シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

ファントムバレット編のOP戦闘を妄想して書いてみた。

 VRMMORPG――銃世界、ガンゲイル・オンライン
 その最強を決める大会《バレット・オブ・バレッツ》に優勝し、死銃を巡る事件を切り抜けてからしばらく経つ。
 しかし事件はまだ終わったとは言い切れない。
 SAO時代の殺人ギルド――ラフィン・コフィン。 
 それに所属していた死銃事件の主犯格である赤眼のザザは確かに逮捕されたが、まだ共犯者がいる可能性は捨てきれない。
 そして問題は、現実の危険以外にも残っていた。
「お前等、最初からグルだったんじゃねぇか?」
 そう、俺は――いや 『俺達』 は確かに優勝した。 しかしそれは一人の力では決してない。
 冥界の女神の名を冠する狙撃銃 《ヘカート》 を操る凄腕の狙撃手、シノンの力があってこその勝利だった。 
 本物の殺人者である死銃を止める為に、俺は彼女と共闘し死銃を打ち倒し、優勝した。
 しかしそれは純粋なゲームの大会としては、褒められた行為ではなかったのだ。
「確かにルールで決められちゃいない。 でも予選が個人戦である以上、本戦でも個人で通すべきなのが暗黙の了解ってもんだろう。 あんな談合がまかり通ったら、あの大会は如何に徒党を組むかどうかのものになっちまう。 大会ってのは、強い奴が勝つもんだ。 口の上手い奴が勝つようなモノになっちゃいけねぇんだよ」
 目の前の男の言葉に反論する余地はない。 何故なら。彼は死銃事件を解決した人間が誰かは知らない。 仮に教えても信じるとは思えないし、それをしたところでシノンに関しての疑念が増えるだけだ。
「オレはアンタの優勝を認めてねぇ。 だから、勝負してもらう」
「……勝負?」
「アンタが死ぬか。 俺が殺されるか……単純だろ?」
 その言い回しに僅かに警戒心が高まるが、俺はすぐに考えを振り払う。
 男の言葉は軽く、死銃のような戦慄を覚える事はない。
 あくまでゲームの死亡判定のことを言っているのだろう。
 本来なら、こちらにメリットのない勝負に乗る必要はない。 
 しかし、俺の都合でシノンの評判を無為に下げてしまったことは事実だ。 
 彼女は俺やアスナがメインとしている 《アルヴヘイム・オンライン》 に来ることを検討してくれているが、恐らくコンバートはしないだろうと俺は踏んでいる。
 シノンにとっての故郷はあくまでこの銃の世界――ガンゲイル・オンラインなのだ。
 俺は明日にでもALOにコンバートし、この世界から 《キリト》 というキャラは消滅する。
 彼女の評判を堕とした責任は俺にある。 
 ならば――彼女が故郷であるこの世界を好きで居続ける為に、戦うべきなのだ。
 

 エレベーターと呼ぶには相応しくない。 まるで工事現場で機材を運ぶような――そう、昇降機とでも呼称するのが適切だろう。 それに乗って、俺は上へ上へと上昇していく。
 この試合――いや 『勝負』 は、これが地上まで上昇し、扉が開いた時から開始される。
 昇降機は完全な密閉空間ではない。
 昇る鉄格子の合間から赤い作業光が漏れ、俺の視界を照らしている。
 血のような光の色。 しかし、この勝負にはSAO時代のように命が賭かっている訳ではない。
 死銃事件のように、誰かの死が賭けられているわけでもない。
 それでも俺は、この勝負に負けるわけには行かなかった。
 扉が開く。 夕焼けの光が、過剰なまでに凄まじい光量を伴って襲い掛かる。
 それと同時に 『複数』 の弾丸が、昇降機に向かって乱射された。


