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アーケード・アンチヘイター episode-33 (期間限

待ち合わせ。
 それは指定した時間と場所に集まり、合流する事である。
 この日はゲームセンターで合流した後、カラオケに行く予定だった。
「ほら、早く行こう!」
 急かされるがしかし、俺には今この場を動けない理由がある。
 とても重要な事だ。 何故なら俺は――なんと今、連勝している。
 しかも得意なロボットアクションゲーム《飛翔幻機》ではなく、それに生かせる要素を探しにプレイした対戦格闘ゲームでだ。普段はここまで連勝できないのだが、今日は珍しく調子がいい。
「予約したんだから早く行こうよ!」
 しかし、俺の頭上で文句を言っている子――親友の妹である鞠《まり》が、それを許さないと言ってくる。
 悪いのがこちらなのは百も承知だ。しかし俺は、一縷の望みを賭け懇願する。
「俺、このゲームあんまり強くないんだよ」
「うん。無利これあんま強くないもんね」
 はっきりした物言いに男としてのプライドが「ぐぬぬ」と反応するが、なんとか感情を制御する。
「で、でも今連勝できてるんだよ。珍しいだろ?」
「そうだね。もう二度とないかもしれないね」
「だろ? だから――」
 話してる間にも、対戦相手との勝負は続いている。本来なら失礼な事この上ないが、今は非常時だ。俺の連勝記録が伸びるかどうか、その全てが目の前の女の子の説得の是非にかかっている。
 俺は息を大きく吸い、連続技のコマンドを入力しながら、真摯に口を開いた。

「負けるまで、やっていいか……?」

 空気が冷えるのを感じた。
 それはそうだろう。女の子と待ち合わせをしておいてゲームを優先する男など――本来存在してはいけない外道だ。しかも連勝中の調子のいい状態で負けるまでやるとなると、終わるのがいつになるか知れたものではない。
 烈火の如く怒られて当然だが、俺は賭けたのだ。
 約束と同じ、いやそれ以上に鞠が俺の連勝を――尊く思ってくれる事を。
 俺の願いが通じると、鞠は怒りではなく笑顔でそれに応じてくれた。
「わかった。他ならない無利の頼みだもんね。じゃあ私もゲームやってきていい?」
 にっこりと微笑んだその顔は、どこか相方の植実に似ていて、そのことに気付いた俺のDNAが危険信号を発信する。しかしそれが具体的にどう危険なのかはわからないので、俺は快く応えておく。
「ああ、なんか悪いな」
「いやいや気にしないで。私も無利が負けるところ、特等席で見たくなったから、うふふ」
「ああ、そうだな……?」
 ここで、俺は会話が少しズレていることに気付く。
 鞠は待っている間ゲームをやってくると言った。
 しかし俺が負けるところを見たいという。
 その二つは、もしかして矛盾する事項ではないだろうか?
「それ、どういう――」
 俺が後ろを振り返り疑問を口にした時には、鞠の姿は消えていた。
 どういうことだこれはと首を傾げていると、目の前に新たな乱入者を知らせるメッセージが表示される。
 今は消えた鞠よりも自分の抱えた連勝を伸ばす事が重要だ。俺は目の前の相手に意識を集中する。
 ゲームであろうと勝負というものは、始まる前から始まっているのだ。相手のキャラクターやランクを見て、その試合でするべき行動や気を付けるべき事項を再確認。それはどんな勝負事にも、絶対の原則で――。
「あれ?」
 俺はまばたきした。
 もう一度まばたきした。
 だって相手の名前が、それはそれはとても見慣れたものだったからだ。
 
 かくして俺はその相手にボコボコに敗退し。
 その相手に引き摺られるように、ゲーセンを後にした。