シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-30

 ふぅ、と七水は街路を歩きながら、白いため息を吐いた。
 季節も冬になり、気温はすっかり寒くなってきた。
 尤も私は寒いのが苦手ではないから、一向に構わないのだけれど。

「ふぅ」

 もう一度、七水は大きなため息を吐いた。
 それに比例するように大きめの白い煙が、視界を覆う。

 かづなおねえちゃんとあの工場で再会してから、しばらく経つ。
 あの戦いの後気絶していた私が目を覚ますと、そこは誰かの背中の上だった。
 ここは何処かと聞いてみると、背負って家に連れて行っている途中だ……と言われた。
 名前の知らない人だったけど、少し怖そうな感じだったのをよく覚えている。
 隣ではペットの機械龍が、気絶したおねえちゃんを上に乗せて運んでいたっけ。

「あのペットさん、自在に大きさを変えられるのかな」

 だとすると私も飼いたい、と思う。
 それには今度おねえちゃんに、どこで買ったのか聞いてみるのが一番なんだけど……
 そんな風に頭を悩ませていると、目の前に決闘盤を装着した二人組みが現れ、進路を塞いだ。
 二人ともスーツを着ていて、サングラスをかけている。
 一人は物凄く長身で、もう一人はサングラスの下に眼鏡を掛けていた。

「青瀬七水――だな?」

 決闘盤を腕に付けながら、女の子にフルネームで名前を尋ねる。
 どこをどう見ても怪しい二人組みだ。こういう人達には関わらない方がいい……と七水は思った。

「……人違い」

 七水はさらっとそう言いながら、二人組みの横を通り過ぎようとする。
 だが、その二人組みは無言で七水の正面に移動し、その侵攻を阻んでくる。

「残念ながらその手は食わない、貴様が青瀬七水だという事はわかっている!」
「……?」
「何故なら……」

 ビシィ!と長身サングラス男が七水に向かって指を刺す。
 七水は心の中で思う。
 人に指を指しちゃダメだってお母さんが言っていた。やっぱりこの人は悪い人だ。

「貴様の靴の上には、しっかりと名前が書いてあるからだああああああ!!!」
「……!?」 

 やられた――!?と七水は心の中で相手の認識を改める。
 ただの怪しい二人組みだと思っていたけれど、ここまで凄まじい洞察力に観察眼を持っているとは……完全に予想外だ。
 足の速さには自信があったけれど、この二人から逃げられない。
 そう感じさせるのには十分過ぎるやり取りだった。
 七水の額に、やんわりと冷や汗が流れる。

「貴様には恨みは無いが、組織の命令だ。裏切り者には一緒に来てもらおう!」
「裏切り者――」

 眼鏡サングラスの男が装着した物を指でクイッと上げながら、そう宣言する。
 どうやらこの二人は『ベイン』の一員で、私を連れ戻しに派遣されたようだ。
 私なんかにこんな一流の人間をぶつけて来るなんて、ベインはよっぽど人員に余裕があるんだろうか?

「いいよ――相手になる!」

 決闘盤を装着し、スーツ男二人を睨み付ける。
 あの鋭い観察能力は、恐らく決闘でも生かしてくるはずだ。油断はできない!
 そう、七水が決意したその時

「黒服スーツの男の人が二人、決闘盤を装着しながら女の子を囲んでる。……わかりやすい状況だね、これ」

 七水の横にある塀の向こうから声が聞こえたかと思うと、バッと塀を飛び越しながら少年が現れた。
 左手のぶかぶかな手袋が印象的な、七水より少し身長が上の、明るい顔をした少年だった。

「事情よくわからないけど手伝う!さぁ決闘だ!」
「い、いきなりなんだオマエは!?俺達はサイコ決闘者なんだ、軽々しく決闘なんて……」
「へぇ、お兄さん達『も』そうなんだ。なら遠慮はいらないね!」

 ……『も』?
 七水はその言葉を聞いて唖然とする。
 サイコ決闘者の殆どはベインに所属していると思っていたけれど、この人は違うんだろうか?
 そんな七水の逡巡を無視し、少年は勝手に話を進めていく。

「でも条件!僕が勝ったら一つ聞きたい事を教えてもらう!」
「いいだろう、ならばタッグモードで勝負だ!」

 3人の決闘盤が同時に決闘モードに移行し、決闘を開始する。
 ……あれ、当事者のはずである私の意見は何処にいったんだろう?

 七水はいきなり乱入してきた少年をジトっとした目で見つめる。
 その視線に気付いた少年は何かに気が付いた様子で「ごめんごめん」と照れたように、こっちを向いて笑った。

「純也」
「え?」
「僕の名前。君は?」
「しちみ、だけど」

 それを聞いた純也は「へぇー」と感心したような顔で笑うと。

「そっか、美味しそうな名前だね!」

 と、満面の笑顔で微笑みかけてきた。
 ……タッグ決闘って、味方に攻撃できないんだっけ。