの余興よ。今までと人間が何も変わらないようなら、私はまた行動を起こす。余計な期待を持たせた貴方と、目障りな木咲も、再びこの世から抹消してあげる」
私が何を言わんとしたのかを察したのか。目の前の男は黙って頷いた。
それを確かに頭に刻んだ私は、再び踵を返す。
「なら、しばらくは様子を見てあげるわ。貴方のくだらない理想論が、嘘だとわかるまで」
「……」
「貴方だけがそれを成しても意味はない。大部分の人間がそれを実行できるようになり、私達の迫害が減少すれば、様子見は長く続くでしょうね」
「……愛城、おまえ」
「勘違いしないで、私は貴方の理想が嘘だとわかっている。だからこれはただの余興よ。今までと人間が何も変わらないようなら、私はまた行動を起こす。余計な期待を持たせた貴方と、目障りな木咲も、再びこの世から抹消してあげる」
眼下の男の表情は、よく見ることはできなかった。
だが、もう彼は私を引き止めることはない。
その事に複数の想いが交差したが、その思いをかぶりを振って振り払う。
だが、もう彼は私を引き止めることはない。
その事に複数の想いが交差したが、その思いをかぶりを振って振り払う。
今度こそ踵を返した私は今度こそ、ダークルーラーに乗り、その場から天上へと昇っていった。
再び誰にも見ることのできない、雲の上の世界へと。
再び誰にも見ることのできない、雲の上の世界へと。
「行った、か……」
愛城が頭上へと飛翔していき、その姿が見えなくなると、治輝は安堵の息を吐く。
これで、俺のやるべき事はひとまず終わった。愛城はしばらく、木咲を狙う事はしないだろう。
後は、やり残した事を、どうするか。
例え愛城の脅威がなくなっても、木咲の喉が治るわけではないのだ。
世界中の何処かに俺が居るわけで、アイツは苦しみ続ける。その事実は、何も変わらない。
「ま、あれだけ大見得切ったんだ。あがけるところまであがいてやるか」
陰鬱な考えを隅にやり、そう気持ちを切り替えると。
これで、俺のやるべき事はひとまず終わった。愛城はしばらく、木咲を狙う事はしないだろう。
後は、やり残した事を、どうするか。
例え愛城の脅威がなくなっても、木咲の喉が治るわけではないのだ。
世界中の何処かに俺が居るわけで、アイツは苦しみ続ける。その事実は、何も変わらない。
「ま、あれだけ大見得切ったんだ。あがけるところまであがいてやるか」
陰鬱な考えを隅にやり、そう気持ちを切り替えると。
「……なんだァ?もう祭りは終わっちまった後かよ。交通費返せよてめェ」
これ以上無いほど聞き覚えのある、非常に不愉快な声が、辺りに響いた。
これ以上無いほど聞き覚えのある、非常に不愉快な声が、辺りに響いた。
「う……ん?」
眠りから覚めると、かづなはゆらゆらと揺れていた。
目の前には人の頭があり、ゆらりとゆらりと揺れている。
(きっと疲れてるのに重い物を運ばせてもらってるんだね。おつかれさま)
寝惚けた意識で、私はそんな事を心中で呟き、目の前の頭に同情する。
目の前には人の頭があり、ゆらりとゆらりと揺れている。
(きっと疲れてるのに重い物を運ばせてもらってるんだね。おつかれさま)
寝惚けた意識で、私はそんな事を心中で呟き、目の前の頭に同情する。
頭、頭……?
なんだろう、『頭』という言葉に、なんだか私のDNAが拒絶反応を示している。
なんだかごくごく最近に、凄く痛い思いをしたような……
なんだろう、『頭』という言葉に、なんだか私のDNAが拒絶反応を示している。
なんだかごくごく最近に、凄く痛い思いをしたような……
ゴッチーン、と。
そこまで思考を進めたかづなは、ようやく、その擬音を思い出した。
そこまで思考を進めたかづなは、ようやく、その擬音を思い出した。
「……石頭のガチガチ愛城さん!?」
急にさっきあった事を思い出すと、かづなはバッと急に顔を上げ、そんなことを口走った。
目の前にあった頭は、うんざりとしていそうな声を出す。
「……どんな第一声だよ」
「あ……なお君?」
なんと、目の前の頭はなお君の頭だった。
つまり私は、背負われて、おんぶされているという事で……
そう思った瞬間、私の頭が火のように熱くなった。
今ならブレイズキャノンのコストにもなれる気がする。
「……まだくらくらするのか、無理すんなよ。家まではおぶってやるから」
「……うん」
まぁいいや、と私はまだボンヤリとする頭で考える。
人生は何事も経験だ。滅多にできる経験じゃないのなら、率先的に挑戦するべきなのである。
急にさっきあった事を思い出すと、かづなはバッと急に顔を上げ、そんなことを口走った。
目の前にあった頭は、うんざりとしていそうな声を出す。
「……どんな第一声だよ」
「あ……なお君?」
なんと、目の前の頭はなお君の頭だった。
つまり私は、背負われて、おんぶされているという事で……
そう思った瞬間、私の頭が火のように熱くなった。
今ならブレイズキャノンのコストにもなれる気がする。
「……まだくらくらするのか、無理すんなよ。家まではおぶってやるから」
「……うん」
まぁいいや、と私はまだボンヤリとする頭で考える。
人生は何事も経験だ。滅多にできる経験じゃないのなら、率先的に挑戦するべきなのである。
それに、こんな感覚は久し振りだ。
久し振りに、なお君に会えた。
久し振りに、なお君と話せた。
なんでもないような事を話せるようになったってことは、きっと幸せって事なんだろう。
そんな恥ずかしい事を思いながら、かづなは目の前の背中に頭を預ける。
こんな風に、ずっと続けばいいと、そんなことを思いながら。
久し振りに、なお君に会えた。
久し振りに、なお君と話せた。
なんでもないような事を話せるようになったってことは、きっと幸せって事なんだろう。
そんな恥ずかしい事を思いながら、かづなは目の前の背中に頭を預ける。
こんな風に、ずっと続けばいいと、そんなことを思いながら。
「……かづな、あのさ」
「うーん……?」
「うーん……?」
だから、私は神妙な声を出すなお君の問いに、寝惚けたような、能天気な声で聞きなおす。
だから、なお君が続けて言った言葉に
だから、なお君が続けて言った言葉に
「お前とは、もう会えなくなるかもしれないんだ」
ぼんやりとした意識は、残らず全て、消し飛ばされていった。