シューティングラーヴェ(はてな)

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アーケード・アンチヘイター episode-37 (期間限

植実と、俺と蛇内は親友だった。
 間違いなく仲も良かったし、色々な経験を共にした。
 そしてどちらかが親友の先に行こうとして、どちらかがそれを諦めた。
 俺達は植実と親しかったし、仲も良かった。
 だが一度も、ただの一度も。
 声を交わした事は、なかったのだ。



「植実の、居場所がわかった……?」
 大会が終わってからずっと、探していた。
 火事に蛇内の妹を巻き込んでからも、無意識にその影を追っていた。
 一人で上手くやれているだろうか。 外に出て本当に大丈夫なんだろうか。
 そんなことを考えて、機会があれば探し続けていたのに。
 蛇内はその居場所を突き止めたと、そう言ったのだ。
「だから知らせに来たんだって。電話じゃアレだし直接知らせたいってな!」
「本当なのか……一体何処に?」
「今から顔を見せに行こうぜ、その方が手っ取り早い」
「特区の中なのか……!?」
 驚愕するが、タクトが知らなかったことを考えると不自然ではない。
 なんらかの事情でこちらに戻っているのかもしれない。
「わかった。すぐ案内してくれ」
「補修はいいのかー?」
「……それどころじゃないし、気にすんなって言ったのはおまえだろ」
「悪い悪い。でも大丈夫だぜ、目的地は一緒だから」
「一緒――遊肢船に?」
 今日の補修場所は専門の施設が詰まっている 《海上ゲームセンター》 だ。
 専門の医療施設もあり、仮に腕が切断されたとしてもここに行けば治してもらえる――なんて都市伝説が流布される程の場所で、他分野の筐体や飛翔幻機の筐体も設置されている。
 その名も《遊肢船》
 建造費に幾らかかってるのか想像もしたくないが、特区の創設者は底無しの富を築いており、恐らく一隻だけというわけではないだろう。馬鹿げた区域を力押しで作ってしまう馬鹿げた創設者の事だ。 十隻を超えていてもおかしくはない。
 その船に、植実がいる。
 俺は蛇内の頷きを見るが否や、会話するのも惜しんでその方向に進み始めた。


 ――植実と俺は、蛇内と植実は、声を交わしたことがなかった。
 その理由は簡単だ。
 前回の特区大会優勝者、小河植実は――人生の途中で、声を失った女の子だったからだ。