シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード episode-27

「……で、気付いたら朝だったと」
 
 教室で事の顛末を聞いた友人Aは、そう呆れ顔で言った。
 その顔は白矢にとって非常に不愉快極まりない顔なのだが、事実なので口にする言葉が見つからない。気だるそうに頷く。
「……ああ」
「それはもう、スズメだよスズメ。モーニングスズメ」
 は? いきなりなんで鳥類の話してんだコイツ、等と思うのだが、突っ込むのすら面倒な程白矢は眠気に満ちている。
「……意味は深く語らないでやるよ。感謝するんだな、スズメに」
「わけがわからん……」
 わけがわからん――と言えば、蒼菜の事もそうだ。
 正当な理由があったとはいえ再び住居への侵入と看病中の居眠りをやらかしてしまったのだ。前回同様骨の数本は覚悟していたのだが、起きると笑顔で介抱のお礼を言うばかりで、そんな素振りは微塵も感じなかった。
 かと思えば休み時間には素早く何処かに去ってしまい、意図的に避けられている線すらある。
「笑顔で怒ってる……? いやそんなキャラでは」
「おいまだのろけるつもりなら<ダーク・ダイブ・ボンバー>召喚すんぞ」

ダーク・ダイブ・ボンバー/Dark Strike Fighter》 

シンクロ・効果モンスター(禁止カード)星7/闇属性/機械族/攻2600/守1800チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

「断じてのろけ等という凡俗めいた事ではない……! そこまで言うなら友人Aよ。反撃される覚悟はできているんだろうな?」
 反撃? やれるもんならやってみろよあっけろぴーと言いたげな顔で先を促しているので、白矢はボソリと言う。
「……ギター」
「!?」
 効果は絶大、とばかりに白矢は口元を僅かに上向ける。
「どうした何を驚いている友人A? 俺は単にギ」
「お、お前どこまで知ってんだよ!?」
 明らかに動揺している友人Aの姿を見ているのは実に心地いい。
「……ここで話していいのか?」
「……悪かった。俺が悪かったよ……」
 鎌をかけてみたが、どうやら 『アレ』 はなるべく秘密にしたい事項らしい。
 白矢が知っているのは友人Aとクラスメートの一人がギターを持ってこそこそ屋上に通っている事実だけなのだが、相当やましい事でもやっているのだろうか。
 そんな白矢の視線に気付いたのか、友人Aは手を両手を振って否定する。
「違う違うそういうんじゃない! ただギター教えてもらってるだけだ!」
「だろうな。左手にやってる奴特有の硬さが見て取れる」
 相当な時間を費やさないと短期間でこうはならないだろう。
 ギターという楽器は学生間では一度は触れたくなる魔性の魅力がある。しかし持続してその魅力と付き合うのは難しく、殆どの者が少し触れるだけで諦め、真に本気でギターを好きでいられる者はごく少数だ。
 どうやら友人Aはその少数らしい。だが……。
「……わからないな。お前はそういう 『夢』 とか、そういう類の言葉が嫌いではなかったのか?」
 以前友人Aは言っていた。
 夢を持っている奴は偉い。夢に向かって努力する奴は偉い。そういう風潮が、俺は大嫌いだ――と。
 だがギターを本気でやるということ――それは、夢そのものではないだろうか。
 友人Aはごわごわとした自分の手を見つめる。
「……別にこれは、俺の夢じゃない」
「……?」
「俺の夢じゃない夢を後押しするのが、今の俺の夢だ」
 突然何を言い出すのだコイツは……などと、普段なら秒単位の速さで反応する所だろう。
 だが、白矢にそれはできなかった。浮かんだのは言葉ではなく、大切な弟の顔。
 そして先日、蒼菜が語った小さな願い。
「おかしいか?」
 少しバツの悪そうな表情で、友人Aが言った。
「いや……おかしくはない」
 白矢は
「おかしく、ないさ」
 そう、繰り返した。