シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

白矢君と蒼菜さん 牛丼を注文する


「今日は牛丼屋にするか」
「白矢……仮にも女子を連れて牛丼はどうなんだお前」
「私は白矢君が行く場所なら平気だよー」
 さいですかと嘆息する友人Aが先頭に立ち、牛丼屋に入店する。
 続いて蒼菜も入ろうと前に進むと……急に服の裾を掴まれ、引き戻された。
「ひゃっ!?」
「変な声を出すな。俺に考えがある」
「か、考え……?」
 先に自動ドアの先に入ってしまった友人Aは二人に気付くと電車に乗るフリ詐欺で一人置いて行かれた男子学生的な顔をしているが、白矢は全く気にせず話を進める。
「普通にオーダーしたんじゃつまらない。凡俗の極みだ――違うか?」
「あっ、そうかもね……私としたことが」
 すっかり白矢に染まっている自覚は蒼菜にはない。
「なので、録音をする」
「……はい?」
 白矢はドヤ顔でボイスレコーダーを取り出し、蒼菜に突き付ける。
「さぁ、吹き込め……注文の台詞を! それで世界は変わる!」
「わ、わかった……私頑張る!」
 牛丼並盛一つお願いします! と叫ぶ もっと声を張れ! と言われる。
 牛丼並盛一つお願いします! と大きな声で叫ぶ 周りの人がギョッとこちらに注視する。
 牛丼並盛一つお願いします! とそれでも叫ぶ 音程が違うもう一回! と言われる。
 二人の真剣さが伝わったのか周りに観客が大勢集まってくる。
「牛丼並盛一つ……お願いしますー!!!!」
 ウオオオオオオオオオオ! と辺りが熱狂の渦に呑まれる。白矢は満足そうに頷くと
「これでお前は……一人前の立派な客だ。行って来い、そしてそのレコーダーを流して堂々と注文してやるんだ。牛丼屋のアルバイト店員が、お前を待っている!」
「わかったよ白矢君!!! 私がんばる!!!」
 念じればドアは勝手に開いた。レコーダーで注文する客など前代未聞だろう。やっぱり、白矢君は凄い。
 後はこれを――再生するだけ!
「いらっしゃいま『牛丼並盛、一つお願いしますー!!!』
 若干タイミングがずれたが、こちらの意図は伝わったはずだ。
 白矢君、私やったよ……! 一人ガッツポーズを決めた蒼菜は振り返り、白矢にアイコンタクトを送る。白矢は深く満足そうに頷いた。
 そしてこれ以上ない程の充足感を満喫しながら、店員に振り返る。店員は言った。

「すいません、注文は食券でお願いします」

 ウオオオオオオオオオオ! と、付けっぱなしだったボイスレコーダーが熱狂する。
 友人Aは頭を抱え、中の状況がわからない白矢は、また満足そうに頷いた。