シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル epilogue-01

「どれにしよう……」

 かづなは腕を組み、難しい顔をして悩んでいた。
 目の前には、数枚並べられた特価のシングルカード達。
 どれもお得な値札が自らを自己主張しているが、全てを買う程お財布は重くないのである。
 ふぅ、と自分の金銭事情にため息を付いたかづなは、左端にあるカードに目をやる。
 そのカードを見て、かづなは自分に懐いてくれた少女の事を連想し、僅かに笑った。

《コダロス/Codarus》 †

効果モンスター
星4/水属性/海竜族/攻1400/守1200
自分フィールド上に表側表示で存在する
「海」を墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在する
カードを2枚まで選択して墓地へ送る。

 ――愛城さんとの戦いのショックで、意識不明になっていた七水ちゃん。
 私は心配で病院に泊まり込んでいたけれど、2日後に無事に目を覚まし、すぐに退院する事ができた。
 七水ちゃんは目を覚ました時、私となお君が口喧嘩をしているのを見ると、ホッとしたように笑っていた。

「かづなおねえちゃん、やっと元気になったね」

 そう言って、微笑んでくれた。
 なお君は気まずそうに視線を逸らしていたけど、私はその言葉が嬉しかった。
 しかし『おねえちゃん』と呼んでもらっているというのに、七水ちゃんには心配をかけてばっかりだ。 
 これじゃあどちらが『おねえちゃん』なのかわかったものではないので、私はもっと大人になろうと思う。

 続いてかづなは、左から二番目のカードに視線を寄せた。

《アームズ・エイド/Armory Arm》 †

シンクロ・効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻1800/守1200
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとしてモンスターに装備、
または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 七水ちゃんは目を覚ましてから、似たような状態だった『純也君』の病室に駆け込んだ。
 わたしのせいでこうなってしまったから、と。
 目を覚ますまで純也君の手を、ずっと握っていた。
 私は会った事がなかったのだけれど、なお君や七水ちゃんから大体のことを聞いている。
 なんでも、行方不明のお兄さんを探している――とか。
 純也君は目を覚ますと、自分の事を情けなく思いながらも、七水ちゃんの手を握り返していた。
 傍から見てると絶対に『デキている』ようにしか見えない二人を見て、私は若干複雑な感情を覚える。

 ――小学生で恋人持ちとか凄く<ブラックボンバー>だ、と。

 素直に七水ちゃんの幸せを喜べない私は醜い子だなぁ、と思っていたのを鮮明に思い出す。
 なお君の顔を見ていたが、どうやら私と似たような心境だったらしく「ダークダイブボンバー召喚してぇ……」 等と小さく呟いていた。
 気持ちはわかるけど、あのカードはもう絶対に戻ってこないと思うよ、なお君。

 現在七水ちゃんと純也君の二人は、お兄さんの手がかりを一緒に探しているらしい。
 その甲斐あって、どこかの公園でお兄さんの主力にしていたカードを見つける事ができたとか。
 そのカードの名前はまだ二人だけの秘密……という事らしく、まだ教えてもらっていない。
 
《ハネワタ/Hanewata》 †

チューナー(効果モンスター)
星1/光属性/天使族/攻 200/守 300
このカードを手札から捨てて発動する。
このターン自分が受ける効果ダメージを0にする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

 右端のカードを見て、私は愛城さんのことを思い出す。
 愛城さんが作った組織――ベインは、最近活動を大幅に縮小させている。
 だが、世間への牽制は未だに行っているようで、サイコ決闘者と一般の人との諍いはまだ続いているのも事実だ。
 それに自分が何ができるのか、明確な物はわからないけれど、自分のできる範囲の事は、何でも関わって生きたいと思う。
 ――なお君の、為にも。

デブリ・ドラゴン/Debris Dragon》 †

チューナー(効果モンスター)(準制限カード)
星4/風属性/ドラゴン族/攻1000/守2000
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を
攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、
ドラゴン族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
また、他のシンクロ素材モンスターはレベル4以外のモンスターでなければならない。

「……」

 中央のカードに視線を向け、私はそのカードをじっと見つめた。
 目を瞑って、色んな事を考える。
 そうやって考えて、沢山の事を思っていると――

「それ、買うのか?」

 声が聞こえた。
 その声の主は、横から探るようにしてカードをじっと見つめる。
「そうですね。やっぱりこのカードを買おうかなー、と」
「そうか、わかった」
 そう聞くと、声の主――なお君はそのカードをひょいっと摘むと、それをレジへと持っていこうとする。
 それを見た私は、全力で驚愕した。驚いて愕然とした。
 女の子が欲しいと言った物を、男の人がレジに運ぶ行為。それはつまり……
「え、あのケチが服着てオーバーレイしてるような、なお君が……!?」

 奢ってくれるんですか!?と。

 意外性から来る驚愕と、ほんの少しの喜びを滲ませながら私は大声を出した。
 あれからすぐに財布が見つかったとはいえ、それだけではケチは直らなかった。
 なのに、いきなり奢ってくれるなんて――
 そんな風に謎の感傷に浸っていると

「奢り……?何言ってんだ?」 
 呆れたような声を出しながら、なお君が声を出す。
 私がその言葉の意味を判りかねていると、なお君は言葉を続けた。

 ――二枚目のデブリドラゴン、丁度欲しかったんだよなぁ、と。

 ガシャアアアアアアン
 私の甘い幻想が、粉々に砕かれる音が頭の中で鳴り響いた。
 奢るつもりなど毛頭なく、欲しかったから横取りした――つまりはそういう事だ。
 目の前のこの男は、ケチなんていう生優しい言葉では表現できない。

「鬼!悪魔!鬼畜モグラ!!」

 あらん限りの憎悪を込め、私はレジで清算をしているなお君に向かって、悲痛な叫びを上げる。
 それに反応したなお君は、いたずらっこのような顔で、心底おかしそうに、笑った。