シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル epilogue-08

【治輝LP2600】 手札2枚   
場:なし
伏せカード1枚

【戒斗LP4000】 手札1枚
場:終末の騎士(守備表示) 幻魔皇ラビエル(守備表示)

「<エレメンタルバースト>が、防がれた……」

 その事実に、治輝は愕然とする。
 渾身の思いで仕掛けたコンボですら、目の前の男には通用しなかった。
 だが、何かがおかしい。
 確かに<エレメンタルバースト>は発動した。発動自体を無効にされたわけではないのだ。
 だが先程と同じ<亜空間物質転送装置>のようなカードを使っていれば、幻魔は一時的に場を離れているはず。
 なら、何故幻魔皇は今も生きている――?!

「不思議かァ?だったら俺の墓地でも見るんだなァ!」

 墓地?
 戒斗の言葉に釣られ、治輝は反射的に墓地を見る。
 すると、そこには見慣れない罠カードが一枚存在していた。

《暴君(ぼうくん)の威圧(いあつ)/Tyrant's Temper》 †

永続罠
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する元々の持ち主が自分となるモンスターは、
このカード以外の罠カードの効果を受けない。

 治輝はそのカードを確認するや否や、悔しそうな表情を浮かばせる。
「そういう事かよ……!」
「俺はてめェの<エレメンタルバースト>にチェーンする形でこのカードを発動した。当然このカードも破壊からは免れねェが、破壊される一瞬の間――確かにこのカードは場に存在する」

 だが、一瞬で十分なのだ。
 <エレメンタルバースト>が発動しているその時に
 <暴君の威圧>がフィールドに存在してさえいれば
 戒斗の場のモンスターに、罠カードの効果は通用しない――。
 戒斗は現状を把握した治輝に見下すような視線を向けると、ニヤリと口元を歪めた。

「――これが俺の力だ。てめェは以前の俺を否定したが、てめェに今の俺を否定できるか?」
「……」
「力を求める事はなァ、決して悪なんかじゃねェ。どんなに大層な理想を抱いていようが、どんなに勇ましいご立派な思想を何度も馬鹿みてェに主張しようが、それに実力が伴っていねェのなら!行動が伴ってないのなら――滑稽でしかねぇんだよォ!」

 その戒斗の言葉を、治輝は目を瞑って考える。
 戒斗が言っている事は、恐らく以前の戒斗を取り巻く環境に対して言っているのかもしれない。
 元はサイコ決闘者である治輝自身にも、そういう覚えはある。
 目の前にいる時は『頑張れ』と言葉だけの励ましを送った人は
 虐げられている自分を見つけても、目を合わせてさえくれなかった。
 俺はあの『学校』に入って以来力を隠し続けてきたが、戒斗はあの『学校』に入ってからも、そういった地獄を経験し続けていたのかもしれない。
 治輝はゆっくりと息を吐き、目の前の戒斗と、それが従える<幻魔皇ラビエル>に視線を寄せる。

「勘違いしてるみたいだが、俺はオマエを丸ごと否定した覚えはない」
「……何ィ?」
「俺が許せなかったのは『痛みを受けた者の権利』だとか言って、何の関係もないかづなを巻き込んだ事だ」
「……」
「もし俺が『サイコ決闘者』という事を隠し続けられなかったら。おまえのように『あの地獄』を更に味わい続けていたら。木咲とも関わる事はなく、自分の目標さえ見つけられず日々を過ごしていたら――」

 俺はオマエになっていたかもしれない、と。
 聞こえるかどうか怪しい程小さいな声で、治輝は呟いた。
 だが、戒斗には聞こえたらしい。
 心底退屈そうな目を向け、吐き捨てるように言い放つ。

「『もし』だの『たら』だの、そんなもんに本来興味はねェが――てめェの今の言葉は大間違いだなァ?」
「……何?」
「もしてめェの言う通り、俺がてめェで、てめェが俺だったとしてもだ」