「一対一なんて言ってないぞ――っと」
 先頭に立った男――ウエマルはそう言い、舌舐めずりをする。
 男に誘い乗ってこの宴に参加したのは僥倖だった。 かつて自分を破った女を、こうして貫く事ができたのだ。
 卑怯と言われようと、あの地雷のような戦闘スタイルにやられたこちらとしては、むしろ正当な権利と言っても過言ではない。
 最初から尋常な決闘などする気などなかったのだ。
 夕方の太陽エフェクト光が最大に降り注がせるように時間を指定し、乗る昇降機も選択した。 キリトは光で視界ままらない内にこちらの一斉掃射を受けたことになる。 
 相手の視線から予測する――それができる相手なのだと、男からは聞かされていた。 だからこそ視界を封じ、その隙を突く作戦を考案したのだ。
「アイツはあの男と一騎打ちだと思い込んでたんだろう。 でもそれは決勝戦でお前等にやられた奴も同じ気持ちだっただろうぜ!」
 高笑いし、既にキリトが死亡し、消滅した現場であろう昇降機付近をスコープ越しに見つめる。
 死体が残らないと感慨も残らなくて残念だ――そう考えた、次の瞬間。

「――だろうな。 そんなことはわかってるさ」
 
 距離がある為、全ては聞き取れなかった。 しかしその声は確かに聞き覚えがあった。
 忘れもしないバレット・オブ・バレッツでの予選。 光剣で俺を貫いた女の声――。
「う……そだろっ!?」
 凄まじい勢いで自身を弾丸の様に射出して近付いてくるのは――見間違えるはずもない、死亡させたはずのキリトだった。 スコープ越しで見ていた事が幸いし、なんとか反射的に銃を構え、同時に弾道予測線が出現する。 しかしその赤い光を遮るように、キリトの持つ光剣が煌めき、その予測線通りに飛んでいった弾を全て弾き飛ばす。 当然、再装填する暇などない。
 まるでジェットエンジンのような振動音が響くと同時に。
 呆気なく光剣にオレの身体が飲み込まれ、引き裂かれた。


 俺に勝負を持ち掛けた男は、嘘を一つも言っていない。
 ――試合をする、とは一言も言っていないのだ。 
 どちらかが先に死亡するか否かの単純な勝負、そうとしか言っていない。
 一対一で戦うとは、一言も言っていない。
 だからこそ、相手が複数であることを半ば確信していた。 暗い場所に目を慣らされた後に夕日の強い光を浴びせられたことは肝を冷やしたが、相手がこちらが 『複数だと気付いていない』 と思ってくれているのなら、その弾道を予測する事は難しくない。 弾道予測線無しで死銃の狙撃を避けた時の方が、よっぽど難易度は高かった。
 しかし問題はここからだ。 先頭の一人を倒したのはいいが、ここには隠れられる遮蔽物は存在しない。 加えて――。
「さっきの奴は囮。 だとすると、この位置は四方に囲まれてる――なら!」
 幾つもの弾道予測線と共に複数の銃弾が飛来する。 その全てを避けきる事は不可能だろう。
 なら斬り飛ばせばいいかと言われれば、事はそう単純ではない。
 この数の予測線を全て回避し、全ての弾を斬り飛ばす――そんな神業が成功したとしても、絶対に体勢はどこかで崩れ、隙が生まれる。 
 例えばそれは、ソードスキルの終了硬直のように。
 そしてその瞬間に、弾道予測線に表示されないスナイパーからの狙撃が来れば、その時点で決着だ。 このゲームにHPという概念は存在するが、当たり所が悪ければHPなど関係無しに一撃で死亡してしまう。
 だから俺は敢えて――避けなかった。
 弾道予測線の先にいる一人に向かって、避ける素振りすらせずに直線的に突進していく。
「な――正気かテメェ!?」
 いいぞ、せいぜい驚いてくれ――俺は内心でそう思い、不敵な笑みを浮かべる。
 弾道予測円――バレットサークルは、弾丸を発射する前に視界に出現し、弾はその円内の何処かにランダムに命中する。 当然狙った場所に当てたいのであれば小さければ小さい程精度が上がるのだが、小さい円を作るには幾つかの条件が存在する。 
 距離、銃の性能、天候、スキルステータスの値。
 そして、一番重要とも言われているのは心臓の鼓動だ。
 緊張していればいるほど、焦れば焦るほど、平静でなくなればなくなるほど、弾道予測円は大きくなる。
 つまり、狙った場所――致命傷に当たり難くなる。
「さぁ、来いよ!」
 本当は来て欲しくなどないのだが、ここは自信過剰な自分を演じる必要がある。
 相手の表情は焦ってくれているだろうか。 いや、もう焦っていると仮定するしかない。
 一対多数等という馬鹿げた状況を覆すには、全てが都合良く上手く行ったとしてもまだ足りないのだ。
「く、くそ!」
 震えた声と共に、目の前の相手は発砲。 その間にも幾つもの弾丸が掠めていくが、致命傷以外は全て避ける事すらしない――いや、している暇がない。
 恐らく俺がこの戦闘で一番死ぬ確率が高いのは、今この時だ。
 コンシューマーゲームのボス戦のように、最初は小手調べ、後半になればなる程敵は手強くなる――なんて演出の効いた展開には成り得ない。 何故なら開始直後の今この時が、敵の数が一番多いからだ。
 逆に敵を減らせば減らすほど回避難易度は下がっていくだろう。 しかし、未だ敵は数多く残っている。
 こちらに救援は有り得ない。 ならば、命<HP>を削るタイミングは、今この時以外に有り得ない。 
 だからこその、致命傷以外の攻撃の無視。
「代わりに――全ての致命打を防ぎ、回避する!」
 身体の端に幾つもの弾丸が掠めていく。 頬を削り、赤いダメージ判定が痛覚を刺激する。 
 如何に痛みを感じようとそれら全てを意識的に視覚から外し、姿勢を崩さなければ避けきれない致命の弾道予測線のみを見極める。
 成功できる保証なんてない。 だが、全て成功させなければ一人が多人数に勝てるわけがない――! 
 そう目を改めて見開いた瞬間、複数の発砲音がけたたましく響き渡った。

