シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル epilogue-05

 そのモンスターを
 <幻魔皇ラビエル>を見たかづなは、無意識に体が震えてしまった。
 以前、心を壊されかけた時の記憶が、鮮明に思い出される。
 もう怖くないと、心の奥底から思ったのに。
 あの時の感触が、心が持っていかれるような感覚が、かづなに襲い掛かる。

 そんな様子を、治輝が横目で見つめていた。
 目を逸らしたら殺される――そんな表現が似つかわしい程の存在感を目の前にしながら
 治輝は、じっとかづなの方に視線をやりながら、口を開く。

「――かづな、受け取れ!」
 治輝はそう言って、アンダースローのような構えからスリーブ付きのカードを投げた。
 その声に驚いたかづなは「わわっ」と言いつつも何とかそのカードをキャッチする。
「な、なんですか……?」
 枯れたような声を出しながら、かづなはそのカードの中身を確認する。
 そしてその絵柄を見た途端、驚愕で体が硬直した。

「え、え……?」
 そのカードは、ここにあっていいカードではなかった。
 私に今渡していいはずがないカード。
 なお君のデッキに、出会った頃からずっと入っていたはずのカード。
 視線で必死にそれを訴えると、治輝はいらずらっぽい顔をかづなに向けた後、再び最強の幻魔へと体を向きなおす。

「連れて行くにはまだ幼い感じするからな。――俺が帰るまで、預かってくれると助かる」

デブリ・ドラゴン/Debris Dragon》 †

チューナー(効果モンスター)(準制限カード)
星4/風属性/ドラゴン族/攻1000/守2000
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を
攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、
ドラゴン族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
また、他のシンクロ素材モンスターはレベル4以外のモンスターでなければならない。

 その絵柄を見ていると「わぎゃぁ!」という、いつもの声が聞こえた気がした。
 忘れもしない、なお君と初めて会った時に<プロミネンスドラゴン>を怖がっていた子だ。
 なお君の決闘の根っこの部分を支えてきたカードの、一枚。

 ――私なんかには、相応しくありません。

 そう言ってしまうのは簡単だった。
 でも、そう言ってしまうのは憚られた。
 一度そう言ってしまったら、せっかく前に向いた足が、また後ろに向いてしまいそうで。
 そんなことじゃ、なお君は安心して旅立てない。
 ……そう考えると、自然と震えは止まっていた。

「なお君――」
 
 なお君なりの励ましだったのかもしれない――と、かづなは思う。
 私が『戒斗さんとの決闘を見に行く』と伝えた時から、こうなるような気がしていて。
 だから、新しい<デブリドラゴン>を自分で買ったのかもしれない。
 さっきの顔を見るに――憎らしいけど、本当にそういう事なのだろう。
 
 いつもいつも、私の事を助けてくれて。
 不器用だけど、物凄く遠回しに慰めてくれた、なお君。
 本当に私は、感謝してもし切れない。
 一生掛かっても返せない恩を、この短い間にいっぱいもらえた気がする。
 ……だけど

「それも今日まで、なんだよね」





遊戯王オリジナル epilogue-05


【治輝LP4000】 手札6枚   
場:タイラント・ドラゴン(守備表示)
伏せカード1枚

【戒斗LP4000】 手札2枚
場:終末の騎士 幻魔皇ラビエル
伏せカード1枚

「幻魔の皇の御前で余所見とは随分余裕じゃねぇか。治輝クン?」
「ふざけろ。ソイツ相手に余裕ができる日なんて来てたまるか……!」

《幻魔皇(げんまおう)ラビエル/Raviel, Lord of Phantasms》 †

効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を
生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手がモンスターを召喚する度に自分フィールド上に「幻魔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。
1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、
このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は
生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 ニヤリと笑みを浮かべながらも、治輝の顔に冷や汗が流れる。
 城のような高みからこちらを見下ろし、極限の威圧感を今も放つ最強級のモンスター。
 コイツが大暴れするか、コイツを倒さない限り、例の『異世界』とやらには行く事はできない。

「どうせなら、勝って気分良く行きたいもんだが……!」
「そうは問屋が降ろさねェよなぁ!俺はラビエルで<タイラント・ドラゴン>に攻撃――蹂躙しろラビエルゥ!」

 その巨大な拳が天へと振り上げられ、治輝は瞼を閉じたくなる衝動に駆られる。
 だが、それでは駄目だ。
 心まで防戦一方になっていて、勝てる相手じゃない――!

 ズシャアアアアアアアアアアン!!
 凄まじい轟音が、旧商店街の辺りに響き渡った。
 拳が直撃した<タイラント・ドラゴン>は咆哮を上げる間もなく粉々に消滅し、その拳が振り下ろされた地面から岩盤が宙へと舞い上がっていく。

「ッ……!」
「てめェに直接振り下ろせないのが残念で仕方ねェが、代わりにコイツを食らいなァ!」
 戒斗の声が響き渡った瞬間、終末の騎士が治輝に向かって駆けて行く。
 そしてその剣を、挙動を崩さずに上から下へと切り下ろした。
 その一撃をまともに食らい、治輝は声にならない叫びを上げ、若干後ろへと後ずさる。

【治輝LP】4000→2600

「くっ……」
「――さすがにこの程度じゃ致命傷にはならねぇか。これで俺はターンエンドだァ!」

【治輝LP2600】 手札6枚   
場:なし
伏せカード1枚

【戒斗LP4000】 手札2枚
場:終末の騎士 幻魔皇ラビエル
伏せカード1枚

「俺の、ターン!」
 治輝は痛みで一時的に感覚のなくなった右手をデッキに添え、カードをドローする。
 状況は最悪だが、どうにか切り抜けるしかない。
 目の前に聳え立つ幻魔皇を見上げつつ、手札からニ枚のカードを選び取る。

「俺は3枚のカードを伏せて、ターンエンドだ!」
「――はァ?」

 戒斗は怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐにニヤリと口を釣り上げる。
 そして心底楽しそうに、言い放った。

「――そういやてめェは、そういった不可解な行動をした後にこの俺を倒しやがったんだったなァ」
「……」
「次は油断しねェぞ、てめぇがそのカードで何を企もうが、その上を越えてやる!」

 戒斗は開いた手に徐々に力を入れ、拳を握っていく。
 これこそが、戒斗の『強さ』だ。
 読み合う力だけではない。どんな妨害の可能性があろうが、決して折れない強靭な心。
 それが幾多の虐げを乗り越え、ペインとしての力を受け入れた、戒斗の力なのだ。

 ――手強いに決まっている。
 だが、今回はそれを越える必要がある。絶対に負けられない。
 治輝は思いを新たに、戒斗の出方を伺う。
 空っぽのフィールドで、最強の幻魔と戦う為に。

【治輝LP2600】 手札4枚   
場:なし
伏せカード4枚

【戒斗LP4000】 手札2枚
場:終末の騎士 幻魔皇ラビエル
伏せカード1枚