シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード episode-19

「しーらや君」
「……」
「私、狭いところでも大丈夫だから!」
「……」
「狭いところでも大丈夫だから!」
「……」
「狭くても最後まで頑張るから!」
「……!?」

 むせた。
 これ以上なく思いっきり、滅びの爆裂疾風弾にも負けないほど盛大に、白矢はむせた。
 その様子を前の席から半目で見ていた友人Aは、わざとらしく溜め息を吐く。
 
「お前等……ついにそこまで……」
「行ってない断じて行ってないぞこの凡俗」
「凡俗……そうだな。白矢、俺はお前が女にうつつを抜かした時に、こう言おうと思っていた」
「別に抜かしていない……!」
 両手で机を叩き、白矢は断固抗議の意を唱えるが、ドローエンドする時のような適当さで、友人Aはスルーする。
「男女の関係とか世界的にそれこそ星の数程存在する……凡俗的なものだ。つまり、ついにお前も凡俗になったんだな、と」
「……確かに理には……」
 適っている。適っているが、それは大部分が誤解である。
 後ろでうーうー言ってる蒼菜を全力で意識しないようにしていると、友人Aの表情が急に真剣なものへと変わった。
「だけどな。お前はやっぱ凡俗じゃなかったよ。白矢」
「……?」
「……普通の高校生は、いきなり同棲はしないからな……」
 そう言ってしんみり目をする友人Aを、白矢は無言でぶっ叩く。
 その時、教室のたてつけの悪い後扉から、謎の声が聞こえてきた。
「話は聞かせてもらいました!」
 なんやねんと思う暇もなくガラリと扉から現れたのは、担任の平山先生だ。
 ゆるいパーマをかけた茶髪を揺らしながら、にっこりと白矢の方を向く。
 白矢は朝の会ったので、簡略的な挨拶でもするかと思い立つと……。
「本当に同棲しても先生は構いませんよ!」
「げふ!?」
 思い切りむせた。
 これ以上なく思いっきり、ダークネスギガフレアにも負けないほど盛大に、白矢はむせた。
 ここぞいうばかりに蒼菜が身を乗り出す。
「ほ、本当ですか! 平山先生!」
「最近あの寮空きが多くなりましたからね。周りに音が漏れる心配もないかなと」
「何の音だ何の……」
 白矢は頭を抱える。普通の教師とは異質――そう感じていたからこそ白矢は平山先生を嫌ってはいなかったが、さすがに教育者の身としては限度があるのではなかろうか。
「まぁ、その話はおいおいするとして――」
「おいおい……!?」
「おいおいですね!」
「おいおい……」
 白矢、蒼菜、友人Aの順番でそれぞれ強調する部分の異なった声で突っ込みを入れると、何故か満足そうに笑った平山先生は元気よく扉の方に向かって声を送った。
「ここで紹介しておきましょうか。入ってきていいですよ!」
「……紹介?」
 白矢が訝しげにその扉に注視すると、ゆっくりと人影が姿を現す。
 学生服に身を包んだ見慣れない青年は鋭い前髪の間からこちらを見据え、淀みない足取りで歩いてくる。
「転校生の黒鷹(クロタカ)です。お久し振りです。白矢先輩」
「……は?」
 そう言ながら、初対面のはずの青年は白矢に向かって爽やかに笑う。
 何処かで会った事があっただろうか? そもそも、同学年で先輩……?
 白矢は思案するも、心当たりは全くない。
「貴方は白矢君のご友人の友人Aさんですよね。お噂はかねがね」
「何の噂だよ……転校生の割に随分詳しいんだな」
「お二人は自己評価よりもよっぽど有名ですよ。是非今度お手合わせしてください――そして」
「あ、よろしくね。黒鷹君!」
 顔を向けられた蒼菜はにっこりと笑う。
 黒鷹は小さく笑うと、自然な仕草でそんな蒼菜の耳元まで近付き、小さな声で囁いた。

「よろしく――偽物さん」

 ゾワリ、と。
 蒼菜の体全体に悪寒が走った。
 その声には温度が無かった。何の感情も憂いも押し殺したような、そんな声。
 初対面のはずなのに、その声が、言葉が、頭にこびりついて離れない。
 何度も何度も心の中で反響して、何も考えられなくなる。
 
「白矢先輩。ボクと放課後――決闘してくれませんか?」