 頭部狙いの弾丸。 僅かに顔を反らし回避。
 心臓部を貫かんとする弾丸。 光剣を右から左上に払い弾き回避。
 再び頭部へ飛来する致死の一撃。 切り払った際の勢いを殺さず、流れるように振り下ろし迎撃。
 敵に肉薄。弾丸を弾いた光剣を唸らせ水平に持ち横一文字。 二人目の胴体を切断。
 しかしその隙を狙った左右からの挟撃。 一瞬反応が遅れ、正面と背後から迫る二つの弾丸を屈んで回避――いや、しきれない。 その体勢のまま無理やり剣を半月を描くように前後の弾を同時に切り払う。
「来る――ッ!」
 体勢を崩した瞬間を狙い済ましたかのように弾道予測線無しの《狙撃》が俺を襲う。 
 相手のシナリオではこれが本命の一撃なのだろう。 波状攻撃で相手の体勢を致命的に崩した後での狙撃――恐らく勝負を申し込んだあの男のモノだ。 見てからでは回避は間に合わない。 
 しかし俺は相手の狙撃タイミングが 『俺が最初に体勢を崩した瞬間』 だと既に踏んでいた。 流れるような動作で次のソードスキル――いや、僅かに 《跳躍》 して満月を描くような動作で側転し、その致死の一撃を回避する。 
 着地に再び複数の弾道予測線が襲われるが、その間際に光剣を振るい弾き飛ばす。
 しかし間髪入れずに前方からの一斉掃射が迫る。 ソードスキル 《スピニング・シールド》 のモーションを再現し複数の致命弾を弾き返すが、光剣ではかつてSAO時代に愛用していた片手直剣――エリシュデータ程の効果は見込めない。
 幾つかの弾丸が、頭部に向かって抜けてくるはずだ。
「――いや、行ける!」
 思考する直前に、声を発する寸前に、自然と身体が動いた。
 ソードスキルは姿勢を大きく崩すとスキルそのものがファンブルしてしまうが、このゲームはVRMMOであってもSAOではない。 少々無茶な体勢でソードスキルを再現しても、そのスキルが中止することはないのだ。
 俺は 《スピニングシールド》 のモーション中に身体を横に大きく逸らし、抜けてきた弾を回避する。 殆ど直感のまま動いている為数発左肩を貫通したが、構う事はない。 構えばその分痛みが増すだけだ。
 しかし慣れない体勢でソードスキルを再現し続けた為、僅かに動作が硬直しバランスを崩――いや、崩してなどいられない。 
 体術スキルである 《弦月》 の要領で回転し、サマーソルトの代わりに光剣をスナップだけで振い弾丸を打ち払う。 
 数人の弾が切れたのか、もしくは呆気に取られたのか。 弾の勢いが一時的に収まった。
 ――このチャンスを逃すわけにはいかない。 飛び跳ねるように立ち上がり、相手に向かって疾駆する。
「意味わかんねーよお前……ッ!」
 名前も知らない相手の声に構っている暇はない。 言いながらも正確に撃ってくる相手の声と同時に放たれた銃弾を最小限で弾きながら接近、流れる長い髪の中央を弾丸が貫き、勢いよく黒髪が舞い散る。
 来るな……ッ! そう聞こえた気がしたが、既に相手は目の前だ。 そのまま光剣を相手に――違う。 頭部狙いの射撃が相手の更に前方から飛来。 それを予測線込みで冷静に振り払い すぐに 《ヴォーパル・ストライク》 の構え。 そのまま相手の腹部を貫き、左方向に切り抜ける。
 どこからかどよめきが上がった。 相手の困惑だとしたらこの好機を利用しない手は無い。
 俺は切り抜けた勢いのまま次の標的に向かって――自分自身を弾丸のように射出した。


