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遊戯王Oカード episode-03 【レンジ恋にメタられる】

「――で、何で俺達は生徒会室を見張ってるんだ?」
「決まってる。障害を取り除く為だ」
「障害……?」

 結局白矢は恋の依頼を請負い、それに俺も巻き込まれている。
 今は理由もわからず、生徒会室を死角から見張っている状態だ。
 それは百歩譲っていいとして、今ひとつ合点が行かない。
「言っとくが、色恋沙汰に他人の必要以上の介入は無粋だと思うぞ。本来なら恋路自身の手で……」
「恋愛とやらのエキスパートルールには精通していないが、それに関しては問題ない。言っただろう? 障害を取り除くと」
 だからその障害ってなんだよ、と問い質そうとした次の瞬間。扉が開いた。
 生徒会室から出てきたのは、優男で容姿端麗な眼鏡男。
 これが例の副委員長だ。
「……おい、もしかして」
「察しがいいな友人A。アイツが障害だ」
「阿呆かお前は! もし彼氏だったらそれこそ余計なお世話だろ!」
「それについては調べがついている。見ろ」
「……?」
 スッとメモ帖を渡されたので、反射的にそれを見る。
 そこには――
「……副会長情報。イケメン。彼女無し。前科無し――って何だこれ」
「私的なルートで手に入れた生徒の個人情報だ」
「……お前、人間に興味無いんじゃなかったのか?」
 犯罪に手を染める程興味津々じゃねーかと問い質すと、白矢は首を振る。
「だからお前は凡俗なんだよ。恥を知れ」
「え、そこまで言われるようなことした俺?」
「凡俗からの脱却を目指す俺が、凡俗の情報を知ろうとするのは矛盾している――そうお前は言ったな」

 そこまでは言ってない。

「仮に一人の人間が 『カレーにニンニクを入れると美味い! 驚愕の新事実だ。俺って天才だな!』 とお前に自慢してきたらどうする?」
「どうする――って、そんなの普通だろ。家でもやってるし、特別なことじゃない」
「そういうことだ。凡俗を知らずに、人は凡俗から抜けることができない。自分が凡俗かそうでないかを判断できないからな。よって、凡俗からの脱却を望むなら、凡俗な情報だとしても精通する必要が出てくる」
「……わかったような、わからないような」
 
 つまり「普通」を知らない奴に「普通でない」ものを作ることは難しい――そういう事だろうか。
 白矢にしては理解できなくもない内容だったが、自分には関係のないことだろう。
 そうこうしてる間に、副会長の姿が見えなくなっていた。
 恐らく階段を下っていったのだろう。足音を極力殺し、尚且つ急いで後を追う。

「――尤も、例外はいるがな」
「……ん? 何か言ったか?」

 小さい声で白矢が呟くが、距離がある為聞き取ることができない。
 怪訝そうな顔で足を止めると 「なんでもない、急ぐぞ」 と白矢は言い、副委員長の後を追った。






 ◇◇◇





「――今回はラブレターを書いてみようと思うんだ」
「ほぅ。凡俗にしては勇ましい事だな」

 数時間前。
 凡俗にしては覚えやすい名前の依頼人 <レンジ>はそう切り出してきた。
 今日びメールでそういった伝言を済ませようとする軟弱者が増加する中、この男の選択は勇気あるものに思える。

「個性的な文面を望むのなら知恵を貸そう。俺の知識をフルに動因し――」
「いや、いい」
「何だ。この俺を信用していないのか?」

 発せられたのは遠慮の言葉。
 相談を持ちかけて置いて失礼な奴だ――と口にしようとすると

「いや、これは俺だけの力で書きたいんだ」

 どうやら、違ったらしい。
 そう言った<レンジ>の顔には、遠慮や嘲笑といった感情は浮かんでいない。
 ただ真摯に
 自分の力で求めるのだと、そういった意気込みが伝わってくる。

「……わかった。せいぜい駄文を書くんだな」
「ああ、そうさせてもらうよ」

 <レンジ>は笑いながら、自身のボールペンを力強く握る。
 それから二時間の時を経て
 レンジの想いのつまった駄文は完成し――
 硬い紙を入れた手紙は、ゲタ箱の中へと投函された。






 ◇◇◇



 昇降口。
 正にそのゲタ箱を、今空けた者がいた。
 それは彼の想い人ではない。
 <レンジ>書いた手紙を、見せたかった相手ではない。

「――またですか。いい加減無駄だとわかって欲しいものですが」

 その声は副会長のものだ。
 声の主は徐に何食わぬ顔でゲタ箱からその手紙を取り出し、慣れた手付きで

 一寸の躊躇いもなく――破り捨てた。