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遊戯王Oカード episode-04 【レンジ恋にメタられる】

「アイツ……!」

 それを見ていた友人Aは激昂した。
 友人Aは<レンジ>が手紙を書き記す様の一部始終を見ていた。
 知人が万感の想いを込め、手がけた手紙が粉々になったのを見て、憤怒を抑えられないのだろう。
「……気持ちはわかるが落ち着け」
「これが落ち着いていられるか! 一度ぶん殴って――」
「まぁ、そこで見ていろ」
 その言葉を遮るように、白矢は立ち上がる。
 手紙を破った張本人――副委員長はその気配に気付き、現れた白矢を睨み付けた。

「なんだ君かい? この趣味の悪い手紙を忍ばせたのは」

 爽やかさに、何処か粘っこさを残したような声。
 その独特な声調を毛嫌いしつつも、白矢は副委員長の手にもった手紙を確認する。
 ハート形のシールを中心に貼り付けた典型的なラブレター。
 だがそれは無残にも中央から破られ、真っ二つになっている様相だ。

「こういう 『ゴミ』 を入れられると困るんですよねぇ。掃除をする人の身になってくださいよ」
「ほぅ。お前はそれの中身をゴミだと?」
「その通り。あの人は今大切な時期なんだ。こんな俗事に余計な感情は抱かないとは思いますが、万が一ということもある」
 それを聞いて白矢は眉を顰める。 
「随分と大袈裟な物言いだな。厨ニ病でもこじらせたか?」
「貴方のような問題児には理解できないでしょうし、してもらおうとも思いませんよ」
「……」
 白矢は顎に手を当て、手紙を改めて見上げた。
 ゆっくりと口を開く。

「校則の第48条。当校の生徒は、全てのカードに対し罵詈雑言を言ってはならない」

 白矢の声は淡々としていたが大きく響き渡り、周囲の生徒の視線が集まる。
 それに気付いた副会長は白矢を睨む。

「貴様。声が――!」
「声音が大きいか? それでお前に何の不都合がある? 言ってみろ」
「くっ――」

 理由は簡単だ。
 副委員長が今手に持っている『破れた手紙』の存在。
 勿論それが破られた理由も、持ち主も他生徒は知る由もないだろう。
 だがそれを持っている所を見た生徒は、何かしらの妄想を膨らます。

 ――何あの手紙?ラブレター?
 ――副委員長はモテるからなぁ。イケメンだし。
 ――え、でもあの手紙破けてるよ。もしかして副会長――
 ――女の子の純粋な気持ちを破り捨てるなんて!
 ――いや、男かもしれないぜ? ほら目の前にいる――

 どよめきが広がっていく。
 実際には数名しかいない他生徒が、副委員長にとってはやたら大きく感じられる。
「貴様――」
「情報アドバンテージを握られるのがそんなに不快か? 俺を問題児呼ばわりするくらいなのだから、さぞかし自分は絵に描いた優等生として生きてきたんだろうな」
「……」
「それがお前の弱点だ。凡俗はギャップを好み、注目する。貴様が優等生を演じれば演じるだけ、スキャンダルの効果は絶大になっていく。さて――副委員長『殿』」
 口元を大きく吊り上げ、白矢は一歩副委員長に歩み寄る。
 そして
 
「人気の無い場所でもいいんで、二人でランチにでも行きましょうか」
「……ッ!」

 心底悔しそうな顔を浮かべる副委員長の横を通り過ぎ、白矢は校庭へと歩き去る。
 副委員長もまた、他生徒の好奇の視線を避けるように、その後に続いて行った。










 ◇◇◇









「脅しのつもりですか? 何とも陳腐な話だ」
 体育館倉庫前に着いた副委員長は、そう言い捨てる。
「人気が無くなった途端に粋がるなよ。凡俗過ぎて泣けてくる」
「貴様――!」
「事実だろう? 表では善良を気取るだけ気取り、人気の無い所でしか本性を現さない。フランダースの犬も大泣きだ」
「それの何が悪い?! 第一さっきの言葉――何故急に問題児の貴様が校則など持ち出した!」
「ああ――」
 そう言えばそんな事も言ったな。と白矢は息を吐く。
 どうやらこの副委員長殿は、自ら墓穴を掘るのが好きらしい。
 徐に白矢は携帯電話を取り出し、時刻を確認する。
「簡単な話だ。お前はあの時――」
「こちらを見て話せ!。携帯など後で見ろ!」
「そうだな。そうしよう」
 ピッ、と開閉音の様なが鳴り響き、白矢は素直に従う。
「お前はあの時。委員長の靴箱を空け、中に入っていた手紙を破った。そうだな?」
「それがどうした?!」
「そしてお前は、その手紙の中身を 『ゴミ』と言った」
「事実を言って何が悪い! あんなものには一片の価値すらない!」
「だったら中身を確認してみるといい。そこに答えはある」
「中身だと――?」
 副委員長は訝しく思いながらも、自身が真っ二つに破った手紙の封の中身を空ける。
 そこには――











《しびれ薬/Paralyzing Potion》 †
装備魔法
機械族以外のモンスターのみ装備可能。 
装備モンスターは攻撃宣言をする事ができない。


 
 


「ば、馬鹿な――」
 副委員長の顔が蒼白になる。
 真っ二つに綺麗に破ったはずの手紙の片方に、カードが挟まっていたのだ。
「さて、質問だ。あの時お前はなんと言った?」
「……ッ」


 ――こういう 『ゴミ』 を入れられると困るんですよねぇ。掃除をする人の身になってくださいよ
 ――ほぅ。お前はそれの中身をゴミだと?
 ――その通り


 自身と白矢の発言を思い返し、副委員長は嫌な汗を流す。
「校則48条は曖昧な記述の為黙認される場合もあるが、ここの校長はカードに「ゴミ」「カス」「クズ」と言い放つ生徒に容赦はしないと有名だ。俺がそれを密告したらどうなるか――」
「……脅しのつもりか? 何とも陳腐な話だ」
「敬語が安定してませんよ副委員長『殿』 それでは優等生が聞いて呆れる」
「……ふん、だがな。貴様は致命的なものを忘れているぞ」
 眉間を僅かに震えさせながら、副委員長は白矢に指を突きつける。
「貴様の密告には『証拠』が無い。そして問題児である貴様は教師陣からの『信頼』が皆無。そんな様では、如何な脅しとて効果は――」
「――お前、本当に気付いてないのか?」

 遮るように開いたのは、先ほどの携帯電話。
 そこには、小さな文字でこう書かれていた。

 REC――と。

「……な、な」
「先程の会話は全て録音させてもらった。これを証拠として使ったらどうなるか――」
「……ッ!」

 旗色が悪いと思ったのか。
 目の色を変えた副委員長は、白矢の持つ携帯に手を伸ばす。
 文科系の任芸とは思えない程の俊敏な動きだったが、白矢はそれをなんなく避ける。

「別に副委員長殿を貶めるのが目的ってわけじゃない。要求はもっと単純だ」
「……言ってみろ」

 ようやく観念したのか、憔悴しきった顔で副委員長は先を促す。
 それを見た白矢は、無言で決闘盤を構え

「……副委員長殿は今より俺と、決闘をしてもらう」

 至極真剣な表情を浮かべ、そう言った。