シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード prologue-05

「わからせてやる! 俺のター……」
「待て、先行はフェアに決めるべきだ」
 憤懣の色に染まった転武が強引に先行で決闘を始めようとしたが、白矢はそれを制止する。
「言い出した方が自動で先行で始めていいなどというルールはない。よって――ダイスで決めるべきだ」
 そう言って取り出したのは、先程蒼菜を救う時に放り投げた四角い物体。
 その正体は、金属のような光沢を放つ漆黒の6面ダイスだった。
「それ、サイコロだったんだ……」
「へっ、いいぜ――面倒だが乗ってやる!」
「えっ」
 転武のその返答に、蒼菜は意外そうな声を出す。
 先程まで烈火の如く怒っていた転武が、些細なことであろうと相手の要求を呑むとは思わなかったからだ。
 それは白矢も同じだったようで 「ほぅ」 と短く呟き――顔つきが変わった。
「……お前にダイスはあるのか?」
「あるぜ。自前のがなぁ!」
「――なるほどな、よくわかった」
 その返事に、白矢は細める。
 何が 『よくわかった』 なのか、蒼菜には見当もつかない。
 だが、その答えはすぐわかった。

「へっ……ダイスロール!」

 転武が自らのダイスを振ると、すぐに目が出た。
 その目は――6。
 考え得る限り、最高の数値。

「うそ、そんな簡単に」
「馬鹿が、俺には簡単に出せるんだよ。これは俗に言う四五六賽って奴だぁ!」
「四五六賽!?」

 四五六賽――
 それは、4・5・6の目だけがついているサイコロの事を指す。
 当然、それを使えば勝つ確率は飛躍的に上がる。

「やはりか。自分で賽で手を加えて決闘の法を犯すとは――カスの考えそうな事だ」
「なんとでも言えよ同類が! 俺に挑んだなら、1つくれぇは俺のルールに縛られるってのが筋だろうが!」
「それは 『賽にお前が改良を行っても違法にならない』 ……そういう認識でいいのか」
「ああ、そうだ!」
「ならそれ以上ルールを増やすなよ。筋とやらを通したいのならな」
「ああ、男に二言はねぇ。だがな――」

 転武はニヤリと笑い。アスファルトに転がった四五六賽を指差す。
「てめぇが俺に勝つには、次に6を出し、その次に5以上の目を出すしかねぇ――だが、そんなもんは無理だ。だから先行は俺のモンなんだよぉ!」
 賽一つでこの世全てを勝ち取ったかのような笑いを響かせる転武だが、その認識は間違ってはいない。
 決闘において、先行と勝ちは直結する。
 その確率は絶対では無いにしろ、相手より先にモンスターを展開でき、先に罠を仕掛ける事ができるのは大きな利点だ。
 神々に伝わる伝承によれば――
 先行1ターン目にデッキの全てを使い、攻撃をせずにバーンダメージで勝利を収める。
 同じ方法で特殊条件勝利を揃える。
 等という決闘が行われていた時期もあったらしい。
 白矢の時代はそこまでは行かずとも、それでもアドバンテージの差は少なくない。
 だが、その絶望的状況の中で、白矢は口元を僅かに上げる。
 それは、敗者には似つかわしくない笑み。
「2回連続で6か……確かにそれは無理かもしれないな」
「やらないで諦めんのか? 無様だな白矢ぁ!」
 転武は下卑な笑いを響かせる。
 だが、白矢はそれに苛立つことなく、大仰な仕草で漆黒のダイスを振りかぶる。

「2回が無理なら――1回で勝ってやるよ。凡俗」

 そう言って白矢は、自らの持つダイスを校舎の壁に思いっ切りぶん投げた。
 小気味いい音が響き、跳ね返ってきた漆黒のスクウェアが、地面に落ちる。
 目は――6。
 その結果を見た転武は、嘲るように白矢を見下ろす。
「……1回で勝ってやるぅ? 凡俗ぅ? もう一度言ってもらえますかね白矢ぁ!」
「……」
「俺が出したのが最高値である『6』 お前に引き分けはあっても勝ちはねぇんだよ! そんくらいわかれよ。小学生かてめぇは!」
 一気に捲くし立てる転武とは対照的に、白矢はどこ吹く風。目を瞑ってその言葉を聞き流す。
 その態度に腹が立ったのか。転武の怒りのボルテージは上昇していくばかりだ。
「てめぇ、少しイケメンだからってスカしてんじゃねぇぞ! 間違ったからってだんまりですかぁ?!」
「声がでかいぞ凡俗。俺のダイスをよく見てみろ」
 転武は怪訝に思いつつも、白矢は指差した漆黒ダイスを目を細めて睨む。
 蒼菜も同じように顔を覗き込み――驚愕した。

「あれ、真ん中に小さい凹みがある……」

 煌びやかな光沢を放つ漆黒のダイスに不釣合いな凹み。
 6つの丸の中心部分を抉るように、1つの丸が不恰好に自己主張していた。
「……お前まさか 『これで6じゃなくて7だ。俺の勝ちなので先行をもらうぞ』 とか言う気じゃねぇだろな」
「……」
「自分で手を加えたダイスで勝とうとする――やっぱてめぇも同類じゃねぇか! 決闘の法とやらは何処に行ったんだよ? 俺を責める前にまずてめぇを見直したらどうだよ白矢ぁ! 筋通せよ筋ぃ!」
 だが白矢はその言葉に怖じもせず、不機嫌そうに転武を睨みつける。
 その視線には嘲りも、誤魔化しもない。
 それに気圧されたのか、転武は僅かに後ずさる。

「勘違いするなよ凡俗。俺は自分で手を加えてなどいない」

 白矢は冷たい声で言い放つと、ポケットから関数電卓を取り出し、転武の手元に鋭く投擲した。
 矢のように高速で打ち出されたそれに反応できず、まともに手にぶち当たった電卓の痛みに耐え切れず、転武はたまらず銃を取り落とす。
 慌てて拾おうとした転武だが、白矢の動きは速い。
 距離を瞬時に詰めると、落とした銃を転武の手から奪った。
「な……」
「動くな。そしてこのダイスが最初何をしたのか――よく思い出せ」
 そう言われ、蒼菜は四角い物体が現れた時のことを思い出す。
 問答無用で銃弾を向けられ、発砲された弾丸を、このダイスは……

「もしかして……銃弾を弾いた時に、少し凹んだ、とか」

 それを言った瞬間。けたたましい銃声が辺りに響く。
 白矢が引き金を引いて、威嚇射撃をしたのだ。
 その表情は見えないが、近くにいる蒼菜にはわかる。
 彼は、物凄く怒っているのだと。

「これは絶版でな。既に手に入らない上に、生産された数もかなり少数の……限定品の中の限定品なんだ……」

 整った顔を崩す事なく、銃を構えて歩いてくる白矢に、転武は「ひっ」という声を小さく上げる。
 それほどまでの威圧感。
 世界を揺るがす音が聞こえてくる程の歩みは、まるで処刑人か何かのようだ。
 口元を吊り上げ、悲しさと爽やかさが同居した顔立ちで転武を呪い殺すかのように睨みながら、白矢は言う。

「お前は俺の限定品を傷付けた。ジャッジが許そうとも、俺はお前を許さない!」
「じょ、上等だコラ。いいから始めるぞ、決闘をよぉ!」

先行

【白矢】LP4000

手札 5枚
場 なし

 

後攻

【転武】LP4000

手札 5枚
場 なし