オリジナル番外編 ~戒斗~ 終編
戒斗から放出された力の正体は、サイコ決闘者のそれとは全くレベルの違うモノだった。
それが 『ペイン』 と呼称される力であることを知り、戒斗は歓喜した。
これは自分と人間を隔てる明確な境界線だ。
自分とあいつらとは違う。それを裏付ける絶対的な力。
高笑いを抑えきれない戒斗に、迷いや後悔は微塵もない。
だが、思うことがあるとすれば……。
この力が早く。もう少し早く宿っていれば――。
仁は自分を頼り、死なずに済んだのかもしれない。
だから戒斗は、自らの力を恐れる事はしなかった。
同じ後悔を、二度としない為に。
それが原因で完全化を遅延させていたことは、本人に知る由もない。
戒斗のデッキに宿った最後のカード <幻魔皇ラビエル>
その力を使い、戒斗は過去の自分の清算をしていく。
一つずつ、一つずつ。
そして路地裏で、一人の決闘者との決闘が開始される。
ラビエルという強力なカードを得た事で、試合は終始優位に運んだ。
だが
「速攻、魔法発動ッ!」
強力な無比なはずの<幻魔皇ラビエル>は、その決闘者――時枝治輝によって破られた。
――複数のカードなら、その一枚だけではできないことができるかもしれない。
それを体現するかのようなコンボで、戒斗は決闘に敗北した。
それからだろうか。
長井仁と時枝治輝の二人を、何処か重ねるように見てしまうようになったのは。
愛城と戦った後……治輝が自ら死ぬ気だと知った時、その思いはより強い物になった。
あの二人は似ている。どうしようもないほどに。
目の前の問題を解決する為に、誰かを助ける為に、自らの命を平気で投げ出す大馬鹿野郎。
そして、周りの気持ちに気付けない愚か者。
こんなことをしたところで、自己満足にしかならない事はわかっている。
だが、戒斗は仁に生きていて欲しかった。
自分に力が無かった事が原因の一端だとしても、仁には生きていて欲しかった。
一緒にデッキの最後の一枚を、探して欲しかった。
――最後に逝く気なら、その前に俺のところに来い。
気付けば戒斗は、治輝にそう伝えていた。
仁と出会った時、既に彼はデッキを奴等に奪われていたので、仁と決闘する事はついに叶わなかった。
だからだろうか、治輝との決闘を心行くまで楽しめたのは。
だが、同時に――負けるわけにはいかないとも思った。
「……おーい、戒斗?」
気付けば、時枝治輝が上からこちらを覗き込んでいた。
どうやらすっかり寝入ってしまったらしい。戒斗は不快そうに舌打ちする。
「……チッ、なんだよ」
「ご挨拶だな……1時間後に起こせって言ったのはお前だろ」
「……」
辺りを見回し、周囲を確認する。
ここは異世界の森の中だ。戒斗と治輝は今、現実世界には存在しない。
それは治輝の生き残る唯一の道であり、戒斗の探す<幻魔>を探す為でもある。
その途中野宿に丁度いい木陰を見つけたので、交代で休憩していた事を思い出す。
どうやら夢を見ていたらしい。
「なんかうなされてたぞ。大丈夫か?」
「……あんま調子乗るなよクソが」
「お前毎度毎度寝起きん時の機嫌悪すぎだろ!?」
「うるせェ、今回は特別わりィんだよ」
それを聞くと、治輝呆れ気味に肩をすくめると、寝袋(戒斗作)を素早く着込み、不貞腐れたように交代で就寝する。
確かに俺は二度、コイツに負けた。
(だが、てめェが……てめェの生き方が正しいと、認めたわけじゃねェ)
治輝は言わば、アイツの成功例だ。
人間とサイコ決闘者――ペインの和解の道が存在すると、本気で探している大馬鹿者。
仁はそれに対する問題を少しでも減らそうと、行動に出た。
そしてそれは恐らく、長期的に見れば失敗した。
あの日から 『ペイン』 が各地に発生し、世間がそれどころではなくなったからだ。
もし治輝が 『成功』 すればアイツは浮かばれるだろうか。
だが戒斗は、力無しではそれが成されないことを知っている。
人間がそこまで純粋でないことを、痛いほど知っている。
「まだ……お前を認めたわけじゃねェ」
戒斗は自分の出した結論を、その絶望を信じている。
人間は、力で抑え込まない限り必ずまた同じ過ちを繰り返すと、確信している。
だがふと気付けば、戒斗は無意識に自問自答を繰り返す。
チャンネルを何度も押していたあの時のように。
何度も何度も繰り返す。
自分の出したものと違う結果が出るまで
何度も何度も繰り返す。