遊戯王Oカード episode-07 【レンジ恋にメタられる】

【白矢】ＬＰ４０００

手札　４枚
場　＜Ｅ・ＨＥＲＯ　フォレストマン＞　＜Ｅ・ＨＥＲＯ　スパークマン＞　＜Ｅ・ＨＥＲＯ　スパークマン＞
伏せカード１枚

　

【副委員長】ＬＰ１６０００

手札　２枚
場　＜マテリアル・ドラゴン＞　＜オオアリクイクイアリ＞
伏せカード１枚

　白矢は確かに「このターンでライフをゼロにする」と宣言した。
　だがライフは愚か、この布陣ではモンスター1匹倒す事は叶わない。

「バトルフェイズ――？」
「そう、バトルフェイズだ。オレは＜E.HEROスパークマン＞で＜オオアリクイクイアリ＞を攻撃」
「馬鹿が！そのまま返り討ちに……」
「速攻魔法発動＜ハーフ・シャット＞。＜オオアリクイクイアリ＞の攻撃力を半分にする！」

《ハーフ・シャット/Half Shut》 †
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター１体を選択して発動する。
選択したモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで半分になる。

「な……！？」
「オオアリクイクイアリの攻撃力は2200から1100になった。500ポイントのダメージだ」
　＜スパークマン＞の攻撃がアリクイに雷鳴となって襲い掛かる、その余波が砂煙を起こし、場の視界を僅かに眩ませた。
　
【副委員長LP】１６０００→１５５００

「……だが＜ハーフシャット＞の効果で＜オオアリクイクイアリ＞はこのターン、戦闘では破壊されない！」
「わかっている。俺はもう１体の＜スパークマン＞で攻撃！」

【副委員長LP】１５５００→１５０００

　その攻撃を受け、思わず舌打ちを鳴らす。
　確かにダメージを奪われたが、それは微々たる量だ。

「この程度のダメージを与えて何がしたい！？　こちらのライフの1割も減らせていないぞ！」
「1割を馬鹿にする奴は1割に泣くぞ。例えそれが微量だろうと、お前の命は減ったんだ」
「戯言だな。貴様が融合召喚を使っていれば、もう少しマシなダメージを奪えただろうに！」
「＜融合＞か」

　白矢は息を吐き、手札の1枚をくるりと回転させた。
　そのカードは先程＜フォレストマン＞の効果で加えた＜融合＞のマジックカード。

「確かにこのターン。＜融合＞は使わないと宣言した。だが――」

　白矢はそのカードを突然、セメタリーゾーンへと置いた。
　突然の行為に驚愕するも、その手は更に手札の1枚へと伸びていく。

「融合召喚をしないとは、言っていない――！」

超融合/Super Polymerization
速攻魔法
手札を１枚捨てて発動できる。
自分・相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター１体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。

「なっ……超融合だと！？　何故お前がそれを持っている！」
「言っても信じないだろうから企業秘密だ。それに、今はそこは重要じゃない」

　＜フォレストマン＞と＜スパークマン＞ニ体が、超融合の作り出した世界全てを吸い込みかねない空間へと消えていく。
　雷鳴の様な爆音が辺りに響き、その空間の色が無から赤へと変色し、降り立つ光が二人の視界を遮った。
　その光の中から現れたモンスターは＜Ｖ・ＨＥＲＯトリニティ＞
　真紅の装甲を持ち、太陽のような光沢を放つその姿は、相対するものに畏怖を覚えさせる。

　

Ｖ・ＨＥＲＯ トリニティー/Vision HERO Trinity
融合・効果モンスター
星８/闇属性/戦士族/攻2500/守2000
「ＨＥＲＯ」と名のついたモンスター×３
このカードが融合召喚に成功したターン、
このカードの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。 
融合召喚に成功したこのカードは、
１度のバトルフェイズ中に３回攻撃する事ができる。 
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。

「融合召喚したこのモンスターの攻撃力は通常のニ倍。つまり5000まで上昇する」
「5000……5000だって？」
「更にモンスター相手には通常の3倍の回数攻撃ができる。赤いからな」

　白矢は退屈そうにそう宣言し、その効果に副委員長は驚愕する。
　攻撃力5000の攻撃を3回ともなれば、現在のライフに届く可能性すら。
「……ッ、有り得ない。そんな事は！」
「行くぞ。＜マテリアルドラゴン＞に攻撃――！」
　片腕を紅色に発光させながら＜Ｖ・ＨＥＲＯトリニティ＞が＜マテリアル・ドラゴン＞に迫る。
　高速で距離を縮めて来るその姿は、まるでその大きさを増しているようで……
「――いや、気のせいじゃない。これは！？」
「その通り。トリニティに＜虚栄巨影＞を発動させてもらった」
　

