シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

7巻のキリトさん成分が不足していたので書いてみた 前編【SAO】

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※注意 ストーリーの核心的なネタバレは極力避けてますが、アニメのみの人が見た場合『何この剣?何このスキル?』『キリトさんこんなんになんのかよ』などのネタバレが発生するので、嫌う方はご遠慮下さい。ちょっと捏造もあります。
 別にいいよって方のみ、覚悟を決めて進んでください。
 





























 三分、百八十秒。
 森の家で木製の木椅子に揺られている時には、瞬く間に過ぎてしまうであろう時間。
 しかし同じ百八十秒でも、対戦戦闘でのそれは比較にならないほど長い。
 左手に握った剣――深い黄金色の刀身を纏った<聖剣エクスキャリバー>に力を込める。
 相対する三十人の熟練プレイヤーを、最低でも百八十秒足止めする事。
 それが殆ど無理不可能な事と承知の上で、キリトは敵陣に音速の如く速さで斬り込んで行った。


「何やってる!? 撃て!」
 伝説級武器の圧力に押されていた増援部隊の動揺を打ち払うかのように、指揮官クラスの男の一人が甲高い声を上げる。だがメイジ隊が詠唱を完了した<多焦点追尾>型スペルを解き放つ瞬間、その一人の脳天に<刀>が振り下ろされた。一撃で倒す事とまではいかないが、甚大なダメージがメイジに与えられる。
「遅れた分きっちりやるからよ。許せよキリト!」
 伝説級武器を持ち、他のプレイヤーには絶対不可能とまで言わせしめる<魔法破壊>を見せ付けた後、高速で猛進してくるキリトというプレイヤーは、その象徴する色と違い余りにも目立ち過ぎる。
 よって殆どのプレイヤーが正面のキリトに注目し、後方にいるキリトの友人であり野武士もどきである<クライン>への警戒が、一瞬疎かになっていたのだ。
 勿論全員がそうというわけではない。攻略ギルドを名乗るだけの事はあって、すぐにメイジ隊とクラインの間に敵ギルドの前衛がフォローに入り、詠唱の妨害を防ぎに来る。
 だが陣形の移行による一瞬の隙を見逃すキリトではない。
 瞬く間に敵前衛に肉薄し、二刀の剣を構え突撃する。
「――ッ!」
 相対した敵前衛隊に緊張が走る。
 なんせ、相手はあの『黒の剣士』なのだ。
 <SAO帰還者>の中では勿論。そうでないプレイヤーにも知らぬ者はいないほど、彼の諸行は有名だ。
 帰還者の一人が執筆し、発売した書籍にも、彼が二本目の剣を抜いたら最後、誰一人生きて帰れないとされている。スペルによる攻撃はまだしも、あの<キリト>に接近戦で戦うとなると、相応の覚悟が必要なのだ。
 だが、ゴクリと敵前衛が喉を鳴らした一瞬の間に。
 キリトは更に速度を上げ、その敵前衛を縫うように通り抜けていった。
「な……」
 有り得ない、とは誰が発した言葉だったか。
 それはまだ余力を残していた底抜けの限界速度を指すだけの言葉ではなく、その行動そのものだ。
 彼は先程 「ここは通行止めだ」 と、三十人に対して啖呵を切った。恐らくボス部屋に向かったパーティに、こちらの邪魔をさせないために。
 ならばその言葉通り、来る敵を全て拒み続けなければならないはずだ。
 通り抜けてしまってはそれは適わない。このまま前方に行けば、こちらの前衛はキリトの妨害を受けることなく、悠々と先程のパーティの妨害に行くことができるだろう。
 突如沸いて出た好機に敵前衛は思考し、しかしかぶりを振った。
 ――あの『キリト』が、メイジ部隊に突撃するのを放置する。
 幾ら本命が前方のパーティとはいえ、底知れぬ実力を持つ<ブラッキー>を前にそれは余りに愚策に思える。何より部隊として目の前にいるキリトの撃破を優先して動いている以上、それに反する行動を個人で取ると後に問題になるかもしれない。
「まさか、そこまで考えてるんじゃないだろうな」
 敵前衛の一人は思考を振り切るように舌打ちし、反転した。





 集団戦に於いて重要なのは、実は前面に立つ近接戦闘要員よりも後方のバックアップ要因である。
 なので、対多数の戦闘では如何に初手で後衛を潰すことができるかが鍵だ。
 だが一定のラインを維持し、突破を阻むように立ち回っていてはそれは適わない。
 確かに<魔法破壊>で正面からの<単焦点追尾>型のスペルは無効化できるが、<多焦点追尾>や<広範囲曲弾道>型のスペルを全て打ち払う事は不可能だ。
 魔法は純物理属性の通常攻撃では対消滅されない。だがソードスキルには何かしらの属性が付与されているため、上手くタイミングを合わせれば相手の魔法を対消滅させることができる。それが<魔法破壊>だ。
 しかしその本質はソードスキルであり、硬直は当然発生する。
 先程の<単焦点追尾>型だろうと、それを打ち続けられれば決して短くない硬直が発生し、被弾は避けられない。
 以上のことから、その場で陣取る戦法では、三十秒と持たずに俺の体は『残り火』になってしまうだろう。
「なら、突っ込むしかないよな!」
 いつもの調子で不適に笑いつつ、縫うように敵前衛を通り抜ける。
 仮に数人が前方に流れてしまったとしても、アスナと<絶剣>達の実力なら、という信頼もあった。 
 だが相手のギルドとしての立場とか、そんな事は特に全く考えていなかったのである。
 今の自分が優先するべきは、一秒でも長く生き残り、多人数と戦い続けること。
 ただその一点にのみ、全神経を注ぎ込んでいく。
 前列のメイジの一人が逸早く詠唱を完了し<単焦点追尾>スペルを放った。
 同時に左右からメイジを護衛する近接戦闘要員が三人走り寄ってくる。
 いけるか――?
 内心で一瞬の逡巡。魔法の光を弾道予測線に置き換え、左右の敵前衛との距離を見据え、左右の剣を発光させ、ソードスキルを発現する。
  スペルブラスト
「<魔法破壊>!」