「アンタ……化け物か何かなのか? それともチーターか……?」
 戦闘は数分続き――観念したかのように、あの男が遮蔽物の先から現れた。
 俺は化け物になった事もあるし、チーター呼ばわり――いや、ビーター呼ばわりされた事もあるので返答に窮するが、今だ脳内パルスが音を立てて落ち着きを取り戻せない。
「あとはお前一人だ」
「どうやらその通りだ。信じられない事にな」
「リザインするなら――」
「すると思うか?」
「だろうな――!」
 無数の弾丸を相手の動揺もあり何とか切り抜けたが、HPゲージに余裕は欠片も無い。
 FN 5-7の弾も撃ち尽くした。 HP以外にも――俺自身の精神力も既に限界が近い。 
 早期決着。 それ以外に勝つ方法は無い。
 俺は光剣を勢いよく振り――しかし相手は持ち前の俊敏さで、それを回避する。
 しかしそれは想定通りだ。 相手が回避した所でFN 5-7――ファイブセブンを手に取る。 
 この男は俺の戦い方を研究している。 
 ならば、死銃との戦いで俺が見せた 《銃を用いた二刀流》 も知っているはずだ。 
 だからこそ、相手は出現した予測線を回避しようと動くはず――いや、現に今動いてくれた。
 だが俺の銃に今、弾は込められていない。 よって発砲モーションによる隙は発生せず、すぐに光剣による剣撃に派生する事ができる。


 かつてシノンが放ち、死銃にトドメを刺す切っ掛けになった幻影の銃弾。
 それを見様見真似で再現すると同時に隙を消し 《ヴォーパル・ストライク》 でトドメを刺す。
 幻影の銃弾と二刀流。 その二つを重ね合わせて、相手に致命的な隙を作りだした。
「これで、終わ――」
「ああ、終わりだな」
 だが、しかし。
 相手の男の冷静過ぎる声が響くと同時に。
 一発の弾丸が、飛来する。

