シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル番外編 『異世界』 episode-04


「――エレメンタル・バースト、発動ッ!」

エレメンタルバースト/Elemental Burst》 †
通常罠
自分フィールド上に存在する風・水・炎・地属性モンスターを
1体ずつ生け贄に捧げて発動する。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 4つの属性の光柱が勢いを増し、大地を裂きながら迫ってくる。 
 このままでは場のモンスターは破壊されてしまう。 こちらの伏せカードは2枚。

【治輝】LP10
場・伏せカード

【粉子】LP4000
場・伏せカード2枚(リミットリバース&クリボーを呼ぶ笛)

「うーん、速攻魔法してクリボーを呼ぶ笛かな」

クリボーを呼ぶ笛/The Flute of Summoning Kuriboh》 †
速攻魔法
自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、
手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

クリボーを手札に加えるよ。 これでこのターンは安心だよね」
「……それで本当にいいのか?」
「うん」
 数秒の間。
 それによりカードの発動チェーンがこれ以上無い事を確認し、破壊の嵐が粉子のフィールドを全壊させた。
 破壊されたカードは<リミットリバース>

リミット・リバース/Limit Reverse》 †
永続罠
自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
表側攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 (リミットリバースをチェーン発動できたけど、蘇生してもすぐ破壊されちゃうし……
 それに手札にクリボーがあるので、4000削られる事はないだろう。
 粉子がそう思った直後。

「それは、どうだろうな?」

 思考を読んだような治輝の言葉に、思わず粉子は顔を上げる。
 エレメンタル・バーストの破壊が通り過ぎた直後。 地面を均した大地に、いつの間にか枝が張り廻られていた。
瞬く間に大樹へと変貌し、残った枝が手のように大樹の中心に差し込まれ、何かを引き抜く。
 それは漆黒の大剣だった。 そのまま大樹自身の腹を引き裂くように取り出した瞬間。 枝だったはずのモノは姿を変え、一匹のドラゴンへと転身する。

 《ドラグニティアームズ-レヴァテイン/Dragunity Arma Leyvaten》 †
効果モンスター
星8/風属性/ドラゴン族/攻2600/守1200
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する
「ドラグニティ」と名のついたカードを装備したモンスター1体をゲームから除外し、
手札または墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
「ドラグニティアームズ-レヴァテイン」以外の
自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。
このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、
装備カード扱いとしてこのカードに装備されたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 どうやら治輝の最後の伏せカード <リビングデッドの呼び声>が発動していたようだ。 それと同時に治輝は手札の最後の一枚をセットする。
「――レヴァテインの効果で装備した<ドラグニティ・ファランクス>の効果発動。 装備カードからモンスターゾーンへと特殊召喚できる!」

ドラグニティ-ファランクス/Dragunity Phalanx》 †
チューナー(効果モンスター)
星2/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1100
1ターンに1度、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合に発動できる。
装備カード扱いとして装備されているこのカードを特殊召喚する。


 
「レベル2の<ファランクス>とレベル8<レヴァテイン>をチューニング、シンクロ召喚!」
 ファランクスは勢いよくグーを天に突き出すと、光の輪と変化してレヴァテインを覆う。 同時にレヴァテインの身体は光体となり、十の星へと変化した。
 その星は場に漂うと破裂し、その散った断片が炎を作り出す。

「豪炎の暴君を宿す粉塵と成れ――シンクロ召喚。 <トライデント・ドラギオン>!」


トライデント・ドラギオン/Trident Dragion》 †
シンクロ・効果モンスター
星10/炎属性/ドラゴン族/攻3000/守2800
ドラゴン族チューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体以上
このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
このカード以外の自分フィールド上のカードを2枚まで選択して破壊できる。
このターン、このカードは通常の攻撃に加えて、
この効果で破壊したカードの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 さすがに驚いたのか、突如降臨した炎竜に目を見開くココ。 だが恐怖や怯えは一切感じられない。
 
「でも、クリボーがあるから」
「このカードは場のカードを2枚破壊することで、3回攻撃ができる」
「えっ」
「俺が破壊したのは先程シンクロに使用した<リビングデッド>と今伏せた超再生能力。 よって攻撃回数は――3回だ!

 クリボーで防げる攻撃は1度だけ 
 残り2度の攻撃を直撃したら……
「ドラギオン、ダイレクトアタック!」
 合計6000のダメージ
 防ぎ切れない事を悟ったココは、クリボーの効果を使わずに決闘に敗北した。


「うーん、時枝はんはさすがだねぇ」
 唸りながらココは呟く。 相手のライフを100に設定してもらった決闘だというのに、全く勝てる気がしなかった。
 決闘盤のビジョンが消え、治輝が小走りで近寄ってくる。
「防御力は高いデッキなんだけどな……君がここまで生き残ってきた理由がわかった気がする」
 治輝がずっと違和感を覚えていた事。 それはココが異世界で今の今まで 『生き残れていた』 という事実だ。
 微弱なサイコ能力しかないココは、異世界のモンスター達に成す術もなく倒されてもおかしくない。 にも関わらず、今の今まで無事に生存している。  幾ら足が速くても、それは余りに不自然な事なのだ。
「<クリボー>や<和睦の使者>を始めとした防御カードは力の強弱に関係なく、どんな相手の攻撃も基本的に防ぐことができる……盲点だったな」
 治輝と戎斗は能力のスペックそのものが規格外の為、気付きようがなかったとも言える。
 ともかく規格外でなければここのモンスターに対処できない――という考えは改める必要がありそうだ。
 治輝はコホンと咳払いをする。 考察をするのはいいが、今は決闘の話だ。
「確かに決闘は俺の勝ちだったけど……勝負はまだわからなかったと思うよ」
「え?」
「君は<エレメンタルバースト>が発動した際に迷わず<クリボーを呼ぶ笛>で<クリボー>を手札に加えた。 それは何故?」

