シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-63

「バトルフェイズです。<ドラグニティナイト・ゲイボルグ>で<青氷の白夜龍>に攻撃!」
「……攻撃力2000で攻撃か。迎え撃て白夜!ホワイトナイツ・ストリーム!」

 氷の龍と龍騎士。二体のモンスターが激突する。
 まともに考えれば、攻撃力の高い白夜龍にゲイボルグが勝てる道理はない。
 だが、攻撃力で勝っているはずの白夜龍の攻撃は、いつまでもゲイボルグには届かない。
「……くっ」
ゲイボルグは負けません!このカードは墓地の鳥獣族を、一度だけ力に変える事ができるんです!」

《ドラグニティナイト-ゲイボルグ/Dragunity Knight - Gae Bulg》 †

シンクロ・効果モンスター
星6/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1100
ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードが戦闘を行うダメージステップ時に1度だけ、
自分の墓地に存在する鳥獣族モンスター1体を
ゲームから除外して発動する事ができる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、
ゲームから除外したそのモンスターの攻撃力分アップする。

「つまり攻撃力は――4400か!」
 治輝はまたも、自身が越えられない線を悠々と越えていった目の前の相手に戦慄を覚える。

 何が「手を引っ張ってもらった」だ。
 心の中でそう呟き、だが不思議と、悪い気分ではなかった。

 かづなの墓地に存在する<神禽王アレクトール>が光り始め、その光は<ドラグニティナイト・ゲイボルグ>の白銀の槍へと伝わっていく。
 その槍を横に振るうと、氷のブレスは真っ二つに割けて行き、白夜龍は粉々に破壊されてしまった。

【治輝】LP2750→1350

 攻撃の余波が治輝を襲い、手を顔で覆う。
 ライフは削られたが、また勝負が決まったわけじゃない。
 かづながカードを一枚伏せエンド宣言をすると、治輝はカードをドローした。
 そのドローカードを確認しようと表にすると、治輝の動きがしばらく硬直する。
「どうしました?」
「……いや、このカードには世話になったな、と」
 しみじみと呟く治輝を見て、かづなは何かを納得したような表情になった。
 そんなかづなに居心地の悪さを覚えつつ、治輝はそのカードを発動する!

「魔法カード<死者蘇生>!!」

《死者蘇生(ししゃそせい)/Monster Reborn》 †

通常魔法(制限カード)
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「やっぱり」
 なお君なら引いてくると思いました、とでも言いたげな表情のかづなから視線を逸らしつつ、治輝は対象を宣言する。
「対象は<神禽王アレクトール>!」
「え……?」

《神禽王(しんきんおう)アレクトール/Alector, Sovereign of Birds》 †

効果モンスター
星6/風属性/鳥獣族/攻2400/守2000
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 先程治輝を苦しめた上級鳥獣族<神禽王アレクトール>が、フィールドに再び君臨する。
「あれ、おかしいです。そのカードはさっきゲイボルグが……」
「除外したはずって言いたいんだろ?これを発動していたのさ!」

《異次元(いじげん)からの埋葬(まいそう)/Burial from a Different Dimension》 †

速攻魔法(制限カード)
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

「対象は<神禽王アレクトール><ミンゲイ・ドラゴン><ドラグニティアームズ・ミスティルの3枚」
「な、なるほど……でもそのモンスターじゃ!」
「コイツの効果を忘れたのか?<神禽王アレクトール>の効果発動、ゲイボルグの効果をこのターン封印する!」

1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。

「ぬ、ぬかりないですね……」
「――俺は更にエンジェル・リフトを発動!」

《エンジェル・リフト/Graceful Revival》 †

永続罠
自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

「墓地からレベル2のチューナーである<ドラグニティ・アキュリス>を特殊召喚!そして――レベル2<ドラグニティ・アキュリス>と<神禽王アレクトール>をチューニング!」

 眩い緑の光が重なり、より濃い色へと変化する。
 すると、光は円線を描き、その線の間に、武器のようなものが一本ずつ刺さっていく。
 その武器は、既に墓地に送られていたはずのカードと酷似していた。
 
 <ドラグニティアームズ・ミスティル>
 <ドラグニティ・ブランディストック>
 <ドラグニティ・アキュリス>
 <ドラグニティ・ファランクス>
 <ドラグニティアームズ・レヴァテイン>

 五つの武器が円に更なる光を与え、中心部に旋風が巻き起こる。
 その旋風を縦に裂くように、何者かが内部から武器を振り下ろす。
 それは大きな翼を広げ、大空を支配している事を物語っていた。
 それは皮膚という名の屈強な鎧を纏い、その風格を誇っていた。