「が……ッ!?」
 状況を理解できないまま痛覚信号と共に自分の右手に視線を送るが、それは適わなかった。
 右手が無い――直撃した狙撃銃による欠損ダメージ。 
 当然持っていた光剣は地面に落ちる。
「アンタ、オレが嘘をついてないと思ったろ? だから最初の不意打ちにも対応できた」
 そう。 試合と敢えて口をしなかったこの男を、俺は 『嘘をつかない男』 と判断した。 だからこそ俺は開幕の複数人の銃撃を予測することができたのだ。
 しかし、それは。
「そう、ある種アンタはオレが嘘をつかないと信じたから、奇襲を生き残ることができた。 だがなぁ……」
 ダァン! けたたましい銃撃音と共に、呆然とした俺の左手を吹き飛ばす。
 HPが消し飛んでしまうかと思われたが、余程欠損にのみ長けた銃なのだろう。 なんとか首の皮一枚で俺のHPは残っているが――左腕を勢いよく踏みつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
「ぐ……ぁ……」
「正直者が嘘をついた時の効果はこの通り絶大だよなぁ、キリトさんよぉ!」
 そう。 最後の最後で、この男は嘘をついたのだ。
 残っているのは俺一人だという――最大の嘘を。
 恐らく一人だけ、スナイパーを最後まで温存していたのだ。 全て、この瞬間の油断を撃ち貫く為に。
 俺はあの言葉を信じたばかりに、完全に対多人数戦から決闘へと思考を切り替えてしまっていた。 限界を超えた対多人数戦を長時間行った結果、判断力が落ちていたのかもしれない。
 男は勝利を確信したのか、人格が変わったような笑い声をあげる。
 あるいはその人格が、最大の嘘だったのか。
「アンタを倒せば前回の優勝者はチーズチャンプだって証明になる。 そうだな――その欠損した姿でもネットに流してやろうか。 はははは!」
 ――何をやっているんだ、俺は。
 これではシノンの評判を守る事には繋がらない。 シノンがこのことを知れば――故郷を嫌う要素を増やしてしまうだけだ。
 何か何かできることは――そう思った瞬間に、目の前に転がっている銃が目に入る。
 弾切れの、ファイブセブン。
 俺は這うように僅かに移動し、それを噛んだ。 
 両手が欠損した以上、俺が銃を持ちコイツと立ち向かうには――そうするしかなかった。
「おいおいついに頭もイッチャったかあ? 噛んで銃なんて撃てるわけねぇし、そもそも――」
「……」
「そもそも弾入ってねーじゃんそれ! 正気じゃねぇな優勝者さんよぉ!」
 そんなことはわかってる。
 それでもこうせずにはいられなかった。 
 俺は腕を踏みつけられた状態で、必死に土の味のするファイブセブンを噛み締める。
 男の高笑いに構わず、強く、強く噛み締める。
 すると。
 男の頭部に、弾道予測線が出現した。
「いや確かにアンタにはしてやられたし驚いたけどさ。 その嘘の予測線は一回きりのネタだろ? 弾切れってもうバレてんだから」
 その通り。 何の意味もない行動だ。 弾の入ってないとわかっている銃の予測線など、怖くもなんともない。
 だが、おかしい。
 俺は地面に這いつくばって銃を咥えているだけだ――それで、予測線が出現するはずがない。
「さあそろそろフィナーレだ優勝者! スナイパー! コイツの首を吹っ飛ばし――」
 俺は音の声が耳に入らないほど驚愕し、目を見開いてその予測線を見つめていると。

 男の首が、文字通り吹き飛んだ。
 正確無比な狙撃だ。 銃の性能と一流の狙撃屋としての技術。そして氷のような冷静さを持ち合わせていなければ、ここまでの狙撃はできないだろう。
 俺はそれを見て、深く深く溜息を吐く。
「誰にも言ってなかったのに、なんでこの場所知ってるんだよ――」
 これじゃ、幻影の弾丸じゃなくて、ただの実在する弾丸じゃないか――。
 俺はドッと疲れを感じ、銃を口から離し寝っ転がる。 
 この手にはもう、銃も剣も持てない。 この状況が安全とは、とても言い切れない。
 だが俺は心から安心して――緊張の連続だったせいか、眠るように意識を失った。
 後の事は、異様に察しのいい、相棒に任せよう――と。