《虚栄巨影/Ego Boost》 †
速攻魔法
モンスターの攻撃宣言時、
フィールド上に表側表示で存在するモンスター１体を
選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力は、
そのバトルフェイズ終了時まで１０００ポイントアップする。

「これで攻撃力は6000だ。貴様のライフ、何処まで持ち堪えられる！？」
「く……そ……糞ォ……！」

【副委員長ＬＰ】１６０００→１１４００

　有り得ない。
　ライフは潤沢にあったはずだ。バーンにもモンスター破壊にも対応する鉄壁の布陣だったはずだ。
　泥試合になる事こそあれど、一撃で瞬殺される事など――。
「俺は騙されないぞ！　そう、お前のトリニティな重大な欠陥がある！　それは　『モンスターにしか攻撃ができない』　という事！　＜マテリアルドラゴン＞がお前に倒された今、俺のモンスターは＜オオアリクイクイアリ＞のみ！　貴様の連続攻撃は、次で終了だ！」
「……」
「ライフさえ残れば、貴様の目論見は敗れる。残念だったなぁ、宣言通り勝ってドヤ顔ができなくてぇ！」
　甲高いだけの不愉快な声に、白矢はため息を吐く。
「――少し不利になったらもう負けた後のプライド作りにご執心か」　
「何、お前。お前今なんと言った！」
「負けた後の事ばかり決闘中に考える奴に、負ける気はしない――！」

　トリニティの左拳が唸り、オオアリクイクイアリが上空へと吹っ飛ばされる。
　顎にクリーンヒットした攻撃だったが、虫の脳がどれだけ揺さぶられてもタオルは投げ込まれない。
　戦闘破壊、されていない。

【副委員長ＬＰ】１１４００→６４００

「なっ……」
「速攻魔法＜ハーフ・シャット＞の効果を忘れたか？　ターンの始めだから無理もないが」

《ハーフ・シャット/Half Shut》 †
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター１体を選択して発動する。
選択したモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで半分になる。

「対象にされていたのは勿論食蟻だ。攻撃力半減されると同時に、戦闘破壊もされなくなる」
「ヒッ……」
　通常の決闘であれば＜ハーフシャット＞の前者のデメリット効果は看過できないものだ。
　モンスターを倒し損ねればそれだけ逆転の芽を残す事になり、アドバンテージを与えることになる。
　だがそれは、ライフが残っていればの話。
「お前は負けるのが怖いんだろう？　だからライフにばかり固執し、口を開けば勝負の先の事ばかり囀り続ける」
「……っ」
「あの女に好意を抱いているのか知らんが＜レンジ＞の邪魔をしたのもその為だろう。お前は勝負するのが怖いんだ。あの女に、誰かと比べられる事を怖がっているんだ」
「ち、違う！」
「違うなら見守ってみろ。流れに任せて正々堂々勝負してみろ。あくまでも人の恋路を邪魔するなら――」

　白矢が言葉を区切った、次の瞬間。
　トリニティの姿が　『変形』　した。
　人型であったその姿は二足歩行から四足歩行の動物めいた形になる。
　紅の駿馬へと、変化する。

「馬に殴られ、天国行きだ――！！」

　四足といえど、その元となったのは＜ＶＨＥＲＯ・トリニティ＞
　その豪腕は足とは形容できない程太い為、それは足であって腕だった。
　両の豪腕の同時攻撃が、吹っ飛ばされた憐れな蟻に直撃する。

【副委員長ＬＰ】６４００→４００

　「ぐぼぇ！」と情けない声が響く。
　今まで以上の衝撃だったのは白矢のサイコ能力によるものか、それとも。
「……だ、だが、ライフはまだある。貴様のモンスターの左手も！　右手も！　両腕も！　俺の全てを込めたライフには届かなかった！」
「確かに凄いライフ量だった。２ターンであそこまでライフを回復できる奴はそうはいないだろうさ」
　だが――
　白矢は落ちてくる蟻とその真上にいる駿馬。そして蟻の主である相手を睨み付ける。
　
「左右両の手で届かぬなら――魂ごとぶつける！」　

　トラップカード、発動！
　蟻が覆い被さるように主人に降って来た瞬間、白矢の声が轟いた。
　駿馬が突如発火し、一つのエネルギー体となって副委員長に襲い掛かる。

《火霊術－「紅」/Spiritual Fire Art - Kurenai》 †
通常罠
自分フィールド上に存在する炎属性モンスター１体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える

　声にならない悲鳴を打ち消すように、炎の塊が地面へと衝突し、その余波が周りに火の粉を撒き散らす。
　それは彼の中に燻っていた感情を溶かしかねない程、赤く爛々と燃え続けた。

【副委員長ＬＰ】４００→０