 <ドラグニティナイト・バルーチャ>
 それがかつて二人で呼び出す事に成功した。最強の龍騎士の名前だった。

《ドラグニティナイト-バルーチャ/Dragunity Knight - Barcha》 †

シンクロ・効果モンスター
星8/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1200
ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する「ドラグニティ」と名のついた
ドラゴン族モンスターを任意の数だけ選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。
このカードの攻撃力は、このカードに装備された
「ドラグニティ」と名のついたカードの枚数×300ポイントアップする。

 かづなはゲイボルグより二回り大きい龍騎士を眺め、懐かしそうに目を細める。
 かつて、治輝とかづなのタッグデュエルに、勝利をもたらしたカード。
 そのカードがかづな自身が呼び出した新たな龍騎士と対峙し、武器を構えている。
 そんな皮肉とも、運命とも言える状況の中、治輝が口を開く。 

「俺は絶対に負けるわけにはいかないんだ。こんな俺でも、俺達の話をハッピーエンドにする為に」
「……ハッピー、エンド」
 その言葉を聞いたかづなは、僅かに表情を暗くさせる。
 治輝はそんなかづなを知ってか知らずか、その言葉を続けていく。
「愛城を倒せば、おまえも木咲も安全になる!元凶のペインである俺が死ねば、木咲は助かる!それでハッピーエンドだ。みんなが笑って終われる結末なんだよ!いい加減わかってくれ!」
 この決闘が無事に終わっても、かづながそれが理解してくれない限り、また事件に首を突っ込んでしまうかもしれない。危険に身を寄せてしまうかもしれない。
 だからこそ治輝は声を張り上げた。
 だが、かづなは一度首を振り、治輝に視線を向けた。

「何が、ハッピーエンドですか」

 かづなは拳をギュッと握りながら、顔を俯かせる。
 気のせいか、その言葉をかづなが口にする度、苦しそうに顔を歪ませていた。
 それでも、かづなは喋るのを辞めない。

「何が笑って終われる結末ですか!そんなの、ただの妄想じゃないですか!」
「なっ……」
「私木咲さんのことよく知りません、知りませんけど。一度会えばわかります!そんなことで喜ぶような人じゃないって事ぐらいわかります!」
「……おまえはわかってない。アイツがどれだけ歌が好きだったのかを!」
「でもわかるんです!わかるから仕方ないじゃないですかッ!」

 治輝は内心で『無茶苦茶だ……』と呟いた。
 言ってる事で支離滅裂で、筋が全く通ってない。

「自分の為に死んでくれてありがとう、なんて木咲さんが笑って思うと本気で思ってるんですか!?だったらあなたは大馬鹿です!ミジンコです!トーヘンボクです!甲斐性無しのへっぽこぴーです!」
「……おまえ言っていい事と悪い事が」
「私だって!」

 治輝の叫ぶような反論を、更に大きな声で叫んだかづなの声にかき消されていた。
 ムッとした顔でかづなの方を見ると、治輝は息を呑む。
 かづなの瞳が、僅かに揺れていた。

「私だって、笑えません……」
 その瞳はまるで水面のようになっていて
 しかしその水面は、決して外には溢れない。
「笑えるわけないじゃないですか!だって、平和になって、その後の世界には……」
「……」
「その世界には、あなたがいません!私は嫌です!耐えられません!」
「……それはおまえが優しいからだ。でも時間が経てば」

「忘れられませんし、笑いません!ずっと引き篭もって病んで病んで病みきります!絶対に笑ってなんかあげません!!」

 かづなの瞳は、未だ激しく揺れている。
 だが、その視線は揺らがない。
 向いている方は、見つめている人物は、たった一方向で、ただ一人。
「だから、ハッピーエンドにしたいのなら、もっとあがいてください!」
「馬鹿、その方法がないから、こうやって……」
「元凶となった『ペイン』と患者さんの距離があれば症状が僅かに治まる事もあるって聞きました!」
「地球の反対側まで行って検証したアレだろ!?それで僅かしか収まらないなら、いつになるかわからない!」
「だったらロケットに乗って宇宙にでも行って来ればいいじゃないですか!その間に木咲さんは治ります!」
「そんな金は無い!無茶苦茶言ってるぞおまえ!?」

 言葉と言葉の応酬。
 二人とも後半は何を言っているのかわからず、ぜいぜいと息を乱す。
 早く呼吸を整えた治輝は、落ち着きを意識しつつ声を絞り出す。
「確かに、ペインの力は色々な所が未知数だ。可能性はあるかもしれない……だけどな」
「……」
「それがいつになるかわからない、じゃ駄目なんだ。これ以上木咲を苦しめるわけにはいかない!」

 治輝の言葉を引き金にして、<ドラグニティナイト・バルーチャ>は武器を構える。
 龍騎士同士の戦いの、最後の幕が
 今正に、切って落とされようとしていた。