シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード episode-31


 白矢は人の死に慣れているわけではない。
 見知らぬ――どこかですれ違ったかもしれない誰かが目の前で死んでいる。それを認識しているはずなのに、どこか実感が湧かない。 ……もしくは、正しく認識する事を無意識に拒んでいるのかもしれない。
 先程思い返したバルゥの言葉が、再び心中に響き渡る。
 白矢が目指していたものの正体。その究極系。それは――黒鷹の進んでいる道の先にあるとでもいうのだろうか。

「白矢先輩に一部失望したのはそこです。貴方は凡俗脱却を掲げているのに、その凡俗の決めたルールに縛られている。そのルールを守りながら必死に脱却を目指している――何の縛りプレイですかそれは! なんでそんな面倒な事をするのか理解できない!」
「……それは……」

 ピシリと、音が鳴る。
 普段意識しないように、触れないように誤魔化していた脳の領域を閉じた蓋に、罅が入る音が聞こえる。
 違う、そこには答えはない。言ってやればいいんだ。犯罪を冒してまで手に入れた 『本物』 などに興味はないと、そう言ってやればいい。
 だが、言えない。口を開こうとしても、石のように動こうとしない。
 代わりに帰ってきたのは 「違う」 という言葉。考えてもいない事を言うべきではないと、自分の芯が言っている。
 なら、自分が本当に考えていることを言えばいい
 だがそれを引っ張り出そうとすると、口が動かなくなる。
 次の瞬間。以前転武に言われた言葉が再生される。

 お前は矛盾してるんだよ――

 あの場では全くの見当違い。勘違いから生まれた言葉。
 だが、内心ではその言葉を聞き流してはいなかった。
 何故聞き流せなかったのか。それは自分自身がそれを、どこかで、自覚していたからではなかったか――?
 そう思い至り、頭の罅が割れそうになった寸前。
 
 何処からか伸びてきた 『手』 に、首を思い切り掴まれた。





遊戯王Oカード episode-31




「――白矢先輩!?」
 混濁する意識の中、白矢の耳に驚愕する黒鷹の声が聞こえる。
 だが、それはおかしい。あの場にいたのは、黒鷹と。俺だけのはず――。
 そこまで思考を進めて、気付いた。
 他にも――いたじゃないか。黒鷹の隣に。

 真っ黒い炎で燃やされたはずの、女生徒の遺体が――。

「な……んで――」
 辛うじて声を出すが、目の前の遺体だったはずの 『何か』 から返答はない。
 目玉はドロドロに溶解し、髪は燃え、焼けた肉の底から骨が露出している。
「先輩を――離せ!」
 決闘盤を展開させ、黒鷹は瞬時に<ヴェルズ・バハムート>を具現化させる。
 

《ヴェルズ・バハムート/Evilswarm Bahamut》 

エクシーズ・効果モンスターランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×21ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、選択した相手モンスターのコントロールを得る。

 出現した暗黒の氷龍は尻尾を振り回し、器用に女生徒だけを吹き飛ばした。
 荒々しい方法だが手の力が緩み、白矢は解放される。

「なんだ――これは……なんだよこれは……!」
「ある意味都合が良かったかもしれませんね。これで先輩にも信じてもらえる――さっき僕が殺したのは、人間じゃない」
「人間じゃ、ない?」 
 黒鷹は吹き飛ばされた遺体が黒く変形するのも見据えながら、言う。



「あれは 『ペイン』 ボク達サイコ決闘者の――成れの果てだ」