 そこで一旦台詞を止めた戒斗は
 退屈そうな姿勢を崩さぬまま、目をゆっくりと閉じ――
 
「俺は俺で、てめェはてめェに決まってるだろうが」

 そう、何でもない事のように。
 何を当然の事を言ってるんだ、と言わんばかりの気だるさを含んだ声で
 戒斗は、ハッキリとそう言い放った。
 治輝はその声に、一瞬言葉を失ってしまう。

「俺がてめェでも、俺は力を求める!何度やり直したってそれは変わらねェ!」
「……」
「てめェは俺になった程度でてめェじゃなくなるのか――?違ェだろうがよ同級生!」

 戒斗の言葉は、何処か支離滅裂だった。
 だが、治輝にはその言葉の意味が、なんとなくわかってしまった。
 フッと笑いながら、治輝は決闘盤を構え直す。

「おまえにそんな事を言われる時が来るとは――俺も潮時かな?」
「ヘッ、てめェは幻魔を召喚された時から既に潮時だろうが」
 戒斗は治輝の表情が変わったのを確認すると、ニヤリと口元を釣り上げる。
 決闘盤を構え直し、治輝を正面から睨み付ける。

「てめェは似たような状況で一度手加減をしやがった。俺は勝ったが、アレじゃァ意味がねェ」
「……」
「ぶれるなよ同級生!俺はてめぇに勝ちたいわけじゃねェ、てめェがてめェである時に、てめェの上を行きてェだけだ!」
「――そうだな。だから決闘は面白い」

 戒斗のらしいような、らしくないような言葉を染み込ませるように、治輝は目をゆっくりと閉じる。
 幻魔を倒すとか、その後にある事とか、今は考える事すら余計だ。
 そんな余裕が許される相手では、最初からなかったんだ。
 だからこそ、治輝は精神をより一層集中する。

「おまえがおまえだからこそ、俺が俺だからこそ――倒し甲斐がある!勝ち甲斐がある!」
「そゥだ。そう来ないといけねェ!さぁ挑んでみろよ、この最強の幻魔と、最強の力を求めるこの俺によォ!」
「あぁ――だから見せてやる!」

 治輝が声を発した瞬間。光が治輝の元へと再び集まっていく。
 それは幻魔皇に握り潰されたはずの光の欠片だ。
 四散しても尚、主人に結集していく四つの光。
 それは星座のように美しく瞬きながら、治輝の回りに漂って行く。
 まるで、大切な誰かに、寄り添うように。

「――砕けし星の断片よ!」

 空に叫ぶように、治輝は言葉を紡いで行く。
 同時に、手札から一枚のカードを選び取った。
 そのカードは不可解な、しかし美しく透明な青い光を発している。

「集いし記憶を力に変え」

 思えば、今まで色んな事があった。
 だが、それは目の前の相手も同じだ。
 一体どんな思いをした結果、貪欲に力を求めるようになったのか。
 それを知らない以上、言葉面だけでアイツを否定する事はできない。

「全てを染める、残滓と成せ!」

 だが、今はそれでいいのかもしれない。
 アイツにはアイツの歴史があって、俺には俺の歴史がある。
 そして、アイツは今、俺の越えるべき壁だ。
 その壁の先に行く為に、過去を束ねて、このカードに全てを込める。
 この決闘を勝つ事で、成す為に!

「掴め!蘇生龍――――レムナント・ドラグーン!!」
「な……に?」

 そのモンスターは、治輝の叫びと共に。
 戒斗の目の前に、幻魔皇ラビエルと対峙するように。
 戒斗自身が聞いた事のない名称と共に、最後の決着の場へと君臨した。
 

【治輝LP2600】 手札1枚   
場:-蘇生龍-レムナント・ドラグーン
伏せカード1枚

【戒斗LP4000】 手札1枚
場:終末の騎士(守備表示) 幻魔皇ラビエル(守備表示)