シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王Oカード prologue-02

 
 隣の席にいる白矢君は、元々同じ学校の生徒だったらしい。
 クラス等が違ったので見た事はなかったが、彼の噂は聞いた事があった。

 一言で言うなら 『限定カード収集家』

 手に入り辛いカードや高レートカードを手に入れる為に全てを賭けているような生徒で、その為ならどんな手段も厭わないとか何とか。
 その噂は本当なんだろうか、等と思いつつ、目の前の黒板に様々な文字を書き足していく先生を見つめる。
「ここテストに出るぞ~。わからない奴は……」
「先生。質問です」
「……白矢か、なんだ?」
 自然と辺りが静まり帰り、白矢君が椅子を引く音が教室内に響き渡る。
 その顔は何処か不満気で、先生に対して何らかの苛立ちを覚えているように見えた。
 今やっているのは古文の問題。
 だから『古文をやって、将来何の役に立つのか?』
 とでも言及するのではないか、と推測した。
 別に古文が嫌いなわけではないが、そう思った事が一度でも無いと断言すれば、それは嘘になる。
 実際に古文を現在社会で使う機会など限られているのだから。
 白矢君が立ち上がり、クラス中の注目を浴びる。
 鬱陶しく思っていそうな人もいれば、好奇の視線を寄せる人
 「またか」 とため息をつく人――色々な人の態度や思惑が入り混じる。
 私はというと、先程のぼんやりとした推測の通りなのか、まるで答え合わせをする子供のような思いで、その言葉を待ち続ける。
 そんな衆人環視の中、凛とした声でハッキリと、まるで挑戦状を叩き付けるように、言った。



「……こんなことをやって、決闘で何の役に立つんですか?」














遊戯王Oカード 2



「……白矢。さっきのアレはなんだよ」
「なんだ友人A」
 今にもため息をつきそうな陰鬱さで白矢に話しかけたのは、一つ前の席にいる男子生徒だ。
 先程チャイムが鳴り、今は休み時間である。
「その友人Aってのもいい加減やめろ!俺にはれっきとした……」
「友人Aの何処に不満がある?」
「不満だらけだよ! その呼び方だと思いっきりモブキャラ扱いじゃねーか!」
「人間なんて皆モブキャラだろう? 限定カードに比べれば」
「あーはいはい、そーでしたね……」
 またいつものが始まったか、と友人Aは理解良く呟く。
 二人はその名の通り友達同士である為、友人Aはクラスで一番白矢に理解がある生徒である。
 というより、白矢に友人B以降が居ないだけでもある。
「例えば、友人と限定カードが崖から落ちそうになったとする」
「どんな状況だよ」
「友人を助ければカードが、カードを助ければ友人は助からないわけだ」
「何故片方だけ……?」
「両方を選べば重さに耐えられないからな」
「……そうか、そうかもな」
「そして当然、オレは友人Aを犠牲にしてブリュを選ぶ」
「そこは俺を助けろよ!? あとブリュって言うな!」
 友人Aは机に突っ伏して、悲痛な叫びを上げる。
 その叫びが真に迫ったものなのは、恐らく白矢が冗談でなく本気で言っている事を理解しているからだ。
「そもそもおまえのいつも言ってる『限定カード』って曖昧過ぎるんだよ、何か基準でもあるのか?」
「ある。まずは単純にレア度だな」

Super	スーパーレア	通常	ホイル加工	
Ultra	ウルトラレア	金箔	ホイル加工	
Secret	シークレットレア	ダイヤモンドカット箔	ホイル加工+パラレル処理	例外あり
Parallel	パラレルレア		カード全面がパラレル処理
Ultimate	アルティメットレア	金箔	レリーフ加工	属性・レベルもレリーフ加工
Holographic	ホログラフィックレア	ダイヤモンドカット箔	ホログラム加工	
Ul-Secret	ウルトラシークレットレア	ダイヤモンドカット箔	ホイル加工	
N-Rare	ノーマルレア	通常	通常	外見はノーマルカードと同じ
N-Parallel	ノーマルパラレルレア	通常	通常	カード全面がパラレル処理
Gold	ゴールドレア	ダイヤモンドカット箔	ホイル加工	レベル・カード枠等もホイル加工

「――以上のカードは産出が他のカードより少ない」
「……限定って言っていいのか、それ」
「オレの中では言うんだよ」
「あ、そうですか……」
 ガックリと項垂れる友人A、もうリアクションするのも億劫なようだ。
 構わず白矢は続ける。
「ただ産出が多過ぎるプレミアム等のパックは駄目だな」
「なんでだよ。光ってるだろ」
「10種類の内5枚が入ってるカードに何の価値がある? 誰が買っても似たような内容のパックに価値はない」
「……なるほどな」
 つまり重要なのはレア度そのものではなく、産出量だと白矢は言いたいらしい。
「スーパーレアカードは 『箱』 の中に3枚しか入っていない。対して人間は学生に限定しても 学校という『箱』に200枚以上入っているわけだ。それに価値は見出せない」
「どんな超理論だ」
「超か。悪くない響きだ」
「おまえは小学生かっ!?」
 やいのやいのと喚く友人Aに、白矢はため息を吐く。
 人と人が理解し合うのは、余りにも難しい。
「――まぁそれはいいとして、さっきのアレはなんだったんだ?先生に言ってたアレは」
「事実だろう。古文が決闘の役に立つとは思えない」
「いやまぁそうだけどさ……」
「先生の反論も見苦しかった。古代文字で書かれたカードも存在するだのと世迷言を……現実を見ろと言いたい」
「律儀に反論してくれる先生にもびっくりだよ俺は……」
 友人はそう言いながら、色々な疲れを振り払うように立ち上がる。
 まとめておいた教材を持ち、椅子を元の位置に戻した。
「次移動教室だろ?そろそろいこうぜ」
「ああ、そうするか」
 友人Aよりも1つ多く荷物を持ち、白矢も立ち上がる。
 話し込んでしまったが、まだ予鈴は鳴っていない。
 二人は焦らず、人がまばらになった教室から出て行った。



 ●●●


 
 隣で本を読んでいるフリをしていた蒼菜は二人が去った後、思う。

 白矢君、友達いたんだなぁとか。
 噂は割と本当っぽいぞ、とか。
 ……後は、カードに対する価値観とか。

「なかなか、わかってくれる人なんていないよね」

 手の中のファイルを見ながら、そう呟く。
 一つため息を吐いた後、いつものように気持ちを切り替え、それを机の中に入れる。
 次は移動教室。
 蒼菜は科学の授業に必要な教材を素早く取り出し、急いでその教室から走って行った。