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アーケード・アンチヘイター episode-38 (期間限


 さあ、皆さん二人組を組んでください。
 その響きに恐怖を覚える人は世界にどのくらいいるだろう。
 俺には蛇内と鞠……二人の友人がいるので、怖がる必要はない――そう思っていたのが数分前。
「翔矢お兄ちゃん心配だから、一緒に組む事にしたんだ」
「そういうことだ。わりぃな無利」
 この裏切り者。ブラコン! 等と鞠と蛇内に叫びたい衝動を覚えた。いや実際叫んだと思う。
 そんなわけで俺は二人組を作るというワードに恐怖する子兎に逆戻り。しかし他に知り合いもいなければ、作る気もない。
 ――俺は友達を『作る』という言葉も、行動も嫌いだ。
 まるで作るのが義務のような、作る事に利益や見返りを求めているかのような、そんな響きが嫌いだった。
 なので、特区大会の相方を探せと言われても、誰かに歩み寄ったり、媚び諂ったりする気はサラサラ無い。
 となれば、俺の出した結論は簡潔だった。
 迷わず、二人で組んで大会で調節している男女のカップルに乱入する。
 ――一人が駄目なら、一人で二人に勝てるようになればいいのだ。
 だが俺は結局、特殊な能力も長所も特に無い一プレイヤーに過ぎない。
 ニ対一という圧倒的な不利を覆す事なんて到底叶わず、耐久を半分以上削られた。
 やっぱり無理だったか――俺が勝負を諦めかけた、その時。
 突如けたたましく響き渡る援軍警報。
 助かった。そう思いつつ、俺は声を援軍に入ってくれた相手に声を送る。
「蛇内か鞠だろ? 助かった」
 俺に援軍してくれる奴なんてこの世に二人しかいない。それが蛇内と鞠だ。
 だから俺はドヤ笑いする蛇内か、呆れ顔を浮かべていそうな声の鞠の返事を待つ。
 だが、その返事は一切来ることは無かった。
「……おーい?」
 返事をせずに、相方の機体が前方に躍り出る。
 それは蛇内や鞠の扱う機体とは、明らかに違っていて――。
「違う奴……なのか?」
 耐久値半分というハンデがあったはずなのに。
 その純白の機体に動きを合わせて戦闘をしただけで、驚く程あっさりと勝利することができた。

 対戦が終わると、俺はそそくさと帰っていく対戦相手には目もくれず、隣に座った人物に視線を送る。
 戦闘中の凄まじい反応速度から想像した姿とは裏腹に、そこにいたのは。
「……」
 対戦ゲームなんて一切興味のなさそうな、マスクをつけた女の子だった。
 一瞬躊躇いながら、お礼を言う為に口を開くと――。
「……!」
 ん! とでも擬音が聞こえてきそうな口を結んだ表情で、俺に携帯端末のディスプレイを突き出して来る。
 そこに表示されたのは流行のチャット型アプリケーションのQRコードだった。


「『なんで私の動きに合わせられたの?』 か」
 目の前の少女はあからさまに怪しかったが無視するわけにもいかないので、流れで少女のアドレスをコードリーダーで登録し、早速目の前の少女から会話が送られて来たのだ。
「そういうキャラ付けなのか……? 面と向かって話せない内気キャラとか」
 真っ先に顔をぶんぶん振った後『違う』と送ってくる。
 そのまま俺が声で、少女が文字で返事をする奇妙な会話を続けると、一つの事実に突き当たった。
 この子は後天的に声を失った。
 そして二度と、声が治る事はない。
「……で、声を失った直後に特区送りか」
 コクンと頷く少女はしかし、その表情に悲しさも、怒りも、一切浮かべなかった。
 声が出せなくなった。それを理由に自分の子を見放す親――憎んだりはしていないのだろうか。
 俺がそのことを問いかけると、彼女は首を振った。
『迷惑かけずに生きられるなら、此処の方がいいよ』
 その、言葉。
 即答した彼女の言葉には力強さがあったが、そこには確かに諦めが含まれていた。
 人間は健常者でなくなった瞬間。普通の人生を、レールを外れて歩めなくなった瞬間。
 ――迷惑をかけ続けなければ、生きていけないのだと。
「――アンタ、名前は」
『小河植実』
「俺は道乃瀬無利。――タッグを組んでみないか? 俺と」
 キョトンとして差し出された手を見つめる少女。
 この子もまた、いらない人間として実の親に処理された。
 そして諦め、自分がいらない人間であることを、認めてしまっている。
 だから、俺は言う。

「俺達はいらない人間なんかじゃない――だからまず、俺と一番にならないか?」

 それが俺と植実の、最初の出会いだった。