 《クリボー/Kuriboh》 †
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 ココは頭を傾け考える。 別に間違った選択をしたとは思えない。
「<エレメンタル・バースト>って全部が破壊されるんだよね。 なら場に出してもすぐ破壊されるだけだし、手札に加えて効果のあるカードじゃないと……」
「確かに一理はある。 でも君のデッキにはまだ<ハネクリボー>が残ってるんじゃないか?」
「え、でも出しても……」
 すぐに墓地に行ってしまうじゃないか、と反論しようとしたところで、気付く。
 確かに逆順処理でハネクリボーは墓地に行ってしまうが、ただ墓地に行くだけではない。
 破壊され、墓地に送られるのだ。

《ハネクリボー/Winged Kuriboh》 †
効果モンスター
星1/光属性/天使族/攻 300/守 200
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。
発動後、このターンこのカードのコントローラーが
受ける戦闘ダメージは全て0になる。


「あ……」
「そう。 一見わざわざ破壊させる為にモンスターを出すのは無駄に思えるかもしれないけど <ハネクリボー
をそれに巻き込めば無意味どころか無傷で攻撃を凌げた」
「ううん、なるほど」
「それにもしかしたら、君は勝ててたかもしれない」
「え、あの状況から?」
「少し手札とデッキトップを見せてもらっていい?」
「うん」

 手と手が一瞬触れ合いドッキリするが、一瞬悪寒が走り鼓動を安定させる。
 ココは特に気にした様子もないようなので、治輝は咳払いをしてデッキをめくる。
「こう、妙な背徳感が……」
「……?」
「そ、それはともかく! デッキトップは <サイクロン> か。 これなら本当に勝てたかもしれない」

《サイクロン/Mystical Space Typhoon》 †
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

「うーん? 確かに<リビングデッド>は破壊できるけど、私のターンになったらもう――」
「そう、攻撃が通らなかったとしても、恐らくドラギオンにシンクロするだろうね」
「だったら」
「でも、俺のターンが急にエンドフェイズになったら、そっちの勝ちだ」
 突拍子もないことを言い始めた治輝に、さすがのココもジトっとした不満気な表情を向ける。
「そんなありもしない前提考えたって」
「決闘は何が起こるかわからない。 考えて無駄なんて事はないさ。それに――」
 デッキを返しつつ、治輝は半身だけ振り返り、言う。

「君は強くなりたいんだろ? ならまずは、今の強さを全部引き出せるようにならないと」
 強くなる。 と一概に言っても色々ある。
 まずは自分の潜在能力を引き出す。 引き出しやすくしていくこと。
 本来自分の持てる力を絞り出す方法を、最大限に生かす手段を学ぶこと。
 もう一つは、今の自分にない力を身に付けること。 難しいのは圧倒的に後者であり、同時に危険でもある。
 それは治輝自身が、一番よく知っていることだ。

「そういえば永洞はんはどこに?」
「アイツは――性じゃないだろうし、怒ってるのかもしれない」
「普通怒るよね。 あんな事言われたら」
「それも勿論あるだろうけど……俺にも、なんじゃないかな」
「え?」
「多分アイツは、俺にも怒ってる」
 
 ――強くして欲しいの。 命の使い方を選ぶために。

 その 『お願い』 は、究極的に言ってしまえば全くの無駄なものだ。
 いずれ自らいなくなってしまうと明言した人間を強くする。 それは籠から出す気のないハムスターに泳ぎを教えるようなもので、先を急ぐ戎斗や治輝がすべきことではない。
 にも拘わらず治輝は、こうしてココに協力している。
「アイツは嫌いなんだ。 君がさっき言ったような事は」
「うーん、普通は嫌うと思うけど」
「自覚はあったんだ……ただ 『普通』 とは少し、違うかもしれない」
「?」
 治輝は以前、戎斗にある意味で救われた事がある。

 ――介錯くらいは手伝ってやるよ。俺流のやり方でなァ
 
 かつて死に向かっていた俺に、戎斗はそう言って道を示した。
 言葉面だけ見れば、それは救いでも何でもないものだ。 むしろ死す自分を後押ししているようにも感じられる。
 だが、結果的には戎斗に道を示してもらったのだ。 自分が死ななくてもいい道――この世界に来るという、新しい可能性を。 

 しかし。
 結果的に危険な敵地に乗り込んでまで、それを伝えに来た戎斗は、かなり不自然でもあった。
 俺の知るアイツは、自ら死を選ぶような軟弱者に手を差し伸べるような人間ではない。 今目の前にいるココを、見捨てろと吐き捨てたように。
 むしろ戎斗という人間にとって、それが正常なのだ。 なら、何故あの時は手を差し伸べた?
 俺個人に対する因縁? 同情? どちらもしっくり来ない。
 
「アイツは過去に、何かあったのかもしれないな。 例えば――誰かに面影を重ねているのかも」
「うーん、元カノとか?」
 真顔でそんなことを言い出すココに、治輝は思わず大声で笑ってしまう。
 少し遠くから、それを聞いた誰かの舌打ちが聞こえたような気がした。