 自らを鼓舞するように――半分以上は敵に対するハッタリであったが――高らかにシステム外スキルの造語を叫ぶ。ソードスキルの初撃が<単焦点追尾>スペルの中心点を捉え、四散させた。
 同時に他のメイジが<多焦点追尾>型のスペルを詠唱を完了。<魔法破壊>が困難なスペルタイプ。
 それを横目で目視した後、襲い掛かってくる前衛の一人の懐に回り込みながら、ソードスキルのニ撃目を打ち込む。
 結果的に敵と折り重なるような位置取りになった為、敵メイジの照準が定まらない。その僅かな間に二人目の攻撃にソードスキルの三撃目を相殺させ、三人目が振りかぶった剣をソードスキルの最終段で跳ね飛ばす。
 その早業に驚く暇もなく、更なる変化が起きた。
 敵前衛の握っていた剣が、突如光粉となって消滅したのだ。
  アームブラスト
 <武器破壊>

 対人戦闘において武器の脆弱部位に正確に叩き込むことで、相手の武器を破損させるシステム外スキルの一つだ。
 単体でも難易度の高いスキルなので<魔法破壊>と同時に成功させたのは初めてのことだ。<聖剣エクスキャリバー>のアシストあってこその芸当といえよう。
 だがこちらは二人、あちらは三十人。この程度の行幸がなければ、三分耐えることなど不可能だ。
 ここでソードスキルが終わり、全身が一瞬硬直する。
 その隙にメイジが今度こそスペルをぶつけようと、照準を合わせ……
 キリトの頬を、前衛の一人が『殴』った。
 <武器破壊>で武器を失った内一人の攻撃モーションがそのまま止まらず、徒手の状態でキリトに攻撃したのだ。
 僅かな量のHPゲージが減少するが、キリトは逆にニヤリと笑う。
 どんなに些細な攻撃でも、ノックバックは平等に発生する。そしてノックバックは、ソードスキルの硬直を上書きできる。
 殴られた事で大きくノックバックしたキリトは、本来大きく硬直するだったはずの隙を低攻撃力の殴り一発で帳消しにすることができた。
「な……馬鹿!」
 硬直から開放されたキリトは前衛達の塊から抜け出し、再びメイジに向かって疾駆する。
 だが、同時にメイジの<多焦点追尾>型スペルが発現。
 光は一度上空へ昇り、まるで誘導ミサイルの様に、上下左右前後三百六十度全ての方角から光の雨が降り注ぐ。
 後方の声が遠ざかる。視界が光で埋め尽くされる。
 狭くて羽が使えない為回避は不可能。
 <魔法破壊>も当然叶わない。上下左右全ての方角を同時に斬れるソードスキル……なんて都合のいいものは存在しない。
「なら……!」
 キリトの持つ剣が発光する。突進系の――一撃のみに重点を置いた、威力重視のソードスキル。
 正確に位置を狙えるタイプのスキルではない為<魔法破壊>は使えない。
 正面に迫る光弾の一つに、文字通り突っ込んでいく。
「う……おおおおおおおおおおおおお!」
 そのまま正面の光弾に直撃し、HPゲージが減少する。
 だが、まだ止まれない。
 後方には無数の光弾がキリトを屠る為に追いすがってくる。
 振り返る暇はない。無謀と言える特攻は、ついにメイジとキリトを肉薄させた。
「ヒッ……!」
「……」
 何かを叫ぶ暇すら与えず、突進の勢いを残したまま右の剣を全力で振り下ろす。
 そしてHPを三割残すメイジに向かって、左の聖剣を打ち下ろした。
 ただでさえSTR値の高いキリトの渾身のソードスキルを受け、メイジが耐えられるはずがない。しかし同時に、先程の光の弾がキリトの背中に遂に到達する。
 だが、光の弾は四散した。 
 渾身の一撃でHPゲージを削り取られたメイジの残り火が、蒸発していく光弾を彩っていく。
「な……馬鹿な?!」
「魔法は一度発動したモノだろうと術者が死んでしまえば消滅する。MMORPGの常識だろ?」
 実際はそうでないMMORPGも存在するだろうが、少なくともこの場ではそれが真実だ。
 驚くメイジ隊の一人に、続けて左の聖剣で切りかかる。
 先程突進系のソードスキルを右手で放っていたのに何故硬直無しで動けるのかというと、ニ撃目の聖剣での一撃で既にソードスキルを発動させていたからだ。
 スキルコネクト
<剣技連携>

 ソードスキル発動後に起こるアバターの硬直時間を排し左右の剣を用いて連続でソードスキルを発動させるシステム外スキルの一つ。
 簡素に言えばスキルの硬直を上書きし続けることが可能なのだが、タイミングを一瞬でも違えると失敗し膨大な隙を晒してしまう為常用するには危険極まりないスキルである。
 現にパーティ狩りでは滅多に使うことが無いのだが、その程度の無理をこなせなければ、三分など夢のまた夢だ。