シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード episode-28


 友人Aと別れ、一人で廊下を歩いていると、白矢は空き教室に何者かの気配を感じた。
 それはある闇組織の刺客――等ではなく。
「なんだ。アイツじゃないか」
 空き教室の机をじととっと睨み付けている女生徒の正体は、蒼菜だった。
 何やらカードを広げて何かを唸っているようだ。
「……うー、一から作るのってむずかしい……」
「……何がだ?」
「うーんそれがね白矢君……ってふぇ?! フェフェ!? じらやぐん!?」
 ご当地ゆるキャラよりも甲高い声を上げる蒼菜。瞬時に机の上のカード達の上に不格好に覆いかぶさる。
「……何やってるんだ?」
「……ぇっち」
「は?」
 何か死語が聞こえた気がする。
「白矢君のえっち!!!! もう知らない!!!!!」
「は!?」
 普段からは考えられない程の機敏さを発揮した蒼菜は机をふんぬと持ち上げると、顔を真っ赤にしながら机ごとその場から離脱してしまった。なんなんだ。
「寝顔や部屋に入るのはよくて、デッキを盗み見するのは恥ずかしいのか……」
 白矢は苦笑いし、同時に少し安堵した自分を僅かに嫌悪する。
 蒼菜とゆっくり話す機会ができる――それは、昨日起きた事がどうしても孕んでくる。
 蒼菜の 『持病』 の事は 平山先生から説明を昨日受けた。
 残る事項は二つ。

 蒼菜を 『偽物』 と言う黒鷹と――それに負けた自分。

 勿論決闘に常勝など有り得ない。実力が拮抗すれば、負ける事もあるだろう。
 だが、今蒼菜にそれを伝える事は――いや、できないのではなく。
「したくない。見せたくない……そう思ってるのか、俺は」
 その理由を思考して探してみたが、見つける事はできなかった。



「…… 『えっち』 はないよね私……前時代の女の子じゃないんだから……」
 机を持ち歩きながら蒼菜は嘆息する。正直条件反射的に言ってしまって後悔の沼の真っ只中だ。
 とりあえず屋上で頭でも冷やして、あとでちゃんと謝ろう――。
 そう思い、足を進めると。

「……歌?」

 何故か屋上から歌が聞こえてきた。 それに……何かの楽器の音だろうか?
「でも、楽器より通る声を出せるなんて……」
 それは簡単なようでとても難しい事だ。そして私は音楽に詳しいわけじゃないけど、わかる。

 この声は 『本物』 だ。
 
 気付けば、屋上を駆け上がり、扉を開け放っていた。
 突然の来訪者に見慣れない男の子――いや冷静に見るとその顔は凄く見慣れていたのだが――は酷く驚愕した。
「友人A君!?」
「……今日は厄日か……」
 顔を片手で覆う友人A。その腕にはギターが抱えられている。
 そして隣には、小さな女の子。
 さっきまで聞こえていた 『声』 は確かに女の子の声だった。
 そして私よりも二回りも小さい女の子は
 私よりも何倍も大きい声で
「蒼菜ちゃん! いけないんだよー屋上は立ち入り禁止だよ!」
 元気よく、学校中に響かせる。
 その子はちょっとした有名人だった。クラスメートで、クラス中……いや学校中大きい声を持つ、小さな女の子。
「あはは、お邪魔してごめんね。きーちゃん」
 通称きーちゃん
 正しくは―― 『木咲ちゃん』 といった。