シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル episode-22

 かづなは特殊召喚された<ドラグニティ・ファランクス>を満足そうに眺めた。

「なお君、タッグルールだと、パートナーのEXデッキは好きに使っていいんですよね?」
「あぁ、確かにそんなルールもあったな」
「じゃあレベル2のファランクスに、レベル4の<コダロス>をチューニング!」
「……ちょ、何する気だ?」

 治輝はそう言いながらも、その通りの操作を決闘盤の操作をする。
(我侭言ってごめんなさい。でも、これだけは譲れない……!)
 かづなは決意を胸に、高々と口上を叫んだ。

「全てを砕く絶氷の牙。その咆哮にて、無限の吹雪を巻き起こせ!シンクロ召喚、吼えて!<氷結界の虎王ドゥローレン>ッ!!」
「!?」

《氷結界(ひょうけっかい)の虎王(こおう)ドゥローレン/Dewloren, Tiger King of the Ice Barrier》 †

シンクロ・効果モンスター(準制限カード)
星6/水属性/獣族/攻2000/守1400
チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
カードを任意の枚数手札に戻すことができる。
このカードの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで、
この効果で手札に戻したカードの枚数×500ポイントアップする。

 七水は今度こそ、驚きで体を硬直させてしまう。

「七水ちゃんがくれたカードです。勿論覚えてますよね」
「……」
「なんで、見ず知らずの私にくれたんですか?」
「それは……その子が原因で、あの子に怪我させちゃったから。その子を制御できる自信が、もうないから……」

 それを言ったきり、七水は黙り込んでしまう。
 佐光の顔色が怖くて、ではない。
 これ以上話したら、決心が鈍ってしまうような気がしたから
 でも、かづなは軽く微笑みながら、話を続けていく。

「七水ちゃんは、優しいんですね」
「え……」
「もうこれ以上、誰かに傷付いて欲しくないって、そう思ってる」
「……そんなんじゃないよ」

 否定の言葉を浴びても、かづなの瞳は揺るがない。

「違わないですよ。傷付けても構わないって言うんなら、制御できなくたって使っちゃえばいいんです」
「……」
「それをしないって事は、七水ちゃんは優しいんですよ」

 七水は、かづなの言葉に反論ができない。
 でも、それに賛同する事もできない。
 
「だから、七水ちゃんはやり直せます。なんせ優しいんですから」
「……無理だよ、もう戻れない。戻れっこないよ」

 それだけは、七水は身に染みてわかっていた。
 あの視線を再び受ける自信なんて、もう何処にも残っていなかった。
 佐光がそこで、不愉快そうに話に割り込んでくる。

「――決闘中です。ライトルーラーに勝てないからと言って、人を惑わすような事を言うのはやめてもらえませんか?」

 それを聞いたかづなは、隣の治輝に軽く目配せをした。
「はいはい」と呆れながら治輝は決闘盤を操作する。
 一時的にかづなの決闘盤で、治輝のディスクを操作できるよう設定したのかもしれない。
 そしてかづなは大きな声で、叫んだ。

「<氷結界の虎王ドゥローレン>の効果発動!フリージング・リインフォース!」

 効果名を高々に叫ぶと、異変が起こった。
 治輝の場に存在する氷虎は、先程の<ドラグニティナイト・バルーチャ>が巻き起こした旋風に匹敵する程強烈な雪崩を巻き起こす。
 ただの雪崩ではない。
 雪崩とは本来、山岳部の斜面上に降り積もった雪が重力の作用により、早い速度で移動する自然現象だ。
 だが、この雪崩は違う。
 氷虎が起こした雪崩は逆なのだ。天地の法則に逆らい、天空へと舞い上がっていく逆転の雪崩。
 <氷結界の虎王ドゥローレン>がもう一度猛々しい咆哮を上げると、バルーチャの周りに浮かんでいた武器が、その叫びに呼応するように上空へと飛翔する。
 その武器達は眩い閃光となり、治輝の決闘盤へと吸い込まれていく。

 そして

【氷結界の虎王ドゥローレン】攻撃力2000→4500

「――攻撃力4500?!馬鹿な、有り得ない!」
 佐光が驚きのあまり声を荒げる。
 一瞬で攻撃力を上昇させた氷虎の皮膚に、オーロラのような光が付着する。
 この瞬間、確かに<氷結界の虎王ドゥローレン>は
 最強の天使族である<アルカナフォースEX THE LIGHT RULER>を超えていた。

「手札に戻したのは<竜の逆鱗>と<デブリドラゴン>!そしてなお君が召喚した<ドラグニティナイト・バルーチャ>が墓地から装備したモンスターさん達です!」

 ブランディストック
 アキュリス
 パルチザン
 
 一度は墓地に送られたはずのモンスター達は、龍によってフィールドに舞い戻り。
 氷虎によって最強の相手を倒す為の光となり、再び天空という名の手札へと舞い上がる。

 そんな美しい光景に、七水はただ見惚れていた。
 かつて自分が使っていた氷虎が巻き起こした、逆転の雪崩に。
 見た事のない龍が巻き起こす、全てを吹き飛ばす旋風に。 
 風龍と氷虎が共闘する、圧巻の相手フィールドに。
 そして、かづなは台詞を繰り返す。
 
「七水ちゃんはやり直せます。どんなにどん底に落ちたって、また元に戻れます」
「……」

 その声は、七水の芯の部分に染みていく。
 まるで何も聞こえない無音の世界で、かづなの声だけが辺りに響き渡っているような、そんな感覚。
 私もあのドラゴンさん達のように、元に戻れるのかな……?

「バトルフェイズです!<氷結界の虎王ドゥローレン>で、<アルカナフォースEX THE LIGHT RULER>に攻撃っ!」

 <ドラグニティナイト・バルーチャ>が巻き起こした旋風が、<氷結界の虎王ドゥローレン>の体を包み込み、凄まじいスピードで氷虎は敵モンスターへと突進していく。
その旋風はやがて吹雪へと変化していき、そして

「――――フロストファング・ブリザードっ!」

 一閃。
 氷虎の牙が<アルカナフォースEX THE LIGHT RULER>を捕らえたかと思うと、目にも留まらぬ速さで佐光の遥か後方まで走り抜けていた。
 ズッ!と、空間が切断されたような音が聞こえる。
<アルカナフォースEX THE LIGHT RULER>は次の瞬間、その切断面の通りに真っ二つに裂かれ、消滅した。

【佐光&七水LP】2000→1500

 佐光はその最後を見届け、呆然と膝を折りその残骸を眺めている。
「まさかあのお方のカードが……そんな……」

 かづなは先の攻撃で満足したのか、決闘盤の操作権を治輝へと譲渡する。
 この決闘の決着を、付ける為に。
 
 治輝は新しい力――『ドラグニティナイト』の姿を改めて眺める。
 かづなとも、七水とも違う。複雑な表情でそれを見つめた後、攻撃宣言をした。
「トドメだバルーチャ!プレイヤーに――ダイレクトアタック!」

 佐光に向かって、<ドラグニティナイト・バルーチャ>の最後の攻撃が放たれる。
 七水はそれを見守り、佐光がその攻撃に絶望し跪いた。
















 
 だが、直撃する寸前。

 ズガアアアアアアアン!
 突如、工場の天井が崩れた。
 それに一早く気付いた治輝は<ドラグニティナイト・バルーチャ>の旋風を上空へと飛ばし、瓦礫を吹き飛ばす。残った瓦礫からかづなや七水を守ろうと、リストバンドに意識を集中させ――――

 ゴッ!!!と
 次の瞬間、恐ろしい程の衝撃が治輝を襲った。
 照明機器が壊れてしまって視界が十分ではないので、その正体はわからない。

「瓦礫と一緒に、何かモンスターでも落ちてきたのか……?」
 
 そのモンスターが俺に攻撃を仕掛けてる……という事なら説明がつく。
 そう考えた治輝はリストバンドに更に力を込め、戒斗と戦った時と同じように前方に意識を集中させた。
 だが、幻魔の攻撃すら一度は防ぎきったその防壁が、ミシミシと音を立て始める。

「が――――ー!?なんだ、これ……!」


 パリィィィィン!と。
 次の瞬間、治輝の決闘盤――――ペインの攻撃から身を守る為の盾である、特製のリストバンドは。
 音を立てて、あっけなく粉々に砕け散った。