シューティングラーヴェ(はてな)

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なりたかった人 前編

 ――将来、貴方は何になりたいですか?
 現実の世界は勿論、ドラマのような創作物の中にも、そういう台詞は溢れている。

 その溢れてる言葉は『夢』と言い換えてもいい。
 夢を持ってる奴は偉い。夢を目指している奴は偉い。
 そんな言葉が余りに溢れているから
 周りから、それを押し付けられているような気さえしてくる。
 だから、俺はその言葉が嫌いだった。
 余りに溢れている、その『夢』という言葉が、俺は大嫌いだった。


















普通の小説 『なりたかった人』


 キーンコーンカーン
 教室のチャイムが、退屈な時間の終了をお知らせしてくる。
 でも、俺には全く関係が無い。
 何故ならその鐘が鳴る遥か前に、俺の視覚が暗い所に沈んでいるからだ。
 暗黒と言い換えても、深淵と言い換えてもいい。お望みとあれば、睡眠と言い換えても構わない。

「……とき……ん!」

 何やら声が聞こえてくるような気がするが、多分気のせいだ。
 俺の耳には特大の耳栓が入っていて、周りの雑音を意のままにカットする事ができる。
 つまり、今の俺には耳元で大声で叫ばれようと、絶対に声が届くはずが





「とーーーきーーえーーーーだぁぁぁぁくううううううううううん!!!」

 物凄い爆音が、耳栓と俺の耳栓と鼓膜を物理的に吹っ飛ばした……ような気がした。
 それぐらい大きな声だった。

「だあああああああ……うるせぇ!いつも声がデカ過ぎるんだよオマエは!」
「いつまでも起きないのが悪いよ!授業中も殆ど寝てたというのに!」

 今も耳の奥がギンギンする。耳栓貫通するとか、女の癖にコイツの声帯は一体何で形成されてるんだ。
 目の前にいるコイツの名前。いや苗字は『木咲』<きのさき>という。
 特徴は声がでかい。髪が長い。声がでかいの三つだ。

「で、今日は何の用だよ」

 木咲は休み時間や放課後にやたらと俺を捕まえ、一方的に話してくる事が多い。
 大抵は俺が嫌いな内容の話なので極力お断りしたいのだが、木咲はそんな事お構いなしだ。
 っていうか内容が何であるにしろお断りしたい、声がでかすぎるせいで色々筒抜けなのは嫌だ。
 だが、今日の木咲は少し違っていた。

「うーん、今日は屋上で話さない?」
「……熱でもあるのか?」
「いや、ないよ」
「……」

 普段なら「声でかいから場所変えようぜ、むしろ変えろ」と宣言するのは例外なく俺の方なのだが、今日の木咲は自分からそれを提案してきた。
 これはいつもの木咲じゃない。気のせいか、いつもより大人しい気すらする。

 男と女の同級生が、屋上に、いつもと違う感じで二人きりでお話のお誘い。
 ここから導き出される答えは、一つ……!








「――おまえ偽者だな!?」
「なんでそうなるんだよっ!」

 そうして木咲に耳元で突っ込みを入れられた俺は
 鼓膜に更に深刻をダメージを訴えながら、半ば強制的に屋上に連行されていった。