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遊戯王Oカード episode-08 【レンジ恋にメタられる】

「そっかぁ……その後どうなったの?」
 
 後日、教室内。
 蒼菜の興味深々――とは少し違った感情を覗かせる声を出し、白矢は嘆息する。
 教室の休み時間には精一杯制服という決められた衣装を着飾っている女子が沢山いるが、目の前の女子は特に異質だ。
 その異質さに目を背けながら、白矢は仕方ないといった風に話を続ける。
「散々だったらしいぞ。結局<レンジ>は告白の際女委員長に決闘を挑んだらしい」




~1日前~



「僕の想い、決闘で受け取って欲しいッス!」
「面白そうね。いいわよ、付き合ってあげる」

 恋路がメグちゃんとそんなやり取りをしたのは五分前。白矢師匠の提案通り相手に印象付ける為に口調を変え、何とか勝負を取り付けた。
 だが、そのたった五分の間に状況は一変していた。
 相手の場には強力な高レベルモンスター。こちらのライフは殆ど残っていない。
 そして何より驚くべきは、相手が一枚も罠や魔法も使っていないということだ。
(これは所謂舐めプレイッスか……?)
 その響きに無駄に興奮するが、舐められたままでは男の沽券に関わる。せめて舐め返し……ではなく、一子報いなければ
「ドローッ! ッス!」
 最後に引いたカードを見て、恋路は驚愕した。


《強奪/Snatch Steal》 †
装備魔法(禁止カード)
このカードを装備した相手モンスター1体のコントロールを得る。
相手のスタンバイフェイズ毎に相手は1000ライフポイント回復する。 

 そのカードとは<強奪>
 誰がどう見ても、ただの禁止カードである。
(白矢さんノリで何てモノ入れてんすかあああああああああ……)
 恋路は頭を抱えるが、同時に思い出す。
 このカードに自分の誓いを込めた事、白矢の言った言葉を。

 ――欲しければ攻めろ。そして勝って奪い取れ。それが決闘に勝利するという事だ。

 わかりました。白矢師匠!
 恋路は後光が差す程大げさな動作をすると、白矢は魔法カードを発動する。

「僕は<強奪>を発動するッス!」
「あら、それは確か禁止カード――」
「そ、そうッスけど。これが僕の想い! だから、貴方の心に強奪を発動するッス!」
「へぇ……」

 どこか含みのある可愛い笑顔に恋路はとろけそうになり、同時に察する。
 今まで一度も魔法罠を発動しなかった理由。
 それはもしかして、縛りプレイをすることで(その響きにも興奮を隠せない)僕にわざと負けたいという隠されたメッセージなのではないか。<封印の黄金櫃>の真なる中身なのではないか。
 その事実に辿り着いた時、とてつもなくテンションが上がった。
 これで僕とメグちゃんは、めでたくゴールイン。
 これも全て白矢師匠が副委員長の足止めをしてくれたお陰だ。後でキチンとお礼をしないと。
 そう思考を進めていると、メグちゃんの可憐な指が動いた。

「じゃあ、そのカードを対象に、私もカードを発動させてもらうわ」

 「えっ」と情けない声を上げる恋路に、メグちゃんは妖しく笑う。
 その笑顔は今までに見た事もないほど邪悪で……目を疑っていると、一枚の伏せカードが表になる。

《サイクロン/Mystical Space Typhoon》 †
速攻魔法 
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 恋路はそのカードの発動に、絶望を感じ取った。
 これは紛れも無く「ごめんなさい」と同義の行動。
 貴方と付き合う気はありませんと伝えるだけに十分な、無慈悲な速攻魔法。
「これで貴方の強奪は破壊ね」
「そ、そんな……」
「……と思ったけど、やっぱり気が変わったわ」
「えっ」

《砂塵の大竜巻/Dust Tornado》 †
通常罠
相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
その後、自分の手札から魔法・罠カード1枚をセットできる。

「やっぱりこのカードで破壊するわね。この効果で手札の<成功率0%>をセットするわ」
「……」
「更にチェーン処理の後に<ロスト>を発動」

《ロスト/Disappear》 †
通常罠
相手の墓地のカード1枚をゲームから除外する。

「貴方の墓場に送られた<強奪>をゲームから取り除くわね。二度と使えないように」
「……」
「どうしたの? 一応まだ貴方のターンよ。まだやる事はある?」
「う、う……」

 うわああああああああああああん
 子供染みた悲鳴を上げながら、恋路はその場からミジンコのように逃げ出した。
 委員長はその背中を退屈そうに眺めながら、誰にも聞こえない声量で、呟く。

「本当、退屈な学校――」






「う、うわぁ……それは酷いね」
 レンジから聞いた一部始終を聞くと、蒼菜は目を線にしながら冷や汗を浮かべる。
「……だが奴は正面から戦った。結果はボロ負けだったが、それに意義はあるはずだ」
 遠い目をする白矢に対し、前の席に座っている友人Aが解せないといった風に顔を覗き込む。
「お前ホント今回の件に関してはらしくないよな。いつものお前なら『浮ついた凡俗の俗事なんぞに興味はない』とか言って切って捨てそうなのに」
「……そうか?」
「そうだよ」
「まぁ、そういう気分だったんだ」
 友人Aを不愉快そうに見据えながら、白矢は溜め息を吐く。
 友人Aはその態度を不審そうに思いながらもそれ以上の言及をやめ、話題を変えた。
「しかし相変わらず強いな白矢。あんなコンボ、早々思いつかないって!」
「そうでもない。お前がやればもっと上手くやれる」
「……そうかぁ?」
「そうだよ」

 なら今度相性のいいカード見つけたら検討としてみよう――等と真面目に思案する友人を視界から外し、白矢は溜め息を吐く。
 そんな白矢を見つめていた蒼菜の髪が揺れ、ついそちらへ視線を戻してしまう。

「さっきから気になっていたが――なんだその髪型は」
「やっと聞いてくれた! 誰も聞いてくれないから『普通過ぎたかな?』って内心焦ってたよー」
「普通? 誰が?」
「ずばり、今日のテーマは『もみじ』です! 秋っぽいでしょ!」

 そうノリノリで宣言する蒼菜の大袈裟な挙動は、どこか昭和を感じる芋臭さを感じる。
 同時に髪型の異様さが加わりなんとも言えないシュールさに――。
「――それはモミジと言うより『ヒトデ』だろう。そんな髪型この世には存在しない!」
「ありがとう。褒めてくれて!」
「褒めてない!」

 喚く二人に、ぶつぶつ呟く友人A。
 その背後に担任が音もなく忍び寄る。
 通常の生活では有り得ない騒音が、絶えず学校中に響き渡った。