シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード episode-29


「き、きーちゃんって呼ばれ方余り好きじゃないんだよね。今の私は木咲だから!」
 印象としては見ていて「きーちゃん」と呼ばれるもまんざらではないイメージがあったのだが、何か思う所があるらしい。特に拘ったり交代する場面ではないので、蒼菜は頷く。
「わかった。これからはきーさきちゃんって呼ぶね!」
「それだとなんか笑えるよ!? でも笑えることと言えば……ぷふー!」
 木咲は悪戯心全開の表情で、隣を見る。
「なんだよ……」
「友人Aって凄い呼ばれ方してるよねーって。私もしばらくそう呼んじゃおうかなー!」
「勘弁してくれ……俺にはれっきとした」
「冗談冗談」
「わかってるならいい」
「ところで友人A君。コードの押さえ方が2個甘いよ?」
「早速冗談違うよな!?」
 二人のテンポのいい会話を聞き、本当に仲がいいんだなーと蒼菜は思う。色んな意味で、羨ましい。
「そういえば木咲ちゃんと教室内で余り話したことってなかったね。最近では久し振りかも」
「うーん……私、白矢君ちょっと苦手だからね。そのせいかも」
「えっ」
「あ、いや過去になんかあったとかなんか言われたーとかそういうんじゃなくてね! ホント、小さなことなんだけど」 
「そっかぁ……でも、そういう人は多いのかも」
 確かに白矢君はひたすらに 『人を選ぶ』 タイプかもしれない。と蒼菜は納得する。
 強過ぎる個性を魅力的に見える人もいれば、到底容認しがたいと感じる人も存在する。当然のことだ。
「……そういえば、木咲ちゃんって最近元気なかったような気がするけど、凄く元気になったよね。前よりも元気になったーって感じがする!」
「そっかなぁ……そうかも。実はお恥ずかしながら結構悩んでる事があって、凄く凄く 「うがーっ」 て悩んでたんだけど、この前ある人に解決してもらったの」
 そう言って、隣にいる友人Aに顔を向ける。友人Aは体の向きを不自然に変え、その視線から逃げる。
「もしかして照れてる?」
「……」
 ピックを持ち、黙ってギターを弾き始める友人A。その無言はもはやイエスと言っているもので、木咲と蒼菜は顔を見合わせ揃って苦笑いした。






「……え、文化祭には出ないの?」
 蒼菜が首を傾げ、友人Aが頷く。二人は最初は次の文化祭に軽音楽サークルとして参加する予定だったのだが、先日それを承認する立場のはずの生徒会長が、今学校にいないらしい。
「……ちょっと色々あってな。その理由に俺……そう、俺が関わってるんだ。さすがに生徒会からはよく思われてないだろうから、多分絶望的だなって」
「そんな勿体ない! 木咲さんはそれでいいんですか?」
 さっきの二人の曲は素晴らしいものだった。それがこの場だけで終わってしまう事は、蒼菜には酷く勿体なく思える。
「私も文化祭には出たいけど……うーん」
 歯切れの悪い反応だった。何か事情でもあるのかもしれない。
 だけど蒼菜は 『嫌だな』 と強く思った。
 そう思った理由は、ハッキリとはわからない。
「じゃあ私掛け合ってみる! 案外あっさり許してくれるかもしれないし!」
 それでも気付いたら、屋上から飛び出していた。




 


「白矢クン、ちょっといいでしょうか?」
 平山先生に廊下で声をかけられ、白矢は足を止め振り返る。
「はい?」
「さっきのニュース見ました? どうやら……」
 それは神経質に気にするような事項ではない。危険度が高い場合は当然あるが、その殆どが杞憂で終わるからだ。この学校がサイコ決闘者を有しているという事実も後押しして、そこまでの事態では決してない。そのはずだった。
 だが白矢は何故か、確かに感じた。

「近くに通り魔殺人が出たらしくって……」

 芯から凍てつくような、嫌な